公的年金の真実

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 公的年金の真実
Share on Facebook

 日本の年金をめぐる状況がいよいよ厳しさを増してきている。政府の「社会保障制度改革国民会議」は2013年8月、今後の社会保障制度改革の基礎となる報告書を政府に提出した(写真)。
 報告書では高齢者に手厚いとされる現在の社会保障制度を全世代型に改めるとしているが、実際には制度の現状維持を強調しており、いわゆる世代間不公平の解消とはほど遠い内容になっている。

 また11月には、公的年金の運用改革を議論する政府の有識者会議が、国債を中心とした従来型ポートフォリオの見直しなどを求めた報告書を提出した。
 リスク資産へのシフトは、インフレの進展を見据えたものだが、運用パフォーマンスの向上もその目的のひとつである。というのも、日本の年金は、保険料に比べて給付金額が極めて大きく、国からの補助だけでは制度を維持できない状況になっている。このため年金の運用資金は毎年6兆円程度取り崩されており、投資パフォーマンスの向上が急務となっているのだ。

 日本の年金は45兆円の規模があり、政府の税収に匹敵する。現在の制度は世代間扶養方式を基本としており、個人による積立型になっていない。人口が減少する中、この制度を維持するのであれば、保険料の大幅な引き上げや給付水準の削減は避けては通れないだろう。

公的年金の運用資金は毎年7兆円ずつなくなっている
 日本の公的年金は大きく分けると、サラリーマンの人が加入する厚生年金と主に自営業者の人が加入する国民年金の2つで構成されている。
 給付については、国民年金と厚生年金からの拠出金で運営される基礎年金がベースとなっており、国民年金の加入者は原則として基礎年金の給付を受ける。一方厚生年金の加入者は、基礎年金の部分に加えて、厚生年金からの給付金も加わることになる。このほか公務員のための専用の年金(共済)などがあるが、規模からすると厚生年金と国民年金の2つが圧倒的である。

 年金の給付額は、厚生年金が約26兆円、国民年金が約19兆円となっており、全体では年間約45兆円程度になっている。厚生年金の給付を受けている人と国民年金の給付を受けている人は合計で約4000万人いる。平均すると国民年金だけの給付を受けている人は年間60万円程度、厚生年金(基礎年金も含む)の給付を受けている人は年間約180万円を受け取っている。
  
 一方、現役世代から徴収する保険料は、厚生年金が約23兆円、国民年金が約1.6兆円しかなく、残りは、国庫負担(約10兆円)、年金を運用する独立行政法人(年金積立金管理運用独立行政法人:GPIF)からの償還金(7兆円)、剰余金などでカバーしている。つまり45兆円の給付金に対して、保険料でカバーできているのは半分程度しかなく、残りは外部からの補助となっている(図)。


 GPIFは現在120兆円ほどの運用資金を持っているが、ここから得られる運用益だけでは必要資金にはとても足りず、毎年6兆円から7兆円の資金を取り崩している(年金交付国債除く)。このままのペースで取り崩しが続けば、20年程度で運用資金がゼロになってしまう可能性もある。

厚生年金が年金システム全体を支えている
 一方、保険料の方に目を転じてみると、国民年金の加入者は1900万人、厚生年金の加入者は3500万人いる。1人あたりの保険料としては、国民年金の人は年間約9万円、厚生年金の人は68万円(うち会社が半分負担)を支払っている計算になる。

 厚生年金の負担額が極めて高く見えるが、これには多少解説が必要である。国民年金加入者の負担は実際にはこれほど軽くなく、年間の保険料は最低18万円である。両者の数字が乖離しているのは、国民年金の未納率が40%と高く、実際には納付していない人が多いことが原因である。また、厚生年金の負担額が大きく見えるのは、約1000万人いるといわれる専業主婦の存在も大きく影響している。専業主婦は保険料を納付しないが、年金を受給することができる。厚生年金では専業主婦の分の年金もカバーしなければならないため、負担が高額になる。

 ちなみに、公務員が加入している共済年金の保険料についても、厚生年金と同じように事業主として国が保険料の一部を負担する仕組みになっている。ただし公務員は民間に比べて非常に優遇されており、民間のように半分ではなく7割ほどを国が負担している。
 国家公務員共済を例にとると、加入者は約100万人で、本人が負担する保険料が5000億円(1人あたり年間50万円)で国の負担が1兆1000億円となっている。一方、年金の受給者数は約70万人で、年金総額が1兆6000億円なので、1人あたりの年金額を計算すると約230万円となる。厚生年金の平均受給金額(180万円)や国民年金の受給金額(60万円)と比べるとかなり高い。

日本の年金制度は個人の積立ではない
 全体を通して見てみると、企業からの負担がある厚生年金が年金の制度全体を支えており、これに対して国が大きな補助を行うという構図になっている。

 日本の年金制度は、個人が老後の資金を積み立てて、それを年金という形で受給するという個人完結型にはなっていない。あくまで家族が扶養を行い、それでカバーできない部分を年金がサポートするという考え方であり、下の世代が上の世代を扶養するという世代間扶養システムも、この考え方に基づいて制度設計されている。
 つまり日本的な「家族制度」と、サラリーマンを中心にした企業社会の制度が融合することで、日本の公的年金システムが形成されていることになる。

 年金の今後について議論する場合には、各論についての是非も重要だが、まずこうした家族主義的な世代間扶養の制度をどう考えるのかという視点がまず必要となってくるだろう。

年金制度を今のまま維持するとなると・・・
 日本の年金制度が世代間扶養システムである以上、高齢者の数が増えれば、若年層の負担は際限なく増える仕組みになっている。少子化が進んでいる現在、年金制度を持続可能なものにするためには、自分が積み立てた分を自身が受け取るという個人主義的な制度への移行が必要という意見は根強い。

 だが先の報告書ではこの点について、「年金制度は子どもが親を扶養するという私的扶養を社会化したものであることに十分留意が必要」と明言しており、家族制度を基本とした現行の制度を変更する余地はないとしている。さらに「公的年金の給付と負担だけをみて(世代間)の損得論を議論するのは適切でない」として、若年層の負担が大きいことについては事実上考慮しないとした。

 現在の年金制度を変更しないということになると、年金を持続可能なものにするためには、2つの方法しかない。ひとつは徴収する保険料の増額であり、もうひとつは給付水準の引き下げである。また物価の水準に合わせて年金額を変更する物価スライド制の廃止も不可避と考えられる。

 比較的手厚い年金制度で知られる欧州各国においても、すでに年金支給開始年齢は多くの国で日本よりも高い。これからは年金でリタイアというよりも生涯労働社会に移行せざるを得ないだろう。

【関連記事】