業績好調の日立。製造業復活のモデルケースなのか?

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 電機メーカーの苦戦が続いているが、その中で日立の躍進はひときわ目を引く。2009年に7800億円の赤字を計上して以来、事業構成の見直しを積極的に行い、2011年3月期、2012年3月期と2期連続で過去最高益を更新した。株価もそれを反映し、他の電機メーカーとの比較ではもちろんのこと、日経平均に対しても良好なパフォーマンスを維持している(図1)。

 日立が行ってきた改革を一言で表すなら「身の丈に合った経営」ということになる。不採算事業から撤退するのはもちろん、採算事業であっても無理な拡大はせず利益率を重視した結果、全体として筋肉質の会社に変貌した。だがこれは消極的な選択であることも事実だ。グローバルで見た競合他社とのギャップはあまりにも大きく、各事業はバラバラでコアとなる事業が存在しない。だが国際的な競争力を失いつつある日本メーカーの生き残り戦略としては、ひとつの方向性を示しているのかもしれない。


かつては総合電機メーカーとして君臨していたが・・・
 日立製作所(東証1部:6501)は「総合電機メーカー」の象徴的存在であり、かつては11兆円を超える売上高を誇っていた。2002年、同社はグローバル展開をうたいその目玉として米IBMからハードディスク事業を買収した。
 金額は20億5000万ドル(当時のレートで約2500億円)。売上げと同規模の買収金額に市場からは「極めて高額」(証券アナリスト)と疑念の声が上がったが、同社はハードディスクをグローバル事業の柱と位置づけ、積極的な投資を継続した。だが同事業が軌道に乗る前に、全社的な不振が明らかとなりこの事業も手放す結果となってしまった。

 経営危機に直面した日立は「総合電機メーカー」のカンバンを降ろす決断を行う。社会インフラ部門を強化するため上場5社を完全子会社化し、携帯電話事業はNECに、液晶事業はパナソニックにそれぞれ移管した。
 稼ぎ頭のITシステム部門も無理なシェア拡大は求めず利益率の確保に重点を置き、大量の博士号取得者を抱える研究部門にも大ナタを振るった。
 以前は研究所でふんぞりかえっていた研究者が、配置転換によって月額数千円のインターネット接続サービスのセールスをするようなケースもあったといわれる。
 
 この結果、日立は比較的身軽な業態が混在するコンパクトな総合電機メーカーに生まれ変わった。

選択と集中は日本市場ではリスク要因
 図2は電機メーカー各社の分野別の売上高を示したものである。コンパクトな総合メーカーといっても日立は突出して規模が大きく2012年3月期の売上げは9.6兆円である。だがその内訳は、ITシステム、インフラから建機、金融など幅広い分野に分散している。それぞれの部門がそれぞれに利益を稼ぎ出す仕組みである。

 これに対してNECやシャープは、専門分野に特化しており、当該分野の不振がそのまま経営全体を直撃している格好だ。三洋電機の買収後、苦戦が続いているパナソニックも、日立に比べると特定分野に事業が集中している。


 かつて市場では「選択と集中」といわれ、ノンコアな事業は外部に放出するのがよいといわれてきた。これは今も変わっていない。だがそれには「厳しい競争環境が維持されているならば」という前提条件が付く。

 ある分野に集中したものの、当該分野が不振になってしまった場合には、社員を総入れ替えするくらいの激しいリストラが必要となる。それを受け入れる覚悟があるのならば、選択と集中はベストの経営戦略となるだろう。
 だが、米国と異なり日本では従業員の雇用や経営体制の維持が株主利益よりも優先され、ドラスティックなリストラが実施されにくい(シャープの例を見れば明らか)。そのような社会風土において選択と集中を進めてしまうと、経営危機になっても身動きがとれず、破滅の道をひた走ることにもなりなねない。「決断できない日本社会」において「選択と集中」は実は大きなリスク要因なのだ。

 この点、日立のように相互にあまり関連しない事業が混在している会社は、抜本的な業態転換を行う必要がなくリストラを進めやすい。日立が選択と集中をさらに進めていたら、これほどスムーズに事業再構築は進まなかったかもしれない。

グローバルに見れば日本企業は中小企業でしかない
 もっともこれは消極的な評価でしかない。本来であれば積極的にグローバル市場で戦えるよう、他のグローバル企業と同様、選択と集中をより積極的に進めるべきなのかもしれない。だが国際的な競争力を失いつつある日本企業にとって、それは不可能な目標となりつつある。
 
 図3はグローバルに展開する電機メーカーの売上高と営業利益(本業での儲け)の関係を示したものである。状況は一目瞭然だが、グローバル企業の収益力は日本メーカーとは比較にならない。日本では大手企業といってもグローバルで見ればしょせんは中小企業に過ぎないのだ。


 この中で、日立だけは、何とかグローバル企業の仲間入りが出来る余地が残っている。だが過去最高益となった今期の利益の倍以上を稼がないとシーメンスやサムスンには太刀打ちできない。GEにいたってはなんと5倍である。

 製造業をカバレッジするある証券アナリストは「大きな声では言えないが、もはや日本企業は一流など目指さない方がいいのかもしれない」と語っている。
 無理な海外展開は行わず、縮小していく国内市場に合わせて毎年人員削減を継続していく。企業規模を小さくしながらコスト削減で何とか利益を確保するという「引きこもり戦略」である。企業の従業員も「激しい競争にさらされるよりは、生活水準の低下の方を選ぶのではないか?」(同アナリスト)。

 これはかなり極端な考え方かもしれないが、時代を見据えたひとつの見識ではある。バブル崩壊後の20年間、構造改革を先送りしてきたツケはあまりにも大きい。分野によってはもはやリカバリーが不可能な水準まで来ている。
 無理な拡大や「選択と集中」を避け、身の丈にあった経営をスタートした日立は、今後の日本企業にとって一つのモデルケースになることだけは間違いないだろう。もしそうであるならば、同社への投資は相対的に有利な結果をもたらすはずである。

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