可能性高まる日中韓の軍事衝突。市場はどう反応するのか

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 日本と中国、韓国の間で表面化した領土問題は、短期的には沈静化の方向に進みつつある。だが長い目で見た場合、両国との関係は、もはや後戻りできる状況ではなくなってきている。
 これまでの日中関係や日韓関係は、圧倒的な経済力を持つ日本に対して、中韓両国が過去の戦争責任を交渉材料に援助を引き出すという基本構造であった。
 だが日本と中国の経済規模は逆転し、韓国の成長も著しい。また日米安保体制は事実上日本側から同盟を放棄するような状態となっており、戦後の枠組みは完全にパラダイム・シフトした。中国は覇権主義的な色合いを強めており、韓国はナショナリズムが高揚している。両国が譲歩する可能性は極めて低い。

 このような中、政府や防衛省内部では、日中、日韓の軍事衝突に関するシミュレーションが始まっているといわれる。米国もかなり以前から日中軍事衝突に関する分析を行っている。これまで日本の投資家は、自国の地政学的リスクとは無縁の存在であった。だが時代は大きく変わった。日中、日韓の軍事衝突が現実化した場合のシナリオも頭の中に入れておく必要が出てきたのである。
 
局地的な紛争であれば日本が圧倒的に有利
 日本と中国、あるいは日本と韓国が島の領有権をめぐって全面的な戦争に突入する可能性は極めて低い。だが島の実効支配権を確立することを目的とした局地的な紛争が発生する可能性は高まっている。
 では日本が中国あるいは韓国と局地的な戦争を行った場合、その結果はどうなるのだろうか?応えは拍子抜けするほど簡単で、現状の戦力であれば日本の圧勝となるというのが、ほとんどの専門家の見解である。

 まず日本と中国を比較してみる。軍事費の総額で見ると中国の存在感は圧倒的である。ドルベースの軍事費は中国が1400億ドル、これに対して日本は600億ドルである。また海軍の主要装備だけを比較すると中国が約1000隻の艦船を保有しているの対し、日本は70隻となっている。

 だが問題となるのはその中身である。中国は軍の近代化を急ピッチで進めているが、全体としては旧世代の古い装備が中心である。
 日本は6隻のイージス艦を配備しているが、中国で同水準の攻撃力を持つ艦船は存在しない。

 イージスシステムを活用すると複数の艦船や航空機がシステム上で連携され、極めて高い攻撃能力を発揮する。また自衛隊は米軍との共同訓練を数多く経験しており、高度な運用能力も習得している。中国の軍事専門家の中からも、現在の中国海軍の能力では日本の自衛隊には及ばないとする声が上がっているくらいだ。

 では韓国はどうか?韓国は日本と同じ近代化された軍隊なので、軍事費の差がそのまま能力差になっている可能性が高い。韓国はようやく3隻目のイージス艦を配備させたばかり。運用能力を磨くのはこれからだ。
 よほどのことがない限り、戦術レベルでは日本が圧倒的に有利な立場にあるようだ。

東シナ海と朝鮮半島をめぐる情勢は100年前から変わっていない
 では領有権をめぐる局地戦争が発生した場合に、株式市場はどう反応するのだろうか?
 戦後の「平和」な時代においては地政学的リスクは株式市場にとってマイナス要因でしかなかった。だが自国に戦争が発生した際には、必ずしもそうとは言い切れないのだ。戦後日本には自らが当事者となる戦争経験がない。ここは、歴史と他国のケースを参考にする必要があるだろう。

 東シナ海や朝鮮半島をめぐって日本が行った戦争といえば日清戦争と日露戦争である。100年以上も前の出来事であり、総力戦に近かった戦争であることを考えると、ほとんど参考にはならないと思う向きもあるかもしれない。だが必ずしもそうではない。時代が変わっても、朝鮮半島をめぐる各国の利害関係はほとんど変化していないからである。
 
 地政学上、日本は朝鮮半島と東シナ海をめぐって中国やロシアと利害が対立する宿命にある。それは現在もまったく同じである。また東シナ海情勢にアングロサクソンが深く関与している点も同様である。当時と違っているのは、韓国が準先進国の仲間入りをしたことと、アングロサクソンの盟主が英国ではなく米国であるという点だけだ(当時は日米安保条約と同様の機能として日英同盟が存在した)。

日清戦争と日露戦争は巨大な株式バブルを引き起こした
 図1は日清戦争と日露戦争の前後5年間の株価推移を示したものである。開戦の月をゼロとして、そこからの月数を記載している。戦争期間中のグラフはオレンジ色になっている。
 日清戦争は9ヶ月、日露戦争は1年7ヶ月で終結しているが、開戦前後や戦争中は、戦争そのものを嫌気して株価は下落している。だが日本が勝利して戦争が終結するとバブル的な高騰を見せた。

 日清戦争の時には清から巨額の賠償金を受け取ることができたため、金本位制に移行して近代的な通貨システムを整備することができた。賠償金の受け取りが始まる頃が株価のピークとなり、受け取りが完了した時にはすでに株価は大幅に下落している。
 また日露戦争の時には、大陸進出のシンボルでもあった南満州鉄道(満鉄)の株がIPO(新規公開)となり大変な株式ブームが起こった。だがバブルはいつの時代も同じで、満鉄株のIPOが株価のピークであった(参考記事:「日清・日露戦争当時の株価を検証する」)。

長期にわたって株価にプラスの影響を与えたフォークランド紛争
 島の領有権をめぐって局地的な戦争を行ったケースとしては、1982年に発生した英国とアルゼンチンのフォークランド紛争が有名である。
 クーデターによってアルゼンチンの政権を掌握したガルチエリ大統領は、突如フォークランド諸島の領有権を強く主張し軍隊を上陸させた。英国は激しく反発し、空母機動部隊を派遣し戦争となった。英国は主力艦船4隻を失うなど大きな被害を出したが、島への逆上陸に成功し、3ヶ月という短期間で戦争を終結させた。

 図2はフォークランド紛争前後の英国の株価推移である。フォークランド諸島自体が英国から遠い地域であることや、局地戦争であったことなどから株式市場はあまり動揺せず、戦争期間中もじわじわと株価が上昇した。

 英国がフォークランド紛争に費やした戦費は約30億ポンド。当時の英国のGDPは2380億ポンド、国家予算は905億ポンドなので、現在の日本に当てはめれば約3兆円から6兆円程度の規模である(参考記事:「戦争と経済の真実-戦争にはどのくらいの経費がかかるのか?」)
 戦争への出費が景気浮揚効果をもたらすと同時に、戦争に勝利したことで、既得権益の見直しと規制緩和路線(小泉政権においてモデルとなった政策のひとつ)を進めていたサッチャー政権への支持が急上昇し、株式市場はプラスに反応した。「ゆりかごから墓場まで」といわれた手厚い社会保障政策が見直された85年には株価は倍近くまで上昇している。

ビジョンがないままの戦争突入は危険
 フォークランド紛争は、戦争を政権運営のツールとして有効活用できた教科書的なケースといえるだろう。つまり、戦争は戦争そのものではなく、その後のオペレーションの方が大事なのである。
 その点を考えると日本の戦争は失敗が多かった。日清戦争後には反動不況が起こり、近代化以降、初の本格的な恐慌を引き起こした。また日露戦争では満州の権益配分をめぐって米国の反発を買い、最終的に太平洋戦争の遠因を作ってしまっている。

 歴史や他国のケースに学ぶなら、日中韓の軍事衝突が発生した場合には、軍事衝突の結果そのものではなく、その後の対応こそが重要ということになる。
 局地的な紛争には勝利することができても、その後の国際情勢が日本に有利に働く保証はどこにもない。戦争は外交の延長ともいわれる。国際社会において戦略的に立ち回る覚悟がないままの戦争は、最終的に国を滅ぼしかねない危険な行為なのだ。

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