イノベーションと株価の関係(第2回)

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前回から続く)

ネットバブルがもたらしたソニーの株価高騰
 続いて、いわゆるネットバブル期のソニーの株価を検証してみたい。
 ソニーは1980年代まではAV機器を得意とする総合電機メーカーであった。しかし、95年に出井伸之氏が社長に就任すると、インターネットとパソコンを軸に、ハードウェアとコンテンツを融合させる新しいビジネス・モデルを提唱して、大胆な業態転換を試みた。
 株式市場ではネットバブルが到来する直前であり、ソニーはネット関連銘柄の主力とみなされるようになり、株価は著しい高騰を見せた。図5はソニーの1985年から2002年までの株価推移とパソコンの普及率を記載したチャートである。

 パソコンは、製品が登場してすぐに普及したわけではなく、普及率が10%前後の状態がしばらく続いていた。この点においては、高度成長期における家電や自動車とは状況が異なっている。しかし、普及率が16%を超えると、やはり理論通りに普及率は急激に上昇した。ソニーはパソコンの普及にあわせて人気商品となるVAIOを投入し、株価は3,000円台から18,000円近くまで急上昇した。
 ソニーはその後、ビジネス・モデルの抜本的な転換には至らず業績が低迷した。その後就任したストリンガー会長は、コンテンツなどの強みは生かすものの、従来からの得意分野であるエレクトロニクス分野を再度強化するなど、現在に至っても模索が続いている。
 しかしながら、パソコンとインターネットが普及した2000年前後に限っていえば、従来のイノベーション銘柄と同様、S字カーブと株価には明確な相関が見られた。
 それでは、イノベーションを伴って新しい製品が市場に投入された時は、いつでも同じような法則で株価は上昇するのだろうか?実は必ずしもそうではない。電卓という画期的な商品で急成長したシャープの株価はS次カーブの理論通りには動かなかった。

早々にピークアウトしたシャープの株価
 マイカーブームやカラーTVブームの影に隠れているが、1960年代の後半には電卓の熾烈な開発競争が行われていた。ピーク時には数十社が電卓市場に参入し、開発競争と価格低下があまりにも激しかったため、俗に「電卓戦争」と呼ばれている。
 電卓戦争の主役の一人が早川電機(現シャープ)である。1964年に最初の製品を投入したのち、次々と小型化、低価格化を推し進めてきた。図6は早川電機の60年代から70年代前半にかけての株価推移と電卓の普及率を示したチャートである。

 自動車、家電、パソコンと異なり、電卓の場合には、普及率が16%を超えるはるか以前に株価はピークアウトしている。S字カーブの理論は必ずしもすべての製品やサービスに当てはまるわけではないことがわかる。
 自動車や家電と異なり、電卓は単価が安く、その分普及も早いことが予想され、結果として株価もすばやく反応した可能性が高い。シャープの場合、普及率が16%前後やその後の本格的普及期に株価が急上昇すると判断した投資家は、大きな損失を抱えただろう。

株価のピークをより確実に知る方法
 それでは、株価が通常よりも早くピークに達することを事前に予測することは可能なのだろうか? S字カーブと同様、イノベーション普及についてよく用いられる指標のひとつに、「価格と出荷台数のマトリックス」がある。縦軸に価格、横軸に出荷台数を記載したマトリックスで、両者をプロットした点のトレンドを分析するという手法である。
 図7は電卓における「価格と出荷台数のマトリックス」である。それぞれの年度ごとの製品の平均価格と出荷台数を記載している。縦軸、横軸ともに対数表記してある。



 1965年から1970年までは、出荷台数に対する価格のトレンドに大きな変化はなかった。このことは、技術革新による価格低下と付加価値の維持についてバランスが保たれていたことを示している。この状況に大きな変化が生じるのは1970年以降である。
 価格トレンドが大きく変化し、出荷台数の伸びに対して価格低下の速度が増大した。このことは、電卓という製品は技術的にピークを迎え、付加価値の低い価格競争に突入したことを示している。
 シャープの株価がピークアウトするのは1970年前後だが、同社の株価は電卓分野における技術のピークを明確に反映していることが分かる。
 それでは、他の分野ではどうだろか? 図8はパソコンにおける価格と出荷台数のマトリックスである。電卓ほど急速に普及していないので、縦軸、横軸ともに対数ではなく、通常表記となっている。


 パソコンの普及率が10%を超えた1990年代前半以降、2000年までは価格トレンドは一定の傾きとなっている。2000年以降は、明確なトレンドはなく、出荷台数や価格も大きく変動するようになった。
 パソコンについては、2000年前後がイノベーションにおけるピークであったと考えられる。図5のソニーの株価からも分かるように、株価のピークは2000年であり、パソコン分野においても、イノベーションのピークと株価のピークは一致している。
 もっとも、電卓、PCともに、価格トレンドの変化が確実に把握できた次の年度には株価はすでに下落してしまっている。これを見る限りでは、株価のピークを事前に、かつ確実に予測することは難しいといえるだろう。しかし、価格トレンドを使った分析は株価の動向についてより多くの情報を与えてくれることだけは確かだ。

(本記事はこれが最終回です)

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