竹島上陸への対抗措置が、 韓国経済に与える影響

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 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島に上陸したことや天皇陛下に謝罪を求める発言を行ったことについて、日本政府内では対抗措置として通貨スワップの見直しが検討されている。
 日本と韓国で結ばれている通貨スワップ協定については、日本ではその内容についてあまり詳しく報道されていない。協定の内容や韓国の外貨準備の状況などから、通貨スワップ見直しが韓国の経済/金融システムにどの程度の影響を与えるものなのか考察した。

 安住財務大臣は2012年8月17日、閣議後の記者会見において、通貨スワップ協定について「延長するかを含め白紙だ」と見直しを示唆した。
 通貨スワップとは、通貨危機が発生した場合に、一定のレートで双方の通貨を融通し合うことを定めた協定のことである。

日本と韓国通過スワップ協定は3種類で総額700億ドル
 現状、日本と韓国は通貨スワップ協定を3種類締結している(図1)。
 ひとつは日本銀行と韓国銀行が結んでいる300億ドルの通貨スワップである。以前は30億ドルの規模だったが、2011年10月に300億ドルに増額された。この日本銀行と韓国銀行のスワップ協定を補完するものとして、同じく300億ドルの協定が財務省(外国為替特別会計)と韓国銀行との間で締結されている。


 さらにチェンマイ・イニシアティブにもとづく米ドルとのスワップ協定があり、規模は100億ドルである。チェンマイ・イニシアティブとは、アジア通貨危機をきっかけに設置された東アジア地域における二国間通貨スワップ取引ネットワークのことを指す。2000年5月にタイのチェンマイで行われた第2回ASEAN+3財務大臣会議での合意が元になっているのでそう呼ばれている。

 すべての協定が双方向となっているが、金融危機を起こす可能性が高いのは韓国であることから、実質的に韓国の金融危機を事前に阻止するための方策として位置づけられる。

 日本銀行と韓国銀行で結ばれた300億ドルの通貨スワップ協定の期限は2012年10月。さらに財務省と韓国銀行の300億ドルの通貨スワップも同じ日に期限が切れる。
 日本がスワップ協定を延長しない場合には、有効な協定はチェンマイ・イニシアティブだけとなり、スワップできる通貨の額は700億ドルから一気に100億ドルまで減ってしまう。

 韓国は米国や中国とも通貨スワップ協定を結んでいるが、米国との30億ドルの協定は2010年にすでに終了となっており、現在有効なのは中国との3,600億元(約600億ドル)の協定のみである。したがって、日本とのスワップ協定が延長されないと、スワップできる通貨の額は半減してしまうことになる。

脆弱な韓国経済の体質は変わらず
 通貨スワップ協定の中断は韓国経済にどの程度の影響を与えるのだろうか?
 図2は韓国の対外資産/対外負債の残高と対外資産に対する外貨準備高の割合の推移を示したものである。


 韓国の名目GDPは1兆ドルを超えており、日本を除くとアジアでは屈指の経済大国である(日本の名目GDPは6.5兆ドル)。だが日本とは異なり、近代的な経済システムを整備してから日が浅い(日本は明治時代から。韓国は朝鮮戦争後から)。このため資本蓄積が十分ではなく、設備投資などの資金を海外からの借り入れに頼らざるを得ない状況が続いている(参考記事「韓国経済の真実」を参照)。

 韓国の対外負債は対外資産の額を超えており、対外純資産のポジションは恒常的な赤字となっている。韓国経済が好調なうちは何の問題もないが、ひとたび信用不安が発生すると、債権国が資金を引き上げてしまうため、国全体として資金ショートを起こしてしまう可能性がある。1997年のアジア通貨危機の際には、急速な資金流出によって外貨準備が激減し、IMFの管理下に入る選択を余技なくされた。

 韓国はアジア通貨危機の教訓から、外貨準備を手厚くする政策を取ってきており、対外資産に占める外貨準備の割合は増加している。だが、対外資産の増加に合わせて負債も同様に増えてきており、借金依存体質であることに変わりはない。

外貨準備の内訳には優良でない資産も
 また非常時の切り札である外貨準備の内容が、あまり優良ではないことも不安材料のひとつとなっている。
 図3は韓国の外貨準備の内訳である。安全資産である国債の比率は35.8%しかなく、それ以外の資金は比較的リスクの高い債券で運用されている。しかも政府機関債には米国のファニーメイなどの不良債権化した債券も含まれているといわれ、韓国の外貨準備の額はある程度割り引いて考える必要がある(注)。


 韓国は為替介入資金を国債の一種である外国為替平衡基金債で調達しており、この金利が米国債よりも高いため、恒常的な逆ザヤ状態が続いている。これを解消するため、韓国の外貨準備は利回りの高い商品で運用する必要があり、国債以外のリスクの高い商品に投資せざるを得ない。この状況は容易には解消しないだろう。

 サムスン電子や現代自動車といった国際的な超優良企業が存在しながら、金融危機に対する不安がささやかれる背景にはこのような事情がある。

 日本や中国と締結された通貨スワップ(総額約1,300億ドル)は、韓国経済の脆弱性をカバーし、金融危機を引きこさないための安全弁として位置づけられる。
 非常時の頼みの綱である3,000億ドルの外貨準備について一定程度割り引いて考えなければならないとすると、日本との通貨スワップ700億ドルの有効性は極めて高いといえる(ちょっと乱暴だが政府機関債分の25%割が毀損と考えるとちょうど700億ドルになる)。

通貨スワップは覇権(ヘゲモニー)の問題として捉えることが必要
 もちろん通貨スワップは非常時のための措置であり、韓国企業の業績が好調な今は、大きな影響を及ぼすものではない。だがもし日本が韓国への対抗措置として通貨スワップを中断した場合には、韓国経済の潜在的なリスクは増大することになり、ボディーブローのように韓国の金融システムに影響を与えることになるだろう。
 さらに欧州危機が深刻化し、韓国企業の業績が急激に悪化するようなことがあれば、まさに韓国経済の生殺与奪の権限を日本が握ることになる。

 このように通貨スワップ中断の影響は、短期的な視点ではそれほどではないが、長期的、潜在的には大きなインパクトをもたらす可能性がある。
 日本人はあまり意識していないかもしれないが、近隣国の金融システムを安定させるための資金を提供するということは、国際社会において覇権国の振る舞いとしてみなされる。
 日本にとっては交渉カードとして非常に有効である反面、使い方を誤ると大変危険な事態を引き起こす可能性もあるのだ。
 今回の竹島騒動とそれに伴う通貨スワップ見直しの件は、日本と韓国の領土問題や経済協力問題としてだけとらえるべきものではない。東アジアの地政学的な状況が激変する中、日本が自らをどのような国家に位置づけるのかが試されているのである。自らの資金を運用する投資家にとってもそれは同様である。

注)日本は、外貨準備の原資が借り入れではなく、自ら貯蓄した貿易黒字であり、外貨準備の大部分を安全資産である米国債で運用している。しかも日本は民間部門の対外資産が手厚く、対外資産に占める外貨準備の割合はわずか17%に過ぎない。日本と韓国では経済の冗長性が根本的に異なっている。日本経済がこれほど弱くなっても金融危機を起こさないのは、手厚い自己資本による資金の融通が可能だからである。

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