米国は本当に低福祉の国なのか?

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 高収入のお笑いタレントの母親が生活保護を受給していたことについて片山さつき議員らが問題視したことから、生活保護に関する議論がヒートアップしている。

 日本はこれまで中福祉中負担の国とされてきた。北欧など福祉が手厚い国に比べれば水準は劣るものの、福祉政策がほとんどない米国に比べれば安心して暮らせるというのが一般的なイメージであった。だがそれは本当のことなのだろうか?

 日本の逼迫した財政を考えれば社会保障費の抑制は待ったなしの状態だが、社会保障制度の改革について議論するためには、日本の福祉がどの程度の水準なのかもっと理解しておく必要があるだろう。
 今話題となっている生活保護制度を例に米国と比較してみた。

いろいろな種類がある米国の支援制度
 日本では、低所得者向けの支援制度は基本的に生活保護が大きな柱となっている。平成24年度予算における生活保護費は約2.8兆円、受給者は約210万人だ。2.8兆円のうち、医療扶助が1.3兆円、生活扶助が1.5兆円の割合となっている。
 生活扶助の1.5兆円を210万人で割ると1人あたりの金額は年間約71万円となる。月額にすると6万円くらいだ。家族構成などによって受給額は大きく変わるので、子供がいる家庭などでは15万円位もらえることもある。確かにヘタに働くよりも有利になるケースは十分にありえる。

 一方米国の場合は、食料、医療、住宅などそれぞれの分野で個別に支援プログラムが用意されている。代表的なものは農務省が管轄する補助的栄養支援プログラム(SNAP:Supplemental Nutrition Assistance Program)だ。これは通称「フードスタンプ」と呼ばれてる。
 以前は認定された人にクーポン券が支給され食料品を購入することができた。現在では州によって異なるがICカードにチャージする方式が多く採用されている。

 同じ農務省の制度でWICというものがあり、乳幼児がいる家庭でミルクなどの支援が受けられるものや、学校昼食プログラムといってランチやおやつのスナックが無料で食べられるという制度もある。

 住宅については、住宅選択バウチャー制度(通称Section8)と呼ばれる制度がある。これは、低所得者が住宅を借りる際に一定金額を補助したり、大家とのトラブルが発生した場合の弁護士費用などを補助する制度である。また気候が厳しい地域では冷暖房費を補助する制度も整っている。

 米国はこれまで全員加入の医療保険制度は存在していなかった。低所得者は民間の保険に入るのが困難であることから、低所得者向けにはメディケイドと呼ばれる専用の保険制度が用意されている。メディケイドに加入すれば、いろいろと制約はあるが、基本的に無料で医療サービスを受けることが可能となる。
 現在米国ではオバマ政権が全員加入の保険制度の導入を進めようとしている。最高裁も合憲判断を下しており、次期大統領選挙でオバマが勝てば、恒久的な皆保険制度が米国でも導入されるかもしれない。

米国の福祉水準はそれほど低くない
 福祉がほとんどないというイメージの米国だが、実際にはさまざまな福祉プログラムが用意されている。さらに驚くべきことに、その金額がけっこうな高水準なのだ。

 フードスタンプの2011年の支給金額は718億ドル(5兆7400億円)、メディケイドは約4000億ドル(32兆円)、Section8は182億ドル(1兆4500億円)となっている。
 米国のGDPや人口が日本の約3倍の規模であることを考えても、低所得者向けの福祉予算の水準は決して低くない。場合によって日本よりもはるかに手厚い部分もある。

 フードスタンプの支給額とSection8の支給額を合わせた金額は約7兆2000億円である。冒頭で述べたように日本の生活保護のうち生活扶助は1.5兆円だ。GDPが3倍であることを考慮しても米国の方が数字上では手厚い。

 もっとも日本では住宅の補助は公営住宅などの現物支給になっており別な形の支援が存在している。また政府ではなく各自治体が提供するサービスもあり一概に両国を比較するのは危険だ。

 だが米国にも各州が提供するプログラムも数多く存在していることを考えると、少なくとも米国が福祉に関して著しく低水準の国というのは間違ったイメージであることがわかる。


運用面で日本が見習うべき点は多い

 給付金額の水準はともかくとして、運用面ではむしろ米国の福祉政策に日本が見習うべき点が多くあるのではないか?

 例えばあらゆる支援プログラムに見られることだが、米国の制度は裾野が非常に広い。フードスタンプの受給者は4400万人もいる。日本では未納者が続出して問題となっている学校給食費用だが、米国で昼食費補助の対象となっている児童生徒はの数は2000万人にものぼる。

 日本の場合は、支援策が貧困層向けに限定されていて、そこまで転落しないとほとんどの支援のサービスは受けられない仕組みとなっている。一方、米国は制度の運用がかなり柔軟で、貧困層だけでなく低所得層から中間層までの世帯も状況に応じてサービスが受けられるようになっている。

 米国では、夫が失業して生活が苦しくなったので「フードスタンプをもらって次の就職口を見つけるまでなんとか食いつなぐ」(米国在住の日本人女性)といったことはごく普通に行われている。
 世間の非難にさらされながら、最後の手段として生活保護を申請する日本とはずいぶん状況が違う。

制度の多様化が必要な時代に
 終身雇用が当たり前で右肩上がりの時代は会社から弾き飛ばされた人は「特殊な人」だったのかもしれない。だが、現在は人によって働き方や生活設計はバラバラである。そのような時代においては、イチかゼロかという極端な区分ではなく、多様な生き方に対応できる柔軟性のある支援制度が必要と思われる。

 利点ばかり強調した米国の福祉制度だが、現実には深刻な課題もある。生活環境があまりに悪く、その制度そのものを知ることができない、あるいは知っていても役所に申請したり手続きを行うためのスキルや手段がないという人が一部には存在しているだ。現在のところ、このような人々への支援は不十分な状態であるという。

 日本も社会の多様化が進んでいる。今後は制度そのものを知らない、あるいは知る手段がないという人々が出てくることも想定した制度設計が必要かもしれない。
 


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