楽観論が支配する米国株式市場の落とし穴

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 好調な米国経済を背景に、投資家の間で米国株への期待が高まっている。米FRB(連邦準備制度理事会)は2013年12月、とうとう量的緩和策の縮小を発表し、リーマンショック以来続いてきた非常事態からの脱却を宣言した。金利も順調に上昇しており、市場では早くもダウ2万ドルという強気の発言が聞かれるようになってきた。

 中長期的にも米国のファンダメンタルは良好だ。米国は今後も継続的に人口増加が見込める数少ない先進国である。またシェールガス革命によって安価なエネルギー供給が可能となり、多くの製造業が米国に製造拠点を回帰させている。製造業が息を吹き返したことと、天然ガスの輸出が開始されたことで、米国経済の懸案事項だった経常赤字が急激に改善してきている。税収が増えたことで政府の財政再建にもメドが立ってきた。

 米国市場には、これといった大きなリスク要因が見当たらないが、一方で悲観論者がいなくなった時が市場の転換点であるともいわれる。総楽観論が伝えられる2014年の米国の株式市場はどのように評価すればよいのだろうか?

米国経済の足かせだった製造業の状況が改善
 リーマンショック以降、米国経済は堅調な個人消費を背景に底堅い回復を示してきた。株式市場は素直にそれを反映し、ダウ平均株価は上昇を続けてきた。
 だが製造業の景況感は冴えない状況が続き、失業率も思ったように改善せず、市場にはどこか苦しい雰囲気が漂っていた。株式市場の上昇とは反対に、長期金利は先行き不透明感から下落が続いていたのである(図1)。

 だが2013年の後半から、こうした状況が大きく変化してきた。きっかけは製造業の景況感の改善である。欧州景気がほぼ底入れしたことをきっかけに欧州市場に対して強気の見方をする経営者が増加、米国における製造業の景況感指数が急上昇してきたのである。景況感の境目である50を割ることもあった同指数は2013年11月には57.3まで上昇している。

 製造業の景況感の上昇は労働市場にも好影響を及ぼした。2013年10月の雇用統計では、新規雇用者数の増加が好景気の目安である20万人を超えた。最新(12月)の統計では雇用者数の増加は鈍化したが、失業率は6.7%に急低下している。10月には政府機関閉鎖があったことを考えると、景気回復の力強さを感じさせる数字といえる。こうした状況を反映し、米国の金利は上昇に転じており、2013年12月にはとうとう3.0%の水準に達した。


FRBの出口戦略は非常に効果的だった
 FRBによる量的緩和縮小のタイミングやその方法も効果的であった。FRBはこれまで国債を中心に毎月約850億ドルの資産を購入していたが、2014年1月からはこれを750億ドルに減額する。だがその一方で、失業率が6.5%を切ったとしても、インフレ率が目標を下回っている限りは緩和を継続するというスタンスを明確にした。金利引き上げについても、2015年頃になるという見通しをよりクリアにしている。

 出口戦略をスタートさせつつも、緩和的なスタンスを継続する内容であり、かつ金融政策の不透明性が完全に払拭された。出口戦略の開始が金利急騰を招き、株式市場の下落の引き金になるという可能性はかなり少なくなったと考えてよいだろう。
 米国の2015年までの経済成長見通しは、日本や欧州など、他の主要各国を上回る水準となっており、OECD(経済協力開発機構)各国の平均をも上回っている。米国市場に対する安心感は他の市場を圧倒している(図2)。

 米国市場を楽観視できる理由はこうした短期的な理由だけではない。中長期的にも米国経済には明るい材料が揃っている。米国は先進国では珍しく継続的な人口の増加が見込まれているからである。米国は現在約3億2000万人の人口だが、2020年には3億4000万人に、2025年には3億5000万人に増加する見込みである。人口はGDP成長の大きな要因であることを考えると、米国が中長期的にも成長を続ける可能性は高い。


人口増加とエネルギー自給で長期的にも成長が見込める
 この状況をさらに後押しするのが、シェールガス革命である。米国では安価なシェールガスが次々に開発されており、近い将来、エネルギーを完全に自給できるようになる。世界最大の石油消費国でエネルギーを自給できるようになるインパクトは大きい。
 これまで米国は毎年多額の経常赤字を垂れ流してきた。それには二つの理由がある。ひとつは、多くの製造業が中国など新興国に製造拠点を移したことで原材料や部品の輸入が拡大したこと。もうひとつは、米国内で消費するエネルギーの多くを輸入に頼ってきたことである。

 だがシェールガスの開発で状況は一変した。米国の製造業が新興国から米国に製造拠点を戻し始めたことで、原材料や耐久財などの輸入が減少し、貿易赤字が減り始めたのである。また2013年からは余剰天然ガスの本格的な輸出も始まった。これによって米国の経常収支が急激に改善しているのだ。

 米国の4~6月期における経常赤字は989億ドルと、4年ぶりに1000億ドルを下回った。今後は経常収支の改善がさらに加速すると予想されている。米国経済最大の懸念材料であった経常赤字問題は、輸入の減少と天然ガスの輸出によって近い将来、解決される可能性が高くなってきた。
 さらに好都合なことに税収の増加によって財政再建のメドも立ちつつある。米国経済に関する大きな不安材料はほぼ消え去った状態にある。

こうした状況をすで市場は織り込んでいる?
 こうした良好な経済状況を考えると、確かにダウ2万ドルという声が市場関係者から出てきても何ら不思議はない。だが経済のファンダメンタルズが好調であることが、必ずしも株式市場の上昇につながるとは限らない。経済の見通しが良好であるが故に、株式市場はすでにその状況を織り込んでいる可能性がある。何かをきっかけに先行きに対する不透明感が台頭すれば、市場が過剰反応して大きく下落することも考えられるのだ。

 短期的にはダウ平均株価は順調に上昇を続け、金利も2013年後半から上昇に転じている。足元の企業収益も好調であり、このままの状況が続けば、株価と金利はともに順調に上昇していく可能性が高い。だがもう少し長期的なスパンで株価を眺めてみると、少し違った風景も見えてくる(図3)。


 ダウ平均株価は1993年以降、順調に上昇を続けてきたが、一本調子で上昇が続いたわけではない。2003年と2009年には大幅な下落に見舞われている。
 2003年はITバブルの反動であり、日本では金融危機寸前となり、銀行の国有化が行われた時期である。2000年と比較すると株価は一時的ではあるが30%近く下落した。2009年の下落はもちろんリーマンショックであり、直前に14000ドルあった株価は半分にまで下落してしまった。

 大きな下落の直前、株価がピークになるまでは、5年から7年の上昇期間が観察される。切れ目なく株価の上昇が続くことはないという歴史的事実を考えると、リーマンショック後、5年間連続して上昇した現在の株式市場は、そろそろ大きな調整があってもおかしくないことになる。

下落は最大の投資チャンス?
 もし米国の株式市場に20%を超える大幅な下落があった場合、これまでの上昇基調が終了したサインと考えるのか、上昇途中の調整と考えるのかで、今後の投資戦略は大きく変わってくることになる。

 良好なファンダメンタルズを根拠に、米国経済は今後も明るいと考えるのであれば、近い将来やってくる株価の下落は、最大の投資チャンスということになるだろう。一方で、こうした状況をポジティブに考えないのであれば、現在の株価水準は米国投資から撤退する最高のタイミングとなる。いずれにせよ2014年が、投資家にとって大きな分かれ道になっていることだけは間違いない。

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