なぜか苦戦が続くヘッジファンド。その理由を探る

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 市場の環境とは関係なく高いリターンを叩き出すといわれ、一部では悪の権化のように批判されてきたヘッジファンドだが、このところ投資成績が振るわない。

 米国の著名な投資家であるジョン・ポールソン氏が率いるヘッジファンドは、一時50%近いマイナスの運用成績となり、顧客資産の大量流出が懸念されている。同氏のファンドは、サブプライムローンの破綻や金価格の高騰を先取りした戦略で驚異的なパフォーマンスを上げていたが、最近では銀行株などへの投資に失敗し運用成績が低迷していた。
 その他のヘッジファンドもここ1~2年の運用成績は非常に悪く、ダウ平均などのインデックスを下回るところも少なくない。
 ヘッジファンドの重鎮であったジョージ・ソロス氏はこの状況を見越していたのか、昨年7月に顧客からの預かり金の返却を表明し事実上引退している。

 欧州危機や中国経済の失速など不透明要素はたくさんあるものの、ここ1~2年の株式市場は比較的安定に推移してきた。それにもかかわらずヘッジファンドの成績が不振なのはなぜだろうか?その理由は市場のボラティリティの低さにある。つまり相場が大きく動かないことが成績不振の原因となっているのだ。

 どのような市場環境でも利益を出すことができるはずのヘッジファンドがなぜ儲からないのか?その原因は、ヘッジファンドが用いている投資手法を理解すればおのずと明らかになる。

ヘッジファンドの基本的な投資手法は5種類
 ヘッジファンドは今から60年ほど前に登場したといわれている。株式の「買い」と「売り」を組み合わせ、市場の変動に関わらず一定のリターンを確保する手法として注目された。現在でも伝統的なヘッジファンドは「買い」と「売り」を組み合わせた投資手法を用いている。
 だがその後、様々な運用手法が開発され、市場の変動に関係なく絶対的なリターンを追及するファンド、あるいはリスクを取って高いリターンを目指すファンドのことを総称してヘッジファンドと呼ぶようになった。
 ヘッジファンドには無数の投資手法があるが、主流となっているのは以下の5種類である。

 ①ロング・ショート
 ②マーケット・ニュートラル
 ③アービトラージ(裁定取引)
 ④グローバル・マクロ
 ⑤イベント・ドリブン

売りと買いの組み合わせはヘッジファンドの古典的手法
 ロング・ショートは上記で説明したようなヘッジファンドの伝統的な投資スタイルであり、株式の「買い」と「売り」を組み合わせて投資を行う。割高と思われる株を売り、割安と思われる株を買えば、その価格が是正されることによって利益を出すことができる。

 市場全体が下落しても、割高な株の方が割安な株よりも下落幅が大きいため、売り買いを差し引きすると利益が出る仕組みだ。もっとも「股裂き」といって、割高銘柄がさらに上昇し、割安銘柄がさらに下落することもある。そうなると一気に損失幅が拡大する可能性もある。

 実際の運用では、割安株の組み入れ比率を上げて、市場が上昇する時に大きな利益が出るようにポートフォリオを組むファンドが圧倒的に多い。結果的に相場の上昇が続かないと高いパフォーマンスを得ることはできないことになってしまう。

 これに対してマーケット・ニュートラルは市場全体の動きに影響を受けないようポートフォリオを調整するタイプの投資スタイルを指す。売りの銘柄も買いの銘柄も、市場全体の動きからの感応度が同じになるように選定を行う(ベータ値をゼロにする)。これによって市場が上がっても下がっても、割高、割安さえ的中できれば利益を出すことができる。
 理論的には確かにそうなるのだが、市場からの影響を完全に排除するこはなかなか難しい。市場からの感応度は変化してくるからだ。しかも割高、割安からしか利益が得られないので、この投資スタイルではあまり高いリターンを得ることができないのが普通である。

一点賭けするリスキーなスタイル
 アービトラージ(裁定取引)は、同一銘柄における価格差を利用して鞘取りを行うスタイルのことを指す。たとえば国債には短期から長期までいくつかの種類があるが、通常は長期になるにしたがって金利が上昇する(価格が下落する)。だが一時的にこの関係が崩れるときがある。例えば長期国債の金利が想定以上に高くなった場合には、その長期国債を買い、短期国債を売る。価格差が是正されると利益が出る仕組みである。このほか、先物と現物の価格差、同一銘柄の複数市場での価格差、国ごとの価格差なども裁定取引の対象となる。

 グローバル・マクロは、世界各国の株式、為替、債券、コモディティといった商品に幅広く投資し、相場のトレンドや価格のひずみなどを利用して利益を上げる投資スタイルである。

 ジョージ・ソロス氏の投資スタイルは典型的なグローバル・マクロといってよい。同氏は1992年、英国政府の為替介入に際してポンドが割高と判断。ポンドの空売りを行い莫大な利益を上げた。最近ではコモディティ価格の上昇が続くと判断し、銀のETFを大量購入。高値で売り抜けている。

 グローバルマクロは、各国の多数の商品に投資するという点で違いはあるが、基本的な相場の張り方は、日本の古典的な投機筋(仕手筋)とあまり変わらない。上がるから買う、買うから上がるという理屈である。あまりリスクヘッジをしていないファンドも多く、読みをはずしてしまうと巨額の損失を計上してしまう。

市場の出来事(イベント)を利用する手法も
 イベント・ドリブンは企業のM&Aや金融危機など、ある出来事の発生で市場が大きく動いたときに生じる価格のひずみを利用して利益を得るスタイルである。
 企業が巨額の買収を発表すると、その資金負担が嫌気され価格が下落したり、買収される会社の株価が異常に高騰したりする。しばらく時間が経過すると皆が冷静な判断をするようになり異常価格は是正されてくる。イベント・ドリブンのファンドはその時間差を利用して利益を上げる。日本の相場用語でいうところの「材料に投資」するという考え方に近い。

 金融危機の際にもイベント・ドリブンの手法は活用できる。リーマンショックの際には、市場がパニックを起こし、優良企業の株や債権まで暴落してしまった。利益を上げたイベント・ドリブンのファンドは、このような時に買いを入れ、市場が落ち着きを取り戻して価格が戻ると売却を行う。冒頭で触れたポールソン氏のファンドも、リーマンショック時に大きな利益を得ている。
 イベント・ドリブンもグローバル・マクロと同様、ある一方向に集中して投資する傾向が強い。利益を上げる時と損失を出すときの落差が激しく、ハイリスク・ハイリターンである。

市場が安定しているとヘッジファンドは儲からない
 ヘッジファンドは市場の環境に左右されず絶対利益を狙うファンドと定義されているが、上記の各投資スタイルを見てみると、市場の影響を受けない手法というものは実はあまり存在していない。マーケット・ニュートラルやアービトラージは比較的市場の影響を受けにくいが、その他の手法は市場そのものの影響が極めて大きい。
 ロング・ショートの場合には、長期的な上昇相場であることが何よりも重要である。またグローバル・マクロは市場のボラティリティ(変化)が大きく、複数商品で激しく資金が行き交う状況でないと大きな利益は見込めない。イベント・ドリブンも市場が安定していると、思いのほか成績を上げられないのだ。

 リーマンショック前後と比較して、ここ1~2年の市場は不透明だが安定している(図1)。特にリスクを嫌った資金が債券に殺到し世界的な低金利が続いている。債券と株式の間で資金が移動しないため、株式市場の動きも緩やかだ。上昇はしているものの変動幅は小さい。原油や金などのコモディティも同様である。

 ヘッジファンドが利益を上げられない原因は、この市場の安定性にある。結局のところヘッジファンドも相場師であり、基本的には相場が動かないと儲からないのである。
 だがヘッジファンドが冬の時代もそろそろ終わるかもしれない。各国の中央銀行による相次ぐ金融緩和によって、地下にたまったはマグマは確実に膨張を続けているからだ。
 市場に溢れたマネーが、局地的なバブルを引き起こすのか、世界的なインフレをもたらすのかは誰にも分からないが、次に市場が大きく動く時には、ヘッジファンドが再び息を吹き返してくることだろう。
 もっとも、浮き沈みが激しいヘッジファンド業界の現状を考えると、次に台頭してくるヘッジファンドは、今、名前が知れている人たちではないのかもしれない。

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