原油の大幅安がもたらす新世界秩序

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 原油価格がとうとう60ドルを切った。価格下落のきっかけは世界経済の失速懸念だが、根底には米国のシェール革命による供給過剰がある。投機的な動きによって上下はあるものの、市場関係者の多くは、中長期的に原油価格の低迷が続くと予想している。

 原油価格の下落は、石油関連事業者や産油国にとっては痛手だが、世界経済にとっては基本的にプラス要因となる。特に原油価格の下落が消費拡大に直結する米国はかなりの恩恵を受けるだろう。ロシアやベネズエラなど、反米的な産油国は財政危機に陥る可能性もあり、地政学的なバランスも大きく変わりそうだ。

OPECは事実上、安値放置を決断
 2014年11月27日、OPEC(世界石油輸出国機構)はオーストリア・ウィーンにある本部で総会を開催し、現行の生産水準維持を決定した。原油価格が下落している中での減産見送りは、事実上、安値を放置する決断といってよい。

 リーマンショック直前、原油価格は1バレルあたり140ドルまで上昇していた。米国の好景気に加えて、新興国による需要の爆発的な増大から石油不足が心配されたことが主な原因である。リーマンショック以降、米国の景気がしばらく低迷したことから、原油価格は100ドル前後で安定して推移してきた。
 米国経済は回復したものの2014年以降は、欧州や新興国に景気失速懸念が広がり、再び原油価格に下落圧力が強まってきた。7月には100ドルを割り、10月には90ドル、11月には70ドルを下回る状況となり、12月に入ってとうとう、60ドルを割った。


米国とサウジの利害は一致している?
 ここまで原油価格が低迷するのは、世界景気の減速だけが原因ではない。背景には米国のシェールガス開発の影響がある。米国では安価なシェールガスの開発が進み、近い将来、必要なエネルギーをすべて自給できる見通しとなっている。このため、サウジアラビアなど中東から米国に輸出する原油が激減することが予想されており、これが市場での価格形成に大きく影響している。

 従来、OPEC加盟国など産油国は価格下落時には減産で対応し、価格の維持につとめてきた。今回の総会でもベネズエラなど一部の産油国は減産を主張したが、最大の産油国であるサウジアラビアが減産に難色を示したことで、結果として、日量3000万バレルとする現行の生産枠が維持されることになった。

 サウジアラビアが減産に応じないのは、米国のシェールガス開発会社に価格勝負を挑み、採算割れに追い込むことが目的だといわれている。だがそれは、表面的な見方にすぎない。
 サウジアラビアはシェールガス開発の影響で石油の供給過剰が長期にわたって継続すると予想しており、安易な減産は首を絞めるだけと考えている。同国は圧倒的な埋蔵量を誇り、採掘コストは極めて安い。価格が下がっても生産量を維持し、国家財政への影響を最小限にした方が得策ということになる。

反米産油国は大打撃
 一部報道では、米国がサウジアラビアに対して減産をしないよう要請したとも言われている。というのも、原油価格の下落によって、ロシアやベネズエラといった反米的な産油国が大打撃となっており、このまま原油価格の下落が続けば、これらの国々に致命的な影響を与えることができるからである。
 採掘コストが安いサウジアラビアにとっては、米国の要請に応じて価格下落を放置した方が、自国にとってメリットが大きいということになる。逆にロシアやベネズエラは非常に厳しい状況に追い込まれる可能性が高い。

 ロシアは現在、1日あたり1000万バレル、ベネズエラは260万バレルの石油を生産している。両国は産出した石油の多くを輸出しており、原油価格の下落は、両国の国家財政を直撃することになる。
 原油価格が100ドルから65ドルに下落すると、ロシアは年間で955億ドル、べネズエラは約236億ドルの損失となる。ロシアのGDPは約2兆ドル、ベネズエラのGDPは2270億ドル約なので、原油価格下落の影響はロシアの場合GDPの約4.6%、ベネズエラの場合には10.4%に達することになる(図2)。

場合によっては金融的なショックも
 両国は経済基盤が非常に脆弱であり、原油価格下落による輸出の激減は、金融危機や財政危機を引き起こすリスクがある。ロシアはウクライナ問題で経済制裁を受けており、資金の国外流出が加速している。原油価格の下落はこうした状況にさらに拍車をかける可能性が高い。

 両国は反米的なスタンスで知られているが、両国の外交政策は原油価格の高騰に支えられていた面が大きかった。両国が経済的苦境に陥れば、地政学的なバランスも大きく変化することになるだろう。
 両国に対する債権の額は、グローバルな金融市場から見れば、微々たるものである。だが信用リスクが発生する事態となれば、金融市場にはちょっとしたショックとなるだろう。金融市場では警戒が必要な時期にきている。

 一方、原油の大幅安は米国の消費を活気づけている。米国における11月の販売台数は前年同月比4.6%増の130万2043台となり、11月としては13年ぶりの高水準を記録した。新車販売が絶好調なのは、何と言ってもガソリン価格が下落しているからである。燃費の悪い大型車の購入をためらっていた層の消費意欲が刺激されたことで販売台数が伸びたと考えられる。

 米国では原油価格が下落すると、消費者の可処分所得が増え、個人消費が拡大するといわれている。米国のGDPの7割は個人消費で占められており、原油価格の下落は、基本的に米国経済にとって追い風となる。感謝祭からスタートした米国の年末挑戦も、原油価格下落の影響を受け、好調な滑り出しを見せている。
 シェールガス関連企業の中には、採算割れから操業停止に追い込まれるところも出てくるだろう。だが、米国経済全体を考えれば、原油価格下落がマイナスの影響をもたらす可能性は少ないと考えてよい。

日本も恩恵を受けるが、為替には注意が必要
 短期的には様々な混乱があるだろうが、原油価格の低下は、長期的に米国をさらに繁栄させることになるだろう。世界最大の石油消費国が、世界最大の産油国になるインパクトは大きい。当分の間、米国は中東問題への関与を必要としなくなるほか、反米的な産油国の影響力も低下することになる。地政学的には大きな変化といってよい。

 日本も米国ほどではないが、原油安の恩恵を受けるはずである。輸出産業はエネルギー・コストの低下によって利益拡大が望めるし、北米向けの販売拡大も期待できる。ただ原油価格下落による世界秩序の変化は、基本的にドル高要因である。円安が過剰に進めば、原油安の影響を相殺してしまうことについては注意が必要かもしれない。

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