露天然ガスの中国輸出で、ウクライナ問題に地政学的変化

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 露天然ガスの中国輸出で、ウクライナ問題に地政学的変化
Share on Facebook

 ウクライナ情勢をめぐるロシアと欧州の地政学的な関係が微妙に変化している。きっかけとなったのは、ロシアと中国が締結した天然ガスの長期供給契約。これまでロシアは、欧州に対して天然ガスの供給を制限することをちらつかせて交渉を進めてきたが、欧州向け天然ガスはロシアにとって数少ない外貨獲得手段でもあった。

 欧州向けのガス供給を制限すれば、今度はロシアが打撃を受けてしまうというジレンマを抱えていたが、中国という大口供給先を確保することに成功した。
 オバマ政権はウクライナ問題に対して積極的に取り組む姿勢は見せているが、あくまでも経済的な圧力に限定する方針を崩していない。欧州各国はより難しい対応を迫られるだろう。

ロシアの天然ガスは武器でもあるがアキレス腱でもある
 ロシアは2011年までは4%台の経済成長を実現していたが、2012年から経済が失速し2013年には1.5%程度まで成長が落ち込んでいる。
 ロシアのGDPは実は2兆1000億ドル(約214兆円)しかなく、米国の7分の1、EUの6分の1程度の規模である。経済的には小国にすぎないロシアが、欧米各国を相手に強気の交渉を継続できるのは、過大な費用をかけた軍事力と天然ガスというエネルギー源があるからである。

 欧州は年間約5500億立方メートル以上の天然ガスを消費しているといわれる。このうちロシアからの輸入は1600億立方メートルにのぼり、全体の約3割を占めている。ロシアが欧州向けの天然ガス供給を制限するような事態となれば、欧州各国は大混乱に陥ってしまう。

 だがロシアはロシアで、現実にそうした行動に出ることは難しいといわれている。それは天然ガスの輸出がロシアにとって、数少ない外貨獲得手段だからである。ロシアの年間天然ガス生産量は年間約6000億立方メートルといわれているが、欧州向けの輸出は全体の25%を占めている。現在の欧州における天然ガス価格を適用すると、金額的には640億ドル(約6.5兆円)に達する。ロシアの輸出総額は40兆円程度しかないので、実際に輸出を制限してしまうと、ロシアはたちまち経済的苦境に陥ってしまうのだ。
中国がロシアに恩を売った
 だがロシアはこの状況をある程度打開できる環境を手に入れた。プーチン大統領は2014年5月20日、中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。ロシアと中国は、ロシアが中国に対して、年間最大380億立方メートルの天然ガスをパイプラインで供給する契約を締結した。期間は30年。総額は4000億ドル(約40兆円)になる。

 中国とロシアは10年にわたって天然ガスの交渉を続けてきたが、価格面で折り合いがつかず、交渉をまとめることができなかった。今回、このタイミングで契約締結となったのは、中国側がロシアに対して価格面で譲歩したことが主な要因である。
 天然ガスの価格は、市場取引ですべてが決まるものではない。いわゆるスポット取引については、市場環境が即座に反映されるため、自然な価格形成が行われている。だがエネルギーは安全保障問題と深く関わっており、単純に市場メカニズムだけが価格決定要因というわけではない。

中露交渉のポイントは価格
 特に国家間の交渉によって長期契約が締結された場合、その金額は千差万別となる。現在、欧州の天然ガス価格は千立方メートルあたり400ドル程度だが、ロシアは近隣の国に対してはもっと戦略的な価格を提示している。


 ロシアにとってみれば、中国のように大量に、そして長期間天然ガスを買ってくれる相手は非常に貴重な存在である。特に欧州との交渉で苦しい立場にある今はなおさらである。その意味で、中国は足元を見た交渉が可能であった。

 中国は千立方メートルあたり350ドルというロシア側の希望をほぼ受け入れたとみられる。この価格の中には、天然ガス開発プロジェクトへの中国企業の参画といった条件も含まれているといわれる。中国はロシア苦境をうまく利用し、政治的にかなりの恩を売った格好だ。

オバマ政権の関心は低い
 オバマ米大統領は5月28日、陸軍士官学校の卒業式で演説し、当面の外交政策を明らかにした。「地域の侵略を放置すると、同盟国に多大な衝撃を与える可能性がある」として、ウクライナ問題に対する懸念を表明したが、一方で、政権としては、外交を重視し、軍事行動を極力控える方針であることを明確に打ち出している。

 欧州各国は米国がロシアにもっと強い圧力をかけることを望んでいるが、オバマ政権はそれほど積極的ではない。中国への天然ガス輸出という切り札を手にしたロシアは、欧州に対して強気に出てくるだろう。欧州各国は、ロシアに対してより厳しい交渉を強いられることになる。

【関連記事】