ビットコインから通貨の本質を考える

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 インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」が大きな話題となっている。2014年2月、日本にある主要な取引所「マウントゴックス」がハッカー攻撃され、利用者から預かっていたビットコインをほぼすべて失うという事件が発生した。
 ビットコインはどこの政府の規制も受けていないことから、得体の知れないモノというイメージが出来上がっており、国内では批判的な論調が目立っている。

 だがビットコインは非常に良く設計された「通貨」であり、今回の事件がどのような結末になるにせよ、今後の国際金融システムに極めて大きな影響を及ぼすことは間違いない。またかつてのタックスヘイブンと同様、表面上は敵視しながらも、背後ではこれを積極活用する国が出てくる可能性もある。ビットコインとは、賢い付き合い方が必要だ。

ビットコインはただの電子マネーではない
 ビットコインについては電子マネーの一種という解説も見られるがそれは違う。電子マネーはあくまで従来の通貨をベースに電子決済が可能になるよう基盤を整備しただけのものであり、従来通貨の決済手段の一部にすぎない。だがビットコインは、それ自体に価値が生じており、通貨の定義にもよるが、まさに通貨そのものといってよい。

 通貨は多くの人がそれに価値があると信用して流通すれば通貨として成立する。通常は国家権力を背景にしなければそのような信用は得られないが、必ずしも国家権力を背景にしないと通貨が発行できないというわけではない。現代でも香港ドルのように香港政府の監督下とはいえ民間銀行が発行する通貨もある。

 ビットコインは電子マネーの一種であり、匿名性が高く犯罪に使われやすいだけのものと認識してしまうと、事の本質を見誤る可能性がある。ビットコインに問題があるとすると、それは匿名性などではなく、国家の通貨発行権益(シニョリッジ)を脅かす可能性というもっと根源的なものである。

戦前の金本位制の本当の姿とは?
 通貨が通貨として流通するためには、その通貨に価値があると皆が考える必要がある。日本円は日本銀行と日本政府のことを皆が信用しているので、通貨に価値があると認識されている。だがこの考え方は必ずしも絶対的ではない。戦前の日本には金本位制を採用していた時期があり、その際には日本政府そのものに対する信用というよりは、日本政府が持つ金に対する信用で、通貨価値が担保されていた。

 さらに厳密に言えば当時の日本は金本位制ではなく、金の代わりに保有していた当時の基軸通貨ポンドを信用の源泉とするポンド本位制であった。当時の英ポンドは現在のドルと同じような基軸通貨であり、国際的に信用されていた。日清戦争の賠償金は金で受け取るはずだったが実際にはポンドで受け取り、国力が弱かった日本はその外貨を発行準備として日本円を発行したのである。

 これは逆にいえば、何らかの価値があると皆が認めるものがあれば、通貨として成立するということを意味している。その点でビットコインは非常に巧妙な仕掛けがしてあり、それ自体に価値を生じさせる工夫がなされている。

ビットコインの本質は金本位制
 ビットコインの本質は金本位制に近いものと考えてよい。ビットコインには「採掘」という概念があり、あたかも金鉱を掘るかのように、ビットコインそのものを作り出すことができる。
 だがそのためにはコンピュータを使って大量の演算を処理するという「労働」を提供しなければならない。したがって投入された労働量分の価値がビットコインには存在すると見なされている。

 この労働は、取引されるビットコインが本物であることを数学的に証明するための作業に利用されている。ビットコインには通貨を一元的に管理し、その価値を担保する国家のような存在はない。
 だが、取引されるビットコインの正当性を証明する仕事を提供する「金鉱堀り」が存在することで、自立的にその価値が担保されるようになっているわけだ。

 しかも採掘で得られるビットコインの総量は数学的に決められており、むやみに発行量を増やすことができない。基本的に保有する金に応じた量しか通貨を発行できず、金の生産量は毎年ごくわずかしかないという意味で、金本位制に極めてよく似ている。というよりもビットコインを作った「ナカモトサトシ」氏(その正体は日本人なのかも含めて不明)は、金本位制をベースにこれをデザインした可能性が極めて高い。

国家の通貨発行権益を脅かす?
 ビットコインは現代では初めての国家を介在しない通貨であり、そこが最大のポイントであり、かつ最大の問題点でもある。投機の対象となっているので危険であるとか、匿名性が高いといった問題はビットコインに特有のものではなく、本質的な話とはいえない。

 ビットコインは要するにまだ途上国の通貨であり、為替市場で投機の対象となるのはある意味で当たり前のことである。また匿名性についても、国家の管理を受けていないという意味でしかなく、通貨本体に電子的にすべての取引履歴が残るビットコインは、偽造が容易な一般的な紙幣よりもむしろ匿名性は低い。

 各国政府がビットコインを警戒するのは、通貨発行権益(シニョリッジ)という国家にとって極めて重大な権益を直接脅かす可能性があるからだ。現在、米国ではビットコインの規制のあり方をめぐって議論が始まっているが、すべてがオープンに議論されるとは考えない方がよいだろう。これはかつてのタックスヘイブンの議論と少し似ている部分がある。

国際金融のオモテとウラ
 国家は基本的にそれぞれの通貨を発行し、その流通を管理下に置こうとする。だが世の中にはそうした管理をすり抜けて運用される資金も存在する。タックスヘイブンはそうしたウラの資金が流れ込む先になっており、表面上は各国がその存在を批判している。

 だが、タックスヘイブンは英国が自国の国益のためにわざわざ創設したものであり、あえてウラ資金が流れ込むよう植民地を使って始めたシステムといってよい。英国はそうした金融情報を一手に握ることで、金融立国としての地位をより確かなものにしようと工夫したわけである。

 ビットコインが今後、本格的な通貨として流通するのかは現時点では何ともいえない。金本位制がベースになっていることを考えると、経済の拡大に合わせて通貨を発行できず、その役割を終えてしまった金本位制と同じ運命を辿ってしまう可能性もある。

 ただ、米国のような基軸通貨国は、ビットコインを問題視しつつ、背後ではその経済圏を自国のために利用する可能性がある。得体が知れないからといって単純に敵視してしまうと、国益を損ねることにもなりかねない。ビットコインとは賢い付き合い方が必要である。

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