再上場したJALを検証する

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 新生JALが東京証券取引所に再上場して1週間が経過した。2010年1月の会社更生法の申請からわずか2年8ヶ月。異例のスピード再生、スピード上場となった。だが再上場に成功したJALには早くも各方面から異論が噴出している。税金を使って救済され、しかも法人税が免除されている会社が高利益体質になってめでたく上場するのはいかがなものか?というわけだ。
 確かにJALの2012年3月期における経常利益は約2000億円とANAの3倍近い水準である。同社の稲盛名誉会長は「利益体質になったのは自助努力の結果であり、それを不公平というのはアンフェアである」と不満を表明している。
 では利益体質になったJALの株は買いなのか?一見、筋肉質になったかに見えるJALだが、グローバルな水準で見るとまた別の顔が見えてくる。また日本においてもLCCの本格普及が始まるなど、航空マーケットは変化しつつある。再上場したJAL株の今後について検証した。

JALの劇的な復活劇。だがの裏側は?
 日本航空(東証1部:9201)の復活劇については、京セラのカリスマ創業者であった稲盛名誉会長のイメージも重なり、半ば神話化されている面がある。
 確かに現場の末端まで採算意識を徹底させた稲盛氏の功績は大きいかもしれないが、マクロ的に見れば、不採算路線から撤退し、普通の航空会社に戻っただけというのが実態だ。

 JALはこれまで半ば国営企業だったため利権の温床であった。政治家や地域の有力者の意向を無視することができず、採算を考えずに路線を拡大してきた。そのような半官半民企業の常として活発な組合活動があげられるが、JALの場合は特に異常で6つもの組合が並存していた。この頑強な組合活動がネックとなってリストラが一切進まず、高コスト体質が維持されてきた。
 また燃料の購入や機材のリースなどにおいても、コストを下げる意識がまったくなかったことから、極めて高い価格で契約させられていた(航空ジャーナリスト)。

 稲盛氏が就任してから、JALは不採算路線を徹底的に見直して機材の統一を進めた。
 図1は旧JALと新生JAL、そしてANA-全日本空輸(東証1部:9202)の経費内訳である。新生JALでは、不採算路線から撤退したことにより、売上げが30%以上減少したが、不採算路線という足かせがなくなったため燃料効率は上昇した。この結果、3割近く占めていた燃料費を2割まで削減することに成功したのである。


 だが、人件費や機材費については、路線を縮小した分、絶対値としては下がっているものの、経費に占める割合はあまり変化していない。苛烈なリストラを実施したイメージがあるが、新生JALの経費構造はANAと似通っており、ようやく当たり前の状態に戻っただけというのが実情なのである。

 JALほどではないが、ANAにも政治的なしがらみは存在し、それは今でも継続している。だが新生JALは企業再生支援機構による処理が行われたおかげで、そのしがらみから開放されている。ANAにしてみれば、JALは苛烈なリストラをしたわけではなく、政治的にやっかいな案件を全部ANAに押し付けたということになる。ANA関係者から不公平だと不満が出るのにはこういった背景もある。

日本の航空会社は例外なく高コスト体質
 ようやく通常の状態に戻ったJALだが、グローバルな視点で見るとまた違った光景が目に入ってくる。図2は各国の航空会社における単位あたりの売上げとコストを示したマトリックスである。単位には座席キロ(座席キロ=1人分の座席を1キロ運行する輸送容量のこと)を用いている。

 グラフは右に行けば行くほど売上げが大きいことを示している。また上に行けば行くほどコストが高いことを示している。つまり右に行くほど航空運賃が高く(競争がなく消費者が損をしている)、上にいくほど高コスト体質(株主が損をしている)ということになる。


 これを見るとJALばかりでなく、日本の航空会社の高コスト体質は突出していることが分かる。新生JALは旧JALと比べるとかなり改善はしているものの、全体として見れば、デルタ航空(NYSE:DAL)や英国航空(LSE:IAG)など世界的メガキャリアと比較してかなり高い。ライアンエア(NASDAQ:RYAAY)やエアアジア(MYX:5099)といったいわゆるLCCとは比較の対象にならないくらいの差がついている。
 これはJALやANAだけの問題ではない。日本における格安航空会社のさきがけとなったスカイマーク(マザーズ:9204)ですら、諸外国の航空会社と比較すると高コスト体質であり、これは日本全体の現象といえる。

高コスト体質の背景には役所の利権が
 では日本の航空会社はこんなにも高コストなのになぜ経営していけるのだろうか?それは運賃が高いからである。図からも分かるように、日本の航空会社は高コスト体質であると同時に高額運賃なのである。LCCはもとより、海外メガキャリアよりも1.5倍近く運賃が高い。
 運賃が高いということは、それは消費者が負担していることにほかならない。日本の航空業界は、消費者にすべての負担を押し付け、全体で高コスト体質を維持している業界なのである。

 当然のことながら、このような業界体質になっているのは、政府の航空行政にその原因がある。

 日本は、着陸料、空港施設利用料、空港ビル使用料などが極めて高額である。空港に関連した行政組織とそのファミリー企業、さらにそこから業務を受注する業者の収益を維持するため(もっと分かりやすくいえば、関連団体職員の雇用と公務員の天下り先を確保するため)に、航空会社に高いコストを支払わせている。
 航空会社はそれではやっていけないため、政府は路線の新規参入を厳しく規制して競争が激化しないようにしている。航空運賃が高止まりしているにはこのような背景がある。日本の航空業界は、典型的な既得権益層によるガラパゴス社会なのである(写真右は驚異的な低コストを実現しているLCCのAirAsia)。

JALへの投資は日本のガラパゴス行政の継続にかける丁半バクチ
 グローバルな視点から眺めてみると、JALが税金投入で再生し利益体質に変貌したことがアンフェアであるといった議論は、単なる内輪揉めにしか過ぎないことが分かる。この問題に関連してANAとJALの合併論が再び議論されているが、両者を合併したところで、高コスト体質が変化するわけではなく、根本的な解決にはならない。

 最近話題となっているLCCも大きな変化をもたらすとは考えにくい。エアアジアジャパンとピーチはANAの子会社、ジェットスターはJALの関連会社であり、親会社の利権を直接破壊するような路線展開や運賃攻勢をかけることは、原理的に不可能だからである。

 JALが投資対象として魅力的なのかどうかは、同社の経営戦略ではなく、日本の航空行政という政治的問題にすべて依存している。日本の航空行政が今後も変わらないのであれば、JALとANAの高額運賃は維持されることになる。競争原理が働かなければ、過去の膿を強制的に排出させられ「身軽」になったJALの方が圧倒的に有利であることは明らかだ。
 JALの目下最大のリスクは、ANAとの対比で何らかのペナルティが課せられることである。自民党はすでに法人税免除の廃止や設備投資などへの制限などを政府に要求している。
 
 JALへの投資は、日本のガラパゴス行政が継続し、JALには政治的圧力が加わらないことに賭ける、一種の丁半バクチであるといえるだろう。

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