米国経済の現状を冷静に眺めてみると(前編)

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 米国では、毎週のように主要な経済指標が発表され、市場はそのたびに大きく動く。ニュースの多くは前月比の伸び率や事前予測値との乖離に関するものである。FXや株式の短期的な取引には非常に重要な情報だが、中長期的な株価トレンドや景気動向を知りたい人にとっては、単純な前月比や伸び率の数値はミスリードを引き起こす可能性もある。
 例えば、ある指標の伸び率が低下するとニュースの見出しには「米景気が失速か!」という見出しが躍る。だが、実際には数ヶ月連続で増加した中での伸び率の低下であって、全体としては堅調な推移が続いているのかもしれない。
 米国経済は本当のところどのような状態なのか?生産、雇用、物価、消費、住宅、マネーという6つの指標から米国の現状を探った。

 米経済を分析する上で重要な指標は多いが、以下の6つは特に市場で重視されている。
  ・ISM景況指数(製造業と非製造業)
  ・雇用統計
  ・消費者物価指数
  ・個人消費支出
  ・住宅関連指標(住宅着工件数、中古住宅販売件数、S&Pケースシラー住宅価格指数)
  ・マネー関連指標(マネタリーベース、マネーストック)
 
 上記のうち、ISM景況指数や雇用統計は数値の絶対値が用いられるが、残りは伸び率の数字として報道されることが多い。伸び率の数字は、直近の短期的な動向を知るには効果的だが、「大きな流れを見る用途にはあまり向いていない」(銀行系エコノミスト)。景気の大きな流れをつかむためには、ある程度の長いスパンで数値の変化を追うことが重要だ。

企業活動は堅調だが、楽観はできない状況
 景気の先行指標といわれ、製造業の動向を示す重要な指標といわれているのが米サプライマネジメント協会が発表するISM製造業景況指数だ。同様の指標で非製造業版のISM非製造業景況指数というものもある。
 ISM景況指数は、製造業および非製造業300社以上の購買担当役員にアンケート調査を実施して作成される。50を上回ると景気拡大、逆に50を割り込むと景気後退を示唆するといわれる。
 製造業指数は月最初の営業日の午前10時(現地東部時間)に、非製造業指数は月初から3営業日目の午前10時(現地東部時間)に発表される。
 図1はISM指数とダウ平均株価の過去10年間の推移を示したチャートである。


 5月のISM製造業指数の値は53.5。4月の54.8からは下落したが、3月は53.4だったので横ばい状態である。ただし、2009年8月以降は50を割ることはなかったことから、製造業の環境は堅調に推移しているといえる。非製造業も同じような動きだ。
 景気と密接な関係があるISM指数だが、株価との関連性という意味では必ずしもそうではない。2005年から2007年までの株価急上昇期においてISM指数は一貫して下げ続けている。

 ISM指数が株価よりもさらに景気に先行する指標と考えるならば、その後のリーマンショックを暗示していたことになる。一方、当時の米国は製造業を中心としたハードウェア的な産業よりも金融などのサービス産業の躍進が著しく、株価の動向と製造業の動向には関連性がなかったと考えることもできる。
 ただ、ISM指数は歴史のある指標であることから、市場での信頼性は高い。素直に現在のISM指数を読めば、企業活動は堅調に推移しているが、景気が加速するほどの勢いはなく楽観はできない状態だ、ということになる。

GPDの7割を占める個人消費も今のところは堅調だ
 個人消費支出は米商務省が取りまとめている個人の消費に関する統計である。米国では個人消費がGDPの約70%を占めており(日本は約6割)、景気動向を判断するための非常に重要な指標となっている。
 個人消費支出は月の最終日もしくは翌月初日の午前8時30分(現地東部時間)に発表される。
 図2は個人消費支出とダウ平均株価の10年間の推移を示したものである。個人消費は伸び率の数値が多用されているが、長期的な動向を見るためにに絶対値の推移を記載している。


 個人消費は先にも述べたようにGDPの約7割を占めているため、個人消費が横ばいになっただけで、株価には非常に大きなインパクトを与える。
 だが10年間の中長期的なスパンで見れば、個人消費支出は順調な伸びを示してきたといえる。ただし大きな例外はリーマンショックであり、このときは個人消費が半年でピークから約20%も下落した。これは尋常ではない事態であり、リーマンショック後の不景気が100年に一度といわれたのもうなずける。
 リーマンショック後は横ばいの時期が多少あるものの、個人消費の伸びはやはり堅調である。いつ暴落するのかという不安が渦巻くにもかかわらず、株価が以外にも堅調だったのは、個人消費の伸びを考えると説明がつく。
 リーマンショック後の個人消費の伸び率は平均すると約3%であり、この水準が維持できれば米国の景気は底堅く推移することが予想できる。
 ISM景況指数と個人消費の数値は同じような状況を示唆しているといえるだろう。

だが失業率の回復ペースは遅い
 雇用統計は、米国の景気動向を示すもっとも重要な指標のひとつであると同時に、米国政治に極めて大きな影響を与える指標でもある。中でも失業率の数字は歴代の大統領選挙を大きく左右してきた。
 米国では失業率が5%を切ると完全雇用とみなされる。逆に70年代後半から80年初頭までの経済停滞時代には10%を超える失業率となっていた。7%を超える失業率で大統領に就任するのは不可能といわれている。
 雇用統計は、各月の第一金曜日の午前8時30分(現地東部時間)に発表される。
 図3は失業率とダウ平均株価の過去10年間の推移を示したものである。


 リーマンショック後、失業率は一時10%を超える勢いだったが、徐々に回復し現在は8%前後である。今後の失業率の推移は、再選を狙うオバマ大統領の命運を握っているといっても過言ではない。
 米国では失業率がなかなか回復しないことへの苛立ちが強まっている。図3を見ると、ISMや個人消費など他の指標と比べると回復のペースが遅い印象はぬぐえない。

 だが、米国経済は景気が回復しても失業率がなかなか改善しにくい体質になりつつある。
 80年初頭の10%近かった失業率が5%に低下するのに約7年を要している。また90年代の景気拡大局面においては、企業のIT化やアウトソーシングなどのスリム化が一気に進み、業績が急拡大しているにもかかわらず、新しい雇用が生まれない状況が続いた(ジョブレス・リカバリー)。
 米国では、ソフトウェア開発や経理業務など、これまでは比較的付加価値が高いと考えられていた業務までもが、新興国へアウトソーシングされている。また、職探しをあきらめてしまった人は失業率にカウントされないため実態はもっと悪いという見方もある。
 いずれにしても、失業率の数字は容易に回復しない可能性があり、これが個人消費の足を引っ張り結果的に景気回復を遅らせるかもしれない。

次回に続く)


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