ルネサス復活の条件

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 経営再建中のルネサスエレクトロニクスに対して、産業革新機構がトヨタ自動車やパナソニックなど国内メーカーと共同で2000億円の出資を行うことが明らかとなった。

 2012年6月末現在の同社の手持ち資金は約800億円、4~6月期の純損失は約200億円なので、今のペースで赤字が続くと年度内にはキャッシュが底を突いてしまう。とりあえず2000億円の出資が決まったことで、当面の資金は何とか手当てが付いた格好だ。

 だが、同社復活のカギとなる事業の再構築はまったく進んでいない状況だ。
 10月3日には希望退職を募り7500人がこれに応募した。だが全員を解雇したとしても年間500億円程度のコスト削減にしかならない。同社が慢性的な赤字体質から脱却するためには、ビジネス・モデルの抜本的な見直しが必須である。

半導体メーカーの戦略は二つしかない
 そもそも、ルネサスエレクトロニクス(東証1部:6723)はなぜこのような状況に陥ってしまったのだろうか?日本人の多くが、日本のモノ作りは世界最高と耳にタコができるくらい聞かされている。世界最高の技術なのに経営危機という矛盾した状況に、違和感を感じている人も多いはずだ。

 同社は主に3つの事業分野で構成されている。マイコン、アナログ&パワー、システムLSIの3つである。このうち十分に利益が出ているのはマイコンだけといわれている。アナログ&パワーはトントンだが、システムLSIが全体の足を引っ張っている。

 半導体は価格の値崩れが激しい商品である。最初は付加価値が高くても、急激に価格低下が進み、すぐにコモディティ商品になってしまう。半導体の世界で生き残るためには、常に付加価値の高い製品を高い値段で売り続けるか、徹底的にコスト削減を行いコモディティになった製品を安く売るかのどちらかしかない。

 高付加価値の製品を高い値段で売り続けることができる半導体メーカーは、米Intel(NASDAQ:INTC)など世界に数社しかない。他の会社は程度の差こそあれ、コモディティ化に対応すべくコスト削減を徹底的に進めなければならない。だがルネサスはコモディティ・ビジネスを行うにはあまりにも高コスト体質なのである。同社が利益を出せない理由はすべてそこにある。

ルネサスの高コスト体質は明らか
 ルネサスの高コスト体質は数字で見るとより鮮明になる。図1は同社のマイコン分野での競合相手である独Infineon Technologies(XETRA:IFX.DE)、米Freescale Semiconductor(NYSE:FSL)、仏・伊STMicroelectronics(NYSE:STM)の各社と、ルネサスの製造原価率および販管費率を比べたものである。ルネサスは製造原価においても販売管理費においても、競合他社より圧倒的にコストが高い。これでは利益が出なくて当然だ。

 高コスト体質の原因は、人件費が高いこと、社員数が多いこと、技術開発に過剰な投資をしていることの3つが考えられる。同社の売上高に対する研究開発費の比率は20%だが、Freescaleは17%、Infineonに至っては10%だ。

 同社は旧ルネサステクノロジ(日立と三菱の合弁会社)とNECエレクトロニクスが合併して誕生した会社だが、同社の原価率や販管比率は合併以前の状態からほとんど改善していない。
 図2はNECエレクトロクスと現在のルネサスエレクトロニクスの営業損益、原価率、販管比率の推移を示したものである。本来は合併によって相乗効果が得られるはずだが、販管費はむしろ悪化の一途を辿っている。コスト削減は進めてはいたものの、価格低下による売上げ減少に追いついていないのだ。

 そもそも同社を誕生させた目的は、半導体の付加価値低下に対応するために、電機メーカー各社の事業部門を統合し規模のメリットを追求することであった。だが現実には旧態依然の経営を続けていただけだった。


車載用マイコン分野に注力するための条件
 ルネサスは、今後、利益率の高い車載用マイコン分野に注力していくことを表明している。もしそうであるとするならば、すべてのリソースを車載用マイコンにシフトし、システムLSI部門は徹底的にリストラを進めなければならない。
 なぜなら、車載用のマイコン市場はすでに飽和状態で、他の部門の余ったリソースを補う程の成長は見込めないからである。
 矢野経済研究所の調査によれば、車載用半導体市場の市場規模は2兆円弱、8年後の2020年でも3兆円程度にしかならない。実はマイコン市場は「小さな」マーケットなのだ。これに対してルネサスの売上げは約9000億円もある。今後大きな伸びを期待することは難しいだろう。伸びない市場の中で、特定分野に集中するためには、社内体制を抜本的に変える以外方法はない。

 一部のマスコミではシステムLSI事業の分離が提唱されているようである。だが、ビジネスの現場ではマイコンと一緒にシステムLSIが提供されることも多く、両者を完全に分けることは得策ではない。あくまで車載用マイコンを中心に事業を再構築し、システムLSI部門は徹底的にリストラするというのがスジである。

 リストラにあたって大きな障害となるのが、研究者を含めたホワイトカラー層の取り扱いである。聖域なき事業再構築を実現できるのか?ルネサスの将来はすべてそこにかかっている。

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