利回り30%のシャープ転換社債が意味するもの

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 シャープが経営危機に陥っている。主力事業である液晶パネルの不振により、来期の最終赤字予想は当初の300億円から2,500億円に大幅に引き上げられた。業績回復のカギとされていた鴻海精密工業との資本業務提携について、同社が出資比率を見直すとの報道があり株価は20%以上も下落した。さらにCB(転換社債)市場において同社CB利回りが一時30%を越えるなど、倒産さえ織り込む状態になった。

 同社の財務状況は予断を許さないが、すぐに倒産するという状況にはない。しかも株価はまだ倒産を織り込む水準までは下落しておらず、CB市場との乖離が激しい状態が続いている。もし同社が倒産せず継続できるのであれば、同社CBへの投資は潜在一遇のチャンスということになる。

CBは倒産を織り込む価格まで下落したが
 シャープ(東証1部:6753)は、2012年3月期決算において約3,760億円の巨額赤字を計上している。今期(2013年3月期決算)の第1四半期決算においても1,384億円の赤字を計上し、さらに2013年3月期の最終赤字予想を当初の300億円から2,500億円に大幅に引き上げた。

 同社は台湾の鴻海精密工業(TW:2317)との資本業務提携を今後の業績回復のカギと位置づけており、約670億円の出資を受け入れることを発表していた。当初想定していた株価(550円)からシャープ株が大幅に下落していることを受けて、鴻海側が出資比率や金額の見直しを申し出たことから、信用不安が一気に顕在化した。

 2012年8月3日、同社株は前日終値の267円から61円安の206円で取引きが始まり、一時は30%安の187円まで売り込まれた。その後株価は少し持ち直し、週の最終日である8月10日は209円で引けている(図1)。
 同社の先行きに対してさらに厳しい反応を示したのがCB(転換社債)市場である。
 8月2日まで90円台だった同社CBは、3日以降暴落し、一時は72円まで下落した。額面100円、表面利率0%、残存期間は約1年のCBなので、利回りは何と30%を超える。もはやこの水準になると完全に倒産を織り込んだ価格である。


 同社は本当に倒産するのだろうか?将来のことは誰にも分からないが、財務状況からある程度推測することは可能だ。
 同社は2012年3月期決算で3,760億円の赤字を計上したため、自己資本が大幅に減少しており、前期は36.3%あった自己資本比率は24.6%まで低下している。だが赤字の多くは税金調整や特別損失であることから、キャッシュの減少を伴うものではなく、現在同社には約2,000億円の現預金がある。また主力事業のAV機器は赤字とはいえ販売は続いているので、すぐに資金ショートを起こす可能性は低い。
 企業の倒産は、財務状況の悪化そのものではなく、ほとんどが資金ショートによって引き起こされることを考えると、少なくとも理論上は明日にも倒産という状況ではないことが分かる。

シャープの将来は最終的に経営陣の決断にかかっている
 目下最大の懸念材料は、来年9月に迫っているCB(転換社債)の償還資金の手当てである。約2,000億円のCB償還資金が手当てできないと、同社のキャッシュがほぼ全額吹き飛んでしまう。銀行がリファイナンスに向け協議に入ったとの報道もあり、金融機関との調整が続いていると思われる。

 もっとも主力事業であるAV機器と液晶パネル事業は、現在も赤字を垂れ流している状態であり、同社にはリストラと業績見通しの安定化が必須である。

 そのためには、米アップル(NASDAQ:AAPL)向けに機器の製造を行っている鴻海との提携を何としても実現する必要がある。金融機関は鴻海の資本参加とより緊密な業務提携をリファイナンスの条件にしてくる可能性が高く、そうなれば、金融機関に加えて鴻海の意向も同社の今後を大きく左右することになる。
 
 同社はこれまで本格的なリストラを実施したことはなく、人件費と研究開発費を抑制すれば十分に利益を出せる余力がある。問題は同社の経営陣が深刻な状況を理解し、鴻海との提携とリストラを思い切って進められるかどうかである。その意味では、最終的に同社の将来は経営陣がどれだけ腹をくくれるかにかかっている。

 最悪のシナリオは、鴻海との提携が白紙に戻り、リストラも不十分で銀行から支援を得られないケースである。この場合、同社は投資銀行を通じて資本市場から資金を調達するしか方法がなくなり、極めて厳しい状況に追い込まれるだろう(今のところその確率は低いが)。

CB償還が新たに提起する問題
 もし現状のシナオリ通り倒産を回避できるのであれば、同社へのCBは千載一遇の投資チャンスだったということになる。もしCBが無事償還されれば大変喜ばしいことだが、それはそれで別な問題を提起することになる。

 それはCB市場の崩壊である。もし倒産を十分に回避できる企業についてCB市場で30%もの利回りが付いたということになると、それは市場の価格形成能力が失われていることを意味している。実際、日本のCB市場の衰退は激しく、リーマンショック前の2006年には100銘柄あった上場CBは現在では20銘柄近くまで激減している。

 価格形成能力を失った市場は存在しないに等しい。CB市場の衰退は日本の証券市場の衰退をそのまま表しているかもしれないのだ。実際、東証の売買代金は長期低迷が続いており、回復のきざしは見られない。国際的にはもはや新興国市場並みの扱いしかうけていないのが実情だ。

 CB市場の価格形成能力は正常なのか?その答は来年9月にはっきりする。

【参考記事】
   ・再上場したJALを検証する

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