ウクライナ問題。市場静観の理由

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 ロシアのプーチン大統領は2014年3月18日、ウクライナの一部であったクリミアをロシアに編入する条約に調印した。米国やEUは部分的な制裁措置の発動を決定しているが、欧米各国はクリミアの返還まではロシアに求めない方針とみられる。ロシアがこれ以上ウクライナに介入しないかどうかが、今後の妥協点となりつつある。

 一連の出来事では、軍事力を背景にしたロシアの動きが目立つが、もう少し視野を広げれば、ロシアは基本的に防戦一方の立場であることが分かる。ロシアのGDPは米国の8分の1以下という水準であり、EUにその経済圏を侵食されつつある。軍隊の維持がかなり困難な状況となっており、外交の切り札である天然ガスも、実は唯一の外貨獲得手段だ。

 ロシアは北朝鮮と同様、いわゆる弱者の戦略を採用しているわけだが、こうしたロシアの状況が逆に欧米各国にとって、対応に苦慮する原因となっている。欧米各国には、多くの犠牲を払ってウクライナを救済するメリットが少ない。市場も大方そのような判断を下しており、今のところウクライナ問題がより深刻化するという見方は少ない。

ロシアの経済的な立場は低い
 旧ソ連時代は超大国として米国と対峙していたロシアだが、現在の国際的地位はかなり低下している。ロシアの2013年のGDPは2兆1000億ドルしかなく、日本の半分以下、中国の5分の1、米国の8分の1しかない。1人あたりのGDPも米国の3分の1以下で、いわゆる先進国と比較するとかなり貧しい。ロシア人男性の平均寿命は63歳と異常に短く、北朝鮮など最貧国並みである。

 軍事大国というイメージがあるが、実際には9兆円ほどしか軍事費はなく、日本よりは多いものの、中国の3分の2、米国と比較すると7分の1の水準にとどまっている。金額ベースではもはや軍事大国ではない。
 近年、安全保障の分野は、ロボット兵器に代表されるように、装備のハイテク化が急激なペースで進んでいる。軍隊を保有する国の技術力や経済力への依存度がさらに高まっているわけだが、ロシア軍はその点で非常に厳しい状況にある。民間設計基準で製造されたフランスの安価な新型揚陸艦の輸入に踏み切ったのは、ロシア軍が置かれた厳しい状況を反映しているといわれる。


むしろロシアは守勢に回っている
 ウクライナはロシアと比較すると、さらに経済的に厳しい状況にある。ウクライナのGDPは1750億ドル(約18兆円)しかなく、1人あたりのGDPは日本の10分の1程度の水準である。もし現在の状況でウクライナがEUに加盟するということになると、東欧諸国と同様、ドイツやオランダなどに対する安価な食料、および労働力の供給基地になってしまう可能性が高い。

 ロシアの主要な隣国であるウクライナがそのような状態になってしまうと、その影響がロシア経済にも波及してくる可能性がある。ロシアは国内に目立った産業がなく、外貨を獲得する方法は限られている。ロシア経済の一部がウクライナと同じようにEU経済圏に取り込まれるようなことになれば、プーチン政権の支配力にも影響が出てくる可能性があるのだ。

 軍事力を使った強引なクリミア編入は許されることではないが、ロシアが置かれた厳しい状況を考えると、黒海への出口であるクリミア半島だけは死守したいというロシア側の意図も分からなくはない。

天然ガスが抱える矛盾
 つまりロシアは、EUとともに迫り来るグローバル経済圏に対して、ウクライナを防波堤にすることで、自国経済が侵食されないよう防御しているわけである。
 こうしたロシアの最後の切り札は豊富な天然ガスである。ウクライナ国内には目立ったエネルギー資源がなく、多くをロシアからの天然ガス供給に依存している。親欧州派が多い西部は基本的に穀倉地帯となっており、あまり工業は発達していない。親ロシア派が多いといわれる東部には部分的に工業地帯が広がるが、天然ガス供給に加えて、ビジネス的にもロシアの企業との関係が深く、経済的自立は難しい状況にあるといわれる。

 しかもロシアの天然ガスはウクライナだけに供給しているわけではない。ドイツをはじめとする欧州各国にもロシアは天然ガスを大量に輸出しており、欧州の天然ガス需要の4分の1から3分の1がロシアに依存しているといわれる。だが一方で天然ガスはロシアにとって外貨を稼ぐことができる数少ない産業のひとつでもある。ロシアが天然ガスの供給を停止すれば欧州経済は大打撃となるものの、ロシア経済も壊滅的な影響を受けてしまうという矛盾した状況にある。

総じてウクライナ問題への関心は低い
 プーチン大統領はこうした状況をよく理解しており、クリミア併合を着地点として欧米と交渉を進める意向といわれる。実際クリミア併合の演説を行った際には、これ以上のウクライナ介入はしない方針を示唆する発言を行っている。

 米国は現在、自国に豊富なシェールガスを確保しており、これを欧州向けに輸出すれば、ロシア経済に大打撃を与えることができる。だがオバマ政権がこうした対決的姿勢を取る可能性は極めて低い。
 もし欧州に対して大量の天然ガスを輸出すれば、国内の天然ガス価格が跳ね上がるというジレンマを抱えているからだ。米国民の最大の関心事は経済であり、これを犠牲にしてウクライナ問題に介入するメリットがオバマ政権にはない。

 結局欧米は限定的な経済制裁をロシアに加える形で状況が推移する可能性が高い。北朝鮮やイランに代表されるように、欧米に比べて相対的に貧しい国は、経済制裁に対して強いという特徴がある。北朝鮮やイランとは異なるが、ロシアも基本的には同様の構図であり、少々の経済制裁には耐えられる可能性がある。ロシアはいわゆる弱者の論理をフル活用しているわけである。

 このためマーケットは基本的にウクライナ問題に対して様子見ムードである。ロシア側あるいは欧州側のスタンスが大きく変わらない限りは、マーケットへの影響も限定的なものになるだろう。

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