増税延期がもたらすもの

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 安倍首相は2014年11月21日、とうとう衆議院を解散した。すでに発表されている追加の量的緩和策と消費増税の延期によって、失速した景気を何とか回復させたい意向だ。
 一連の動きによって、今後、円安がさらに進展する可能性が高くなってきた。円安主導によるインフレ期待が、実体経済の成長にどれほど寄与するのかは分からないが、物価に与える影響は大きい。2%という目標は思いのほか容易に達成できるかもしれない。
 国内では、円安による弊害を指摘する声も一部から上がってきているが、もはや後戻りは難しく、政治的にどう折り合いを付けるのかが試されることになる。

予想外だったGDPのマイナス成長
 安倍首相は当初、消費増税延期の是非について国民に信を問うというシナリオを考えていたと考えられる。だがこうしたシナリオを崩してしまったのが、17日に発表された7~9月期のGDPである。
 エコノミストによる事前予想はプラス2%台(実質、年率換算)だったが、フタを開けてみれば正反対のマイナス1.6%。あまりにも悪い数値だったことから、政治的状況が大きく変わってしまった。今後の政治日程を考えると、解散そのものは、安倍政権の中で既定路線だった可能性が高いが、アベノミクスの是非を問う解散になるとまでは想像していなかっただろう。

 もっとも今回のGDPの数字は運が悪かったという側面があるかもしれない。GDPの内訳のうち下落幅が大きかったのは住宅で、前期比マイナス6.7%となっている。個人消費も弱くプラス0.4%にとどまった。プラス成長ではあるが、前四半期が5%のマイナスだったことを考えると、個人消費はかなり弱いと見るべきだろう。民間の設備投資もマイナス0.2%となっており、政府による公共事業以外は総崩れといった状況である。

 ただGDPの下落に対する寄与度という点では、企業の在庫調整がもっとも大きくなっている。消費の低迷から企業が生産と在庫を抑制した可能性は高く、やはり個人消費の弱さに原因があると考えられる。ただ、在庫の動きは読みにくい面があり、状況によってはこれほどのマイナスにはならなかった可能性もある。

アベノミクスは継続となる可能性が高い
 そうはいっても、過去のGDPの推移を考えれば、今回の落ち込みがもたらすインパクトは大きい。各四半期における実質成長率(年率換算)は、2013年10~12月期がマイナス1.6%、2014年1~3月期はプラス6.7%、2014年4~6月期はマイナス7.3%だった。7~9月期が大きなプラスにならないということは、消費増税による消費の落ち込みが長期にわたって継続している可能性が示唆される。

 与党に対抗できる野党勢力が存在しないことから、今回の選挙で与党が大敗する可能性は低いというのが大方の市場関係者の見方である。よほど悪い結果にならなければ、選挙後、安倍内閣は長期政権に一歩近づくことになる。

 このため、基本的なアベノミクス路線は、選挙後も堅持される可能性が高い。ただ政権が持つ政策的オプションは少なくなっており、手詰まり感が出ている印象は拭えない。それは政府が打ち出した緊急経済対策にもあらわれている。

もはや公共事業には頼れない
 安倍氏は、衆院解散を表明した11月18日、同時に緊急経済対策の取りまとめについても指示している。緊急経済対策の規模は、補正予算で数千億円、総額で2兆円から3兆円といわれているが、問題はその中身である。地方自治体による地域商品券の配布やガソリン・灯油の購入支援策、住宅エコポイントなど、直接的な支援策が目立っているのだ。

 これは選挙前という政治的事情も関係しているのだろうが、一方で公共事業の実施が限界に来ていることも示唆している。安倍政権はかなり積極的に公共事業を実施してきており、これまでの経済成長のかなりの部分が公共事業の結果であることは、周知の事実となっている。

 だが、国内の労働力不足の深刻化によって、最近では建設労働者の確保が極めて難しくなっている。予算がついても執行できない公共事業の案件が増えてきており、これ以上、ケインズ的な景気刺激策を継続するのは難しくなりつつある。

3本の矢のうち、金融政策しか残っていない
 アベノミクスは当初、「3本の矢」を基本戦略としていた。ひとつは財政、もうひとつは金融、最後は成長戦略である。だが痛みを伴う成長戦略に対しては反対の声が大きく、かなり早い段階で安倍氏は、いわゆる構造改革の実施を断念している。このため、経済政策はもっぱら財政と金融に依存する形となった。

 だがその財政については、人手不足の問題や財政健全化に対する懸念などから、これ以上の拡大が難しい状況となっている。安倍政権にとっては、金融政策のみで景気を浮揚させる以外に方法がなくなりつつあるといってよい。

 貨幣数量説的な立場に立てば、日本はまだ追加緩和が足りない状態という解釈も可能である。いわゆるリフレ派と呼ばれる人に言わせれば、インフレ期待がよりはっきりするまで緩和を続けるべきということになるだろう。もちろん、こうした見解に対しては、財政規律や日銀が抱えるリスクといった観点から反対する声もある。

いずれにせよインフレは進行する?
 ただ現実的には、量的緩和策を推し進め、円安を通じて物価目標を達成するしか選択肢がなくなっている。選挙での大敗北がなければ、こうしたアベノミクスの基本路線は継続となるだろう。市場においてドル高の流れが定着している現在、アベノミクスの継続は、円安、物価上昇、株高をもたらすはずである。だが、それが実質的な経済成長を伴うものなのかは何ともいえない。

 国内では円安の進行で苦しくなっている業界もあり、円安に対する懸念の声が出始めている。麻生財務大臣は21日午前の記者会見で「円安のテンポが早すぎる」と懸念を表明したが、為替は一時円高に振れたものの、株価も大幅に値下がりしてしまった(その後、為替と株価は戻している)。
 今後は、円安に対する懸念が出ると、株が売られるというパターンが顕著になる可能性があり、積極的な円安対策の実施は難しいかもしれない。円安によって打撃を受ける業界に対して財政的な支援をする以外、政治的に対処する方法はなさそうである。

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