電力消費と経済成長

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 原子力発電所の再稼働に向けた動きが加速している。経済産業省は2013年12月6日、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会を開き「エネルギー基本計画」の素案を提示した。
 再稼働について議論となっている原子力発電については「重要なベース電源」と位置付け、今後、再稼働を進めていくことを明記した。この基本計画が了承されれば、原発ゼロ政策は完全に見直されることになる。

 安定した電力供給は産業の基礎であり、バランスの取れたエネルギー政策を立案することは重要な課題である。だが「化石燃料依存の増大によって国富が流出している」という素案に示された現状認識は必ずしも正しいとはいえない。
 エネルギー政策をどのように選択するのかは日本の国益に極めて大きな影響を与える。原発再稼働ありきの拙速な議論ではなく、現状のエネルギー環境に対するもっと包括的な検証が必要である。

原発停止が貿易赤字の原因?
 基本計画の素案では、原発について「安定供給、コスト低減、温暖化対策の観点から、引き続き活用していく重要なベース電源」と明記された。原発依存度については可能な限り低減するとしながらも、必要とされる原発の規模を明確にした上で、その規模を確保していくとしている。また核燃料サイクルについても継続扱いとし、高速増殖炉の開発も引き続き推進していくとした。

 現在、日本の電力料金は高騰しており、産業界はコスト上昇に苦しんでいる。電力料金が上昇したのは、原発の停止によって化石燃料の輸入が増大したことが原因とされており、素案でも「化石燃料依存の増大によって国富が流出している」と主張している。
 化石燃料の輸入金額が増大したのは事実であり、これによって日本の貿易収支が悪化したのもまた事実である。震災以降、日本は慢性的な貿易赤字体質となっており、近い将来には経常収支も赤字になる可能性が指摘されている。

日本のエネルギー輸入量は増えていない
 ただ原発の停止が、こうした貿易赤字の直接的な原因になっているのかというと、必ずしもそうではない。震災前と震災後との比較において、日本のエネルギー輸入総量は、実はあまり変化していないのである。
 確かに火力発電所の稼働を増やしたことで、主な火力発電所の燃料となるLNG(液化天然ガス)の輸入量は増大した。だがエネルギー輸入全体で見れば、震災前と比較して輸入量はほとんど増えていない。LNGは20%増えたものの、原油に至ってはむしろ減少しているのだ。

 一方でエネルギーの輸入金額は震災前と比較してほぼ1.5倍になっており、これが貿易赤字の大きな原因となっている。数量が増えないのに金額が大幅に増大したのは、エネルギー価格が上昇したからである。ここ3年でLNG価格は最大1.8倍に、原油価格は1.4倍に値上がりした。原油のボリュームが圧倒的に多いので、全体としては約1.5倍の輸入金額増加につながっている。つまり貿易赤字の増大と原発の停止は直接関係していない(図1)。


赤字拡大は原油価格の上昇が原因
 もっともエネルギー価格が上昇した原因の一部は原発停止と関係している。日本の火力発電所の主な燃料はLNGだが、原発停止によって日本のLNG輸入の増大が見込まれ、市場価格がつり上げられたのである。
 もともと日本が輸入するLNG価格は、世界の実勢価格よりもかなり割高となっている。もっとも安価な米国のLNGと比較すると、震災前でも日本は2倍以上の価格で購入させられていた。また原油価格に連動するという不利な条項も付けられている。

 LNGの価格は震災後急騰し、一気に1.5倍になった。さらに2013年に入って原油価格も1.4倍に高騰した。LNGと原油を比較すると、圧倒的に原油の輸入量の方が多いので、日本全体の輸入総額も結局1.5倍に跳ね上がったという仕組みである。原発の停止とそれに伴うLNGの輸入で電力料金が上がったのは事実だが、日本の貿易赤字や国富流出は、原発停止ではなく原油価格の上昇が主な原因である。

原発停止に対して日本は節電で対応した
 また震災後の電力消費量の推移と経済への影響についても誤解が多い。2013年上半期の日本における総需要電力量は4.9億メガワットだったが、震災が発生する前の2010年の上半期と比べると8.3%も減少している。政府は原発停止後、国民に節電を要請したが、日本国民はこれを受け入れた。一般家庭では10.5%、大口事業者では6.6%も電力消費量を減少させている(図2)。


 日本の電力会社は原発の停止によって火力発電所への切り替えを進めた。確かに火力発電所の発電量は37%増加しているが、全体としてみれば、火力に切り替えたというよりは、原発が停止した分の多くを節電によってカバーしたというのが実態である。

 だが電力需要の減少が経済を直撃しているかとうと必ずしもそうではない。震災の前後で日本の個人消費はほとんど変化していないのだ。大きく目立ったのは輸出の減少だが、これも原発の停止が直接的な原因ではない。需要があるのに電力不足で生産できなかったわけではなく、むしろ日本企業の競争力低下や、世界経済低迷の影響を大きく受けているのが現実である。

電力消費と経済成長の関連性はもはや希薄
 電力消費量とその国の経済成長については、密接な相関がある。だがその相関性は発展途上国ほど強くなる。単純な製造業の割合いが減少し、高付加価値型産業の割合いが増加するにしたがって、電力消費量と経済成長の関係は薄くなってくるのが一般的だ。
 日本の場合には、バブル経済が崩壊する1990年前後までは、経済成長と電力消費の伸びは完全に一致していた。だがバブル崩壊以後は、その関係性に変化が見られる。もちろんこれには、バブル崩壊後の長期低迷が大きく影響していることは間違いない(図3)。


 だがバブル崩壊をきっかけに日本経済の基本構造が変化し、成熟型国家になったことも大きい。震災後、節電によって電力消費が減少したにもかかわらず、消費にほとんど影響がなかったのは、日本経済が成熟化していることのひとつの証拠である。

もっと総合的な議論が必要
 電力消費と経済成長の関係性が薄れたとはいえ、経済の持続的な拡大に、安定したエネルギー供給が不可欠であることは言うまでもない。価格面で有利だからといって単一のエネルギー供給源に依存することはリスクが大きい。また原子力については安全保障問題とも密接に関係しており、単に経済的な視点のみが判断基準なわけではない。

 ただ、原発の停止が経常収支の悪化を招き経済に大きな打撃を与えているという「仮説」を前提に、原発の再稼働という重要な政治決断が行われるのはあまりにも安易である。
 同じ原発を維持するにしても、核燃料サイクルは廃止する、新規の原発は認めないなど、様々な選択肢がある。合理的な議論がされないまま、なし崩し的に再稼働が進められる事態となれば、日本は震災という教訓から何も学んでいなかったことになる。

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