製造業復活の真実。9月中間決算の中身を検証する

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 上場企業における2013年9月の中間決算は、製造業を中心に好業績が相次いでいる。これまで日本の製造業は円高に苦しんできたことから、円安によっていよいよ製造業が息を吹き返してきたという楽観的な見方も出てきている。

 だが各社の決算内容をより詳しく見てみると、円高が是正されたからといって、製造業が抱える諸問題が解決されたわけではないことが分かる。円安によってメリットを享受できるのは、競争力が高い企業だけであり、そうでない企業にとって、円安はそれほどの追い風にはなっていない。

 価格以外に差別化が難しい低付加価値製品であれば、為替レートは製品の競争力を決定する重要な決め手になる。だが高付加価値製品の競争力の源泉は為替ではなく技術力にある。今回の決算は、ある意味で当たり前のこの事実をより明確にしたといってよいだろう。

同じ増収増益といっても・・・・
 日本の製造業を代表する企業といえば、やはりトヨタ自動車である。同社の中間決算は非常に好調だった。売上高は前年同期比で15%増の12兆5375億円、営業利益は前年同期比81%増の1兆2555億円となり、上半期としては過去2番目の水準を記録した。トヨタの営業利益率は6.4%から10.0%に大きく増加している。

 だが、すべてのメーカーが同じような状況になっているわけではない。同じく自動車メーカーのホンダの売上げは前年比21.6%の5兆7243億円、営業利益は前年同期比28.7%増の3564億円でありトヨタに比べると増益の幅が小さい。また営業利益率も5.9%から6.2%と0.3ポイントの上昇にとどまっている。また電機メーカーの代表格であるソニーは12%の増収にとどまり、パナソニックはほぼ横ばいとなった。両社の利益率も昨年とほぼ変わらない水準だ。

 この違いは何が原因なのだろうか?まず考えられるのは販売数量の違いである。トヨタはこの半期で447万台の自動車を販売したが、販売台数は前年同期よりもごくわずかだが減少した。ホンダの四輪車の販売台数は87万台で6%増加している。一般に販売台数が増加すれば、コストメリットが得られるので、利益率は向上するはずだが、むしろ利益率の上昇はトヨタで顕著となっている(図1)。

トヨタとホンダは何が違うのか?
 両社のこのあたりの数字に、円安メリットについてのマジックが隠されている。両社とも数量ベースの売上げはほぼ横ばいである。自動車の価格が大きく変動したわけではないので、両社の売上高増加はそのまま円安の効果と考えてよいだろう。前期の為替レートは1ドル=79円で、今期は1ドル=99円である。売上げの増加はそのまま為替を反映したものと判断できる。

 ホンダは利益率がそのままでなので、円安になった分、利益の絶対額も増加したが、トヨタはそれ以上に利益率が上昇している。トヨタの原価率は、部品の共通化や調達価格の低下によって87%から82%に向上しており、これが営業利益率の上昇に貢献した。一方ホンダの原価率は変化していない。トヨタとホンダに差がついたのはこの部分が原因である。

 ソニーやパナソニックも同様である。円安によって見かけ上の売上高や利益は増加しているが、基本的な収益力は変化していないのである。これは産業全体で見ても同じ傾向にある。資本金が10億円以上の製造業における原価率は、2013年4~6月期までの数字ではあるが、1年前からほとんど変化していない。円安は昨年後半から始まっていることを考えると、円安は利益率の向上には貢献しないことが分かる(図2)。


国内生産が中心の企業は円安のメリットが大きい
 円安が見かけ上の売上げと利益には貢献するが、収益力自体を変化させないのは、日本メーカーのグローバル化が進んでいるからである。もしすべての製品を日本国内で生産していれば、円安は絶対金額のみならず、利益率も向上させることになる。製造原価のうち部材については輸入価格上昇の影響を受けるが、国内の人件費は為替には左右されないからである。

 富士重工業は自動車メーカーとしてはめずらしく、生産の80%を国内で行っている。逆に販売は78%が海外となっており、理論的に円安によって収益力の拡大が期待できる体質となっている。実際同社の売上げは25%増加し、利益率は何と2.5倍になった。他の要因もあるが、国内生産中心であることが大きく影響したことは間違いない。ちなみに同社の原価率は80%から72%に低下している。

 だが最近の日本メーカーはグローバル化が進み、調達、生産、販売のすべてを海外で行っているケースが多い。トヨタの場合、生産の半数は海外の現地法人であり、販売先も4分の3が海外向けである。海外で調達から販売までを行えば、円安になっても売上高と利益の日本円換算の絶対額が増えるだけであり、企業の収益力には貢献しないのだ。トヨタは、企業努力によってコスト削減に成功し、収益力を拡大させているが、他の3社はコスト削減があまり進んでいない。

製造業における競争力の源泉は為替ではない
 為替は確かに製造業に対して大きな影響を与える。だが価格以外に差別化要因のない低付加価値製品はともかく、付加価値の高い製品については、価格以外の競争力が圧倒的にモノをいう。実際、消費者のニーズが高い日本の自動車は、為替がどのように振れても、数量ベースの業績にあまり影響はない。

 つまり魅力的な製品は価格が高くても販売することが可能であり、為替がどのように振れても、一定の販売数量を確保することができる。電機業界を中心に日本メーカーが苦境に陥ったのは、製品そのものの問題が大きく、円高が直接の原因ではないのだ。さらに言えば、グローバル化が進んだ現在では、円安は収益率の拡大をもたらさない。収益率を上げるためには、技術開発やコスト削減の努力が必要となる。

 そう考えると、アベノミクスによる円安によって日本の製造業が一気に回復するというシナリオは幻想であることが分かる。円安の恩恵を最大限に享受できるのは、付加価値が高く、コスト削減余地が大きい企業に限定される。高い競争力を持たない企業はは、円安になったとしても基本的な状況は大きく変化しないだろう。

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