変質する日米同盟。米中交渉と日本市場のローカル化

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 変質する日米同盟。米中交渉と日本市場のローカル化
Share on Facebook

 安倍首相の靖国神社参拝に対して、米国政府が「失望している」という異例の声明を発表した。米国が貿易摩擦問題以外で日本の内政について公式声明を出すというのはこれまでになかったことである。米軍普天間基地の辺野古移設が正式に決まり、日米間の大きな懸案事項が片付いたと思われたタイミングだっただけにそのインパクトは大きい。

 米国は中国を交渉相手と見なす新しいアジア戦略にシフトしており、日米同盟を基軸とした従来の安全保障政策からの脱却を図っている。この動きは日本側が想像するよりもドラスティックである可能性が高く、今後アジアの安全保障問題は米中関係を軸に動いていく可能性が高い。

 米国経済は今のところ、極めて順調に推移している。FRBは量的緩和の縮小を開始したほか、財政再建問題もほぼメドが立った。シェールガス革命によって経常収支も大幅に改善してきている。世界経済が今後しばらくの間、米国主導で展開していくことはほぼ確実であり、高度成長期を終えた中国経済がこれにどうリンクしていくのかに市場は注目している。
 日米関係がどうなるかは今後の安倍政権の対応次第だが、このままの状態が続けば、日本はさらに米中関係の陰に埋もれてしまう可能性が高いだろう。

米国が声明を出すに至った背景
 安倍首相は政権発足から1年となる2013年12月26日、靖国神社に参拝した。米国大使館と米国務省はその直後、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」という異例の声明を発表した。米国政府の声明発表とほぼ同じタイミングで、欧州連合(EU)やロシア外務省が懸念を表明したことなどを考え合わせると、首相の靖国参拝をある程度予想し、事前に準備していた可能性が示唆される。

 米国側は2013年の中頃から、靖国神社を参拝しないよう非公式に要請を続けていた。当初8月15日に参拝する予定であった安倍首相が参拝を取りやめたのは、米国の意向を受けての決断といわれている。

 その後11月には、かつて対日政策のキーマンといわれたアーミテージ元国務副長官が来日。自民党幹部と会談し、首相の靖国神社参拝を自重するよう促した。さらに中国が防空識別圏を設定した直後、日本を訪問したバイデン副大統領は「日中はより効果的なコミュニケーションを」と発言し、暗に靖国神社を参拝しないよう日本側に求めていた。

 首相の靖国参拝は、直前に米国側に通告されたといわれている。だが官邸は、参拝を行った場合の米国側の反応について事前に探りを入れており、米国側も状況をある程度認識していた可能性が高い。日本が米国の要請を受け入れないと判断し、今回の声明に至ったと考えられる。


背景には米国のリバランス戦略がある
 このところ日米関係がギクシャクしているというのは多くのメディアで報じられているが、その根底にあるのは普天間基地の移設問題と歴史認識問題の2つといわれている。

 オバマ政権は従来の安全保障政策を根本的に見直し、アジア太平洋地域にリソースを集中させる、いわゆる「リバランス戦略」を進めている。その背景にあるのは当然のことながら中国の台頭である。

 かつての旧ソ連と異なり、米国は中国を完全に敵国とは見なしていない。中国は交渉する相手であり、米国はアジア太平洋地域の安全保障について中国と何らかの妥協を図りたいと考えている。相手が旧ソ連という時代には、大規模な軍隊を沖縄に常駐させることが基本戦略となっていたが、中国が相手の場合にはこうした大部隊の常駐は必要なくなる。沖縄に常駐していた海兵隊を撤退させ、グアムやオーストラリアに再配備するという動きはこうした情勢の変化を受けて実施されている。

 米軍再編の動きをさらに加速させているのが、米国の軍縮とIT(情報技術)の進歩である。米国は、10年間で4870億ドル(約50兆円)という史上最大規模の軍縮を実施している。またITの進歩によって軍のオペレーションの効率が飛躍的に向上している。このため沖縄に大量の部隊を常駐させる必要はなくなる一方、新しいオペレーションに対応できる新しい基地の整備が求められている。それが辺野古というわけである。

 沖縄から海兵隊が撤退するにもかかわらず、一方で辺野古をあらたに整備するという一見矛盾した動きの背景には、こうした事情が関係している。つまり普天間から辺野古への移設は、対中国の軍事オペレーション上、極めて重要な役割を持っているということになる。

普天間問題は歴史認識問題へ
 米国はかねてから普天間飛行場の辺野古への移設を打診していたが、日本側は国内の問題処理が進まず、米国からの要請を事実上拒否してきた。民主党政権になってからは鳩山元首相が県外移設を表明するなど状況はさらに混乱することになった。

 再び自民党政権に戻ってからは、辺野古への移設容認を軸に調整が進められてきたが、今度は中国や韓国との対立が激化したことで歴史認識問題が再浮上してしまった。
 中国との交渉進展を最優先したい米国は、日本側に妥協するよう求めてきたが、安倍政権はこれを受け入れず、米国側が態度を硬化させていた。今回の米国による声明はこうした状況の結果として発生したものである。
 ようやく普天間基地の辺野古移設が決着したというタイミングだったが、この時点ではすでに歴史認識問題の方が大きくなってしまっていた。

 今後の日米関係の予測は難しいが、やはりカギになるのは米中交渉の進展である。今回の声明の末尾には「米国は、首相の過去への反省と平和への決意を再確認する表現に注目する」という文章が盛り込まれており、ボールが日本側にあることがはっきりと示されている。安倍政権としては、これを受け入れ何らかの見解を表明するか、これを無視するかという選択になる。

日本経済のローカル化がさらに進む?
 ただ安倍政権がどちらを選択するにせよ、今回の靖国訪問は、日本抜きで米中交渉が進展するひとつのきっかけになる可能性が高い。オバマ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談から1年が経過する2014年の夏頃には、米中交渉にも何らかの進展が見られるはずだ。

 米中交渉は、安全保障問題を中心に金融市場開放なども含めたパッケージ・ディールになっている。中国では李克強主張が主導する経済改革(リコノミクス)が行われているが、保守派を中心にこれに反対する意見も多く、その結果はまだ不透明である。

 リコノミクスがどのように進むかという点に大きく依存してはいるものの、米中で何らかの合意に至った場合には、中国の資本市場改革、規制緩和、元の国際化などについても大きな進展が見られる可能性が高い。
 そうなってくると中国のTPP参加がより現実的になり、最終的には米欧FTAとの連携も視野に入ってくる。日本市場はますますローカル化が進むことになるだろう。

【関連記事】