アメリカで家を買う

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - アメリカで家を買う
Share on Facebook

 米国の不動産投資への関心が個人投資家の中で高まっている。米国の一般的な住宅用不動産を投資目的で購入する個人がじわじわと増加しているのだ。背景にあるのは、歴史的な安値水準にある米国の不動産価格と円高、それに震災をきっかけにした日本そのものに対する不信感である。
 米国の住宅用不動産市場は透明性が高く、外国人に対しても積極的に市場を開放している。米国の住宅用不動産投資の約1割が外国人によるものだが、日本人はその中の1%にも満たない。
 だが震災以降、徐々にではあるが、米国の投資に踏み切る日本人が増えてきている。これまで銀行預金に眠っていた日本の個人マネーが海外に目を向け始めたことで、長期間続いた円高にも変化が訪れるかもしれない。

震災をきっかけに米国の不動産投資を開始
 都内に住むサラリーマンの川田さん(仮称)は、この1年の間に米国の住宅用不動産を3件ほど購入した。場所はデトロイトとラスベガスである。
 川田さんは、リーマンショック後、米国の不動産価格が通常あり得ない水準まで下落していることをニュースで知り、投資対象として興味を持っていたという。川田さんは多少の英語はできるのだが、米国の不動産を直接購入することには抵抗があり、なかなか踏み切れないでいた。背中を押したのはやはり震災だという。
 「震災後の日本政府や東電の対応には本当にショックを受けました。この国では、自分の身は自分で守らないといけないのだと痛感しました」(川田氏)。震災に加えて空前の円高も決断を後押しした。川田氏は現在のところ8%くらいの投資利回りを確保しているという。
 米国の不動産投資を斡旋する企業には、震災以降、問い合わせが増加しているという。

 では米国の不動産は本当に今「買い」なのだろうか?
 図1はケースシラー住宅価格指数の推移である。グラフ中の太い赤線が10都市の平均値だ。2000年から2006年にかけて住宅価格は2.2倍に上昇したが、リーマンショック以降はピーク時から約30%下落したままとなっている。

 住宅価格が下落したといっても、2000年の水準から比べると1.5倍の価格が維持されている。バブルのピーク時から70%近くも下落し、20年間まったく回復できていない日本と比べれば、十分に価格が維持されており、異常な水準までの下落には見えない。

 だがこれは全体的な指数の話であって、個別の都市に目を向けると、大きな投資チャンスが転がっていることが分かる。特に価格下落が顕著なのはデトロイトとラスベガスである。
 デトロイトはリーマンショック前の不動産バブル期においてもそれほどの価格上昇は見られなかった。むしろGM-ゼネラルモーターズ(NYSE:GM)の破綻によって大量の失業者が出たことで、住宅価格が一気に下落している。
 ラスベガスは逆で、住宅バブルによって一気に価格が上昇した。バブル崩壊の影響をモロに受けて、ピークから6割近く下落してしまった。

物件価格300万円、表面利回り28%の戸建住宅も
 デトロイトやラスベガスには、確かにちょっと目を疑うような価格の物件がゴロゴロしている。

 写真1(左)はデトロイトの中心部にほど近い住宅地にある物件である。広さは約90平方メートル、3ベットルームで価格は何と14,900ドル(日本円で約120万円)だ。

 さすがにここまで安いと「修繕費用などがかさむ可能性が高い」(米国の不動産業者)が、デトロイトの中心部では、このクラスの家はごく普通に3万ドルから5万程度で売られているという。

 この物件の予想賃貸価格は月700ドル。仮に3万ドルで購入したとすると表面的な投資利回り28%にもなる。ちなみに日本で90平方メートルというと広い家の部類に入るが、デトロイトではロウアーミドル(労働者階級)以下の人たちが住む家だ。

 写真2(左下)はラスベガスにある超高級ホテル型コンドミニアムのトランプタワーである。その名の通り、米国の不動産王であるドナルド・トランプ氏が建設し売り出した物件だ。使用していないときはホテルとして貸し出して収益を上げることができる。

 53平方メートルのワンルームタイプの価格は39万ドル(日本円で約3,100万円)。2008年の分譲時には1億円の値段がついた部屋である。

 もちろんこれらの物件にはそれなりのリスクが伴う。
 デトロイトの中心部は治安が悪く、家に放火されたり備品が盗難される危険性がある。このため保険の値段も高い。また失業者が多いため、テナントとして入居した住人が頻繁に家賃を滞納する。

 一方ラスベガスの高級コンドミニアムは管理費用が高く、ホテルへのレンタル収入だけでは十分な利益を確保できないことが多い。
 このため多くの投資家が転売を狙っているが、市況が回復しないと高い値段での転売は困難である。市場の回復が遅れれば、儲からない物件を塩漬けせざるを得なくなる。

 それなりのリスクはあるが、場所と物件を選ぶことによって、非常に高い投資利回りを確保できることは事実である。その意味で米国の不動産は「買い」であるといえる。

あまりにも違いすぎる米国と日本の情報環境
 では、外国人である日本人はどのようにして物件を探せばよいのだろうか?
 実はこの点について、ほとんど心配する必要はない。米国では日本では考えられないくらい不動産の情報インフラが整備されているのだ。米国で代表的な不動産検索サイトはZillowTruliaである。

 Zillow(NASDAQ:Z)は、旅行予約サイトExpedia(NASDAQ: EXPE)に在籍していたメンバーが立ち上げた不動産検索サイトである。Truliaも同じく旅行予約サイト出身のメンバーが作った企業で、上場を目指してベンチャーキャピタルから多額の投資を受け入れている。

 これらのサイトには物件の価格、賃貸に出した場合の予想賃料、過去の売買履歴、評価額など、必要な情報がすべて網羅されている。Googleのストリートビューとも連携しているので、物件の状況を立体的に確認することもできる。
 また行政が提供する情報も極めて豊富で、各自治体のWebサイトに行けば、不動産の所有者名、売買履歴と価格、税金の額などをすべて確認することができる。日本で不動産の売買や登記をした経験がある人なら、あまりの情報の豊富さと透明性の高さに愕然とすることだろう。

 米国では州をまたいで遠隔投資する人は多く、これらのサイトはアメリカ人も同じように利用している。言語が違う点を除けば、物件と離れた場所にいるアメリカ人と日本人とで情報収集能力にハンデはない。
 また米国は以前からzipコード(日本の郵便番号に相当する)を使ったマーケティングが活発であり、物件のzipコードが分かれば、その地域の住民の世帯年収、家族構成、職業、犯罪発生率などがたちどころに分かる。
 
現地の不動産業者選びが最大の課題
 おそらく日本人にとっての最大のカベは不動産業者とのやり取りだろう。上記の不動産検索サイトには現地の不動産会社の担当者(リアルターと呼ぶ)にコンタクトする機能がある。英語力に多少自信のある人は、現地のリアルターに電子メールで直接コンタクトを取ればよい。実際そのようにしている投資家も多い。

 もうひとつの方法は、現地の不動産会社で日本人、あるいは日本語が話せる担当者を置いているところに日本語でコンタクトを取るというやり方がある。
 中国語に対応する不動産会社はたくさんあるが、残念ながら日本語に対応するところは少ない。だがWebを丹念に探せば、日本語に対応した不動産会社もそれなりに存在している。

 また日本にある仲介業者に購入の手続きを支援してもらうという方法もある。だが仲介業者はあくまで現地の不動産会社を紹介したり、交渉の支援をしてくれるだけで、売買について最終的な責任を負ってくれるわけではない。仲介業者を利用する場合には、どこまで対応してくれるのかを事前にしっかりと確認する必要がある。

 無事に物件を購入できても、その後は管理という問題が待ち構えている。所得水準が低いエリアでは、家賃の滞納がしょっちゅう発生する。日本に比べると強制退去は簡単に実行できるが、それでも行政との手続きが必要となる。また備品の修理などもオーナーが負担しなければならない。投資を成功させるには、信頼のおける管理会社を見つけることが重要となる。

 実際に投資にこぎつけるのはそう簡単なことではないが、まずは情報収集が重要である。不動産業者は情報を提供するのが仕事なので、多少英語ができる人は、電子メールを送ってみるとよい。それなりの物件をたくさん紹介してくれるだろう。

米国の住宅用不動産から見えてくるもの
 米国の不動産について情報収集をしているとあることに気づく。家の大きさや価格はバラバラなのだが、基本的な家の作りは全米どこにいっても同じなのである。

 また中古住宅の数が極めて多い。実は米国では新築の家の5~6倍の数の中古住宅が売買されている。
 日本では築年数が重要視されるが、米国では価格にほとんど影響しない。現地のリアルターに築何年かという質問をすると「怪訝そうな顔をされる」(川田氏)ことも多いという。
 
 つまり住宅は米国人にとって「最大の資産」であり、いつでも転売できるものでなければならないのだ。
 
 家を建てた人の個人的な嗜好が反映された特殊な家は市場で嫌われる。家の価格は賃貸に出した場合の期待収益ですべて決まっており、日本でいう地価のようなものは存在しない。日本と比べると建材の質が高く量もふんだんに使用されており、築100年の家でもまったく問題なく住むことができる。またメンテナンス用の部材が安価にホームセンターで販売されており、工務店に支払う修理費用も日本と比べると極めて安価だ。
 
 このように米国では、住宅はごく普通の庶民が自分で住みながら、かつ安心して投資できる有力な投資商品となっている。これが米国市場の厚みに大きく貢献しており、米国経済の内需を支えている。
 リーマンショックという大きな危機に直面しながら、底堅い動きを見せている米国経済の力の源泉のひとつが、良質で透明性の高い住宅マーケットなのである。

 Webで情報収集をするだけなら、リスクはゼロでお金もかからない。実際に米国の不動産を購入しないまでも、情報収集をしてみることはぜひお勧めしたい。表面的なニュースでは分からない米国経済の実際の姿を垣間見ることができるはずだ。

参考記事:「米国経済の現状を冷静に眺めてみると(前編)
参考記事:「米国経済の現状を冷静に眺めてみると(後編)

【関連記事】