石油が見捨てられる日

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 近年、原油価格が高騰していることや、原子力発電を見直す動きが活発化してきたことなどから、エネルギー問題に対する投資家の関心が高まってきている。資本市場の発達は、安定的な石油の供給に依存するところが大きい。エネルギー問題の不透明化は、長期投資において大きなリスク要因である。エネルギーに関する分野は、科学的な根拠の薄い「神話」も多く見受けられる。エネルギー価格の長期的な推移を振り返ることで、この問題の基本を理解しておくことが重要だ。

石油価格と石炭価格の長期的な推移
 近代工業化以降、1900年代に入るまでは産業の基軸となるエネルギー源は石炭であった。しかし、1860年前後に石油の精製技術が開発され、相次ぐ油田の開発によって原油価格が下落してきたことで、1890年頃からは本格的に石油が利用されるようになってきた。
 1900年代の初めには、艦船における石炭から石油への切り替えが進み、第一次世界大戦前後には石油へのシフトが急速に進んだ。
 原油の安定的な供給は、世界的な経済成長のエンジンとなっている。これは米国の安全保障政策と密接にリンクしており、1973年と1979年の2度にわたるオイルショックを経ても石油中心のシステムが変更されることはなかった。しかし、石油をめぐる状況は、ここ10年の資源価格の急激な高騰により、大きく変わろうとしている。図1は、石油価格と石炭価格の過去150年間の推移を示したチャートである。比較のためダウ平均株価を重ねて表示してある。

 石油は一般的に1バレルあたりのドル価格で表記される。一方、石炭は1トンあたりのドル価格が標準的である。石油1バレルと石炭1トンでは得られるエネルギー量が異なるので、単純に両者の価格を比較することはできない。そこで図1では、単位熱量あたり(TJ:テラ・ジュール)あたりの価格に統一して表記した(1テラ・ジュールはおおよそ石油165バレルから得られる熱量に相当する)。

石油の価格低下がもたらしたエネルギーの主役交代
 石油の生産が本格化した1860年代には、石油の価格は石炭の数倍と非常に高価であった。1870年代以降、油田開発や精製技術の進化が進み、1890年には石炭とほぼ同水準まで価格が下落した。
 熱量換算で石炭と石油がほぼ同水準になったことから、取り扱いが容易で煤煙が出ない石油は一気に普及することになった。ロシアのバクー油田の減産による価格高騰や第一次大戦後の需要急拡大に伴う価格高騰、世界恐慌期の大幅な価格下落などがあったものの、石炭に代わる石油の地位は確固としたものになり、第二次大戦後は文字通り、世界経済発展のエネルギー原となった。
 石油が本格的に普及して以降、常に石炭と同水準かそれ以下であった石油の価格に大きな異変が生じるきっかけになったのが、2度にわたるオイルショックである。
 オイルショック以降、原油価格の絶対値が上昇しただけでなく、石炭に対する価格差が生じ始め、石油は単位熱量として比較すると石炭に比べて割高なエネルギー源となった。オイルショック時にはインフレによって株式市場が低迷していたため、原油価格はダウ平均からも大きく乖離していた。逆に株式市場が好調であった2000年前後は、ダウ平均株価が原油価格を上回る状況が続いたが、近年の原油価格高騰で両者の差は再び縮小している。
 石炭に対する価格上昇をより分かりやすく分析するため、石油価格と石炭価格を現在の価値に換算したチャートを図2に示した。図2は図1と同様、単位熱量あたりの価格だが、過去の価格については2011年のドル価格に置き換えて表示している。

 石油の普及が進み始めた1860年から1880年にかけては、石油と石炭には数倍の価格差があった。これだけの価格差があると、取り扱いの容易さや煤煙の少なさなどのメリットを考慮しても石油がエネルギーの主役になることは難しかったと思われる。しかし、油田の開発や技術革新によって価格差が急激に縮小したことで普及が一気に進み、1920年代以後は、石炭に変わってエネルギー源の主役となった。
 1970年代のオイルショックでは、石油価格が過去にない水準まで高騰し、石炭と石油の価格差は数倍に拡大した。石油の黎明期と同じ水準の価格差である。しかし、オイルショックは政治的要因でもあったため、石油価格が引き下げられ、石炭との価格差は再び縮小した。
 しかし、ここ数年の資源価格高騰によって、再び石炭との価格差が拡大してきている。しかも、今回の石油価格の高騰は政治的なものでなはく、かつ、今後も継続する可能性が高い。もし今回の価格高騰が今後も継続することになれば、エネルギー供給や資本市場に対して極めて大きな影響を与える可能性が高い。

石油価格の高騰はエネルギーシフトを引き起こすか?
 もし今後、石油価格が大きく下がらなかった場合、石炭との価格差が石油普及期以前の水準のまま固定されることになる。価格の低下が石油普及の原動力だとすると、この事態は極めて重大である。
 石油をはじめとする各種コモディティは、あらゆる産業の基礎となる資源である。あるコモディティの価格が高いままの状況が続く場合には、経済全体として、以下の3種類の解決策のいずれかが市場で選択されることになる。

①高騰したコモディティの代替となる新しいコモディティへの移行が進む
②コモディティ価格の高騰をカバーするためのイノベーションが起こる
③インフレによって価格を調整する

 それぞれの場合において市場にどのようなインパクトを与えるのか検証してみよう。
①新しいコモディティへの移行
 かつて石炭から石油にエネルギーの主役がシフトしたように、石油の高騰が続く場合には、他のエネルギー源へのシフトが起こることで、石油価格高騰を経済的にカバーするというメカニズムである。
 代替となるエネルギー源の候補はたくさんある。石油との価格差が拡大した石炭、天然ガス、バイオエタノールなどが考えられる。
 もっとも石油の取り扱いの容易さや熱効率を考えると、単一の代替資源ですべての石油を置き換えることは不可能と思われる。自動車、火力発電、暖房など、それぞれの用途にあった代替資源が模索されることになる可能性が高い。
 当然ながらマーケットにおいては、これらの代替資源となるコモディティ価格は大きく上昇することになる。また石油に対する需要もすぐにはなくならいことから、石油価格の高騰も続くと考えられる。

②イノベーションによる解決
 イノベーションは偶然の発見から起こることもあるが、価格差がイノベーションを起こす原動力になることもある。特定のプロダクトやサービスの価格が、相対的に他のプロダクトやサービスよりも高い場合には、そのプロダクトやサービスの分野ではイノベーションが起こりやすくなる。相対的な価格差を解消することをビジネスチャンスと捉える企業家がその分野にこぞって参入するからである。同じことがエネルギーの分野でも起こる可能性がある。
 現在、太陽や風力といった自然エネルギーは、脱石油の有力候補といわれながらそのコストの高さが大きな障壁となっている。しかし、石油価格の高騰が続き、この分野にイノベーションが起こった場合には、自然エネルギーのコストが劇的に安くなり、石油の代替エネルギーとなる可能性も考えられる。
 イノベーションは時としてバブル的な株価の高騰をもたらす。
 イノベーションへの期待によってリスクマネーが集中し、これによって従来の常識では考えられない水準の資金調達が可能となり、結果的にイノベーションが成功するというパターンである。インターネット革命はインターネット・バブルとセットで実現されたものである。
 イノベーションによる解決が進む場合には、太陽電池、スマートグリッド、蓄電池、風力発電システムなどの分野においてバブル的な株価高騰がもたらされるだろう。

③インフレによる解決
 代替となるコモディティが見つからなかった場合、あるいはイノベーションによる解決ができなかった場合には、インフレという形でマクロ経済的に解決するしか方法は残されていない。
 石油価格は需要と供給のバランスが取れるようになるまで上昇し、需要を抑制してバランスを取ることになる。石油価格が上昇すれば、需要が減少するとともに、これまでコスト的に見合わなかった油田も採掘が可能になる。需要の減少と供給量の増加によって、石油価格は高騰したのち、ある一定の水準に収束することになる。
 もちろん、価格の上昇はイノベーションを引き起こす原動力になることを考えると、インフレによる解決とイノベーションによる解決はセットになる可能性もある。
 ただし、石油価格の上昇とそれに伴うインフレが発生した場合には、強制的に供給が制限されるため、GDPの成長にはマイナスの影響を与えることになるだろう。
 企業の期待収益が減少することから、株式にはマイナスとなる。またインフレによる貨幣価値の減価が予想されるため、債券も下落する可能性が高い。不動産については、インフレヘッジとしてのプラス面よりも、期待収益減少の影響の方が大きく下落が予想される。石油価格高騰によるインフレが発生した合には、資源関連の商品以外はあまり期待できない。

 資源価格の高騰が続いた場合、どの解決策が市場で選択されるのか?多くの投資家にとって資源価格の推移と関連分野の動向は気がかりな材料であり続けるだろう。

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