日本はドイツに学べるか?

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 日本はドイツに学べるか?
Share on Facebook

 長期の円高とデフレに苦しんだ日本経済は、円安によって息を吹き返すことが期待されていた。しかし、いざ円安になってみると、期待していたほどの成果は上がらず、製造業の設備投資もあまり拡大していない。

 一方、欧州最大の工業国であるドイツは、欧州全体が低迷しているにもかかわらず好調な経済が続いている。ドイツは日本と同様、製造業による輸出を経済の基軸とする国であることから、ドイツの経済政策を参考にすべきという意見は多い。

 確かに日本とドイツは工業立国、輸出立国という点では類似しているが、異なった部分も多い。果たしてドイツの経済政策は日本に応用することができるのだろうか?

ドイツはものづくり大国のお手本
 ドイツの過去7年における実質GDP成長率は平均約1.6%であり、ユーロ圏の平均である0.7%を大きく上回っている。米国(1.2%)や日本(0.5%)よりも高く、先進国ではもっとも成長率が高い。

 さらに長期で見てみるとドイツの成長力の高さは際立っている。2000年に日本の半分以下であった名目GDPは12年で1.8倍になった。この間、日本の名目GDPは1.3倍にしかなっていない。ドイツは1990年に東西ドイツの統合を果たしたが、当時の両国の経済格差は3倍以上あったといわれている。経済力が3分の1しかない国を抱えた負担の大きさを考えると、ドイツの成長力は際立っている(図1)。

 米国、英国、フランスなど先進国の多くは恒常的な貿易赤字体質であり、日本も震災をきっかけに貿易赤字に転落した。しかしドイツは先進国としては珍しく莫大な貿易黒字を確保している。ドイツのGDPにおける個人消費の割合は日本より低く57.3%しかないが、輸出の割合は5.9%もあり、これは大国としては異例のことである。
 5.9%というと小さい数字に見えるがそうではない。これは貿易黒字が直接GDPに貢献する数字であって、輸出拡大の背後には工場の設備投資など大きな金額が動いている。輸出が活発であることは、最終的には内需の拡大に寄与することになる。やはりドイツは工業製品の輸出によって経済を動かしていると考えてよいだろう。


ドイツの経常黒字は多くが輸出によるもの
 ドイツと日本の違いは国際収支の状況を詳しく見てみるとより顕著になってくる。日本はすでに貿易赤字に転落しており、国の最終的な利益を示す経常収支の黒字は投資収益(所得収支)によってもたらされている。つまり貿易の赤字を投資の利益でカバーしているのである。

 だがドイツの国際収支の構造は、かつての日本のように利益の多くを貿易黒字で生み出す構造が続いている。2012年におけるドイツの貿易黒字は所得収支の3倍近くもある。これに対して日本は貿易の赤字を投資収益でカバーすることで、なんとか経常収支を黒字にしている。貿易黒字に加えて安定した所得収支があるので、ドイツの経常収支は安定的に高い水準を維持している(図2)。

 経常収支が赤字であることは必ずしも悪いことではない。だが日本の財政は慢性的な赤字体質であり、高齢化の進展で貯蓄率の低下も予想されている。このような状態で経常収支まで赤字に転落させることは、マクロバランスを急激に変化させることになり、経済の安定という意味であまり望ましくない。その点、十分な貿易黒字を確保しているドイツは日本と比べて経済政策における選択肢が多く、より有利な状況にあるといってよいだろう。


日本との違いは中小企業の底力
 ドイツには、ダイムラーやフォルクスワーゲンといった自動車メーカー、重電のシーメンス、ITのSAPといった大手メーカーが多数存在している。日本よりもグローバル化に成功し高い収益率を確保している企業が多いが、大企業の競争力という点では、日本と決定的な差があるわけではない。
 また日本と同様、多数の中小企業が存在している点も非常に似ている。中小企業の割合や数などは日本とあまり大差はなく、基本的な産業構造には違いがないように見える。

 だがドイツと日本には決定的な違いがある。それは中小企業の競争力である。内閣府の調査によれば、日本とドイツにおける大企業の利益率にはあまり大差はないが、日本の中小企業の利益率はドイツに比べて著しく低い。ドイツでは中小企業の方がむしろ大企業よりも利益率が高いのだ。こうした利益率の高い中小企業が多数存在していることが、ドイツにおける製造業の強みになっていると考えられる。

 ドイツの中小企業が高い利益率となっているのは、中小企業が単なる大手企業の下請けではないことを示している。実際ドイツの中小企業の中には、日本では考えられないような事業展開を行っているところが数多く存在している。
 経済産業省の調べでは、中小企業において国際展開(輸出や海外への直接投資)を行っている企業の割合は日本ではわずか2.8%だが、ドイツでは19%にのぼる。また上位10%の企業の輸出総額に占める割合は日本が92%であるのに対してドイツは69%しかない。つまり多くの中小企業が独自の製品を直接、国外に輸出しているのである。

ドイツの企業はなぜ容易に国外展開ができるのか?
 ドイツの中小企業が、独自に国際展開することが可能なのは、高い付加価値を持った製品を持っているからであり、最終的には技術力の違いということになる。だがドイツの中小企業が容易に国際展開できるのはそれだけが理由ではない。ユーロという単一通貨の導入が極めて大きな影響を与えている可能性が高いのだ。それはドイツの直接投資の動向を見れば分かる。

 ドイツは2000年からの過去12年間で累積7600億ドル(約74.5兆円)の対外直接投資を行っている。日本もほぼ同額の7800億ドルだが、日本のGDPはドイツの1.7倍あることを考えると、ドイツの対外直接投資の規模はかなり大きい。これはドイツ企業が諸外国に積極的に現地法人を設立したり、買収を行っていることを示している。
 さらに驚くべきなのは、外国からの投資受け入れである。ドイツの直接投資の受け入れ額は6400億ドルと外国への投資額に匹敵する金額になっているが、同期間に日本が外国から受け入れた投資額はわずか880億ドルにとどまっている。つまり日本は外国からの投資をほとんど受けれていないのだ(図3)。

 外国への投資と外国からの投資受け入れは一見無関係に見えるがそうではない。外国からたくさん投資を受け入れているということは、その国の市場がオープンになっており、常に外国企業との競争にさらされていることを示している。そのような環境だからこそ、逆に、あまり抵抗感なく外国企業を買収したり、現地に進出することができる。外国から人やお金は受け入れないが、外国には積極的に進出するということは、現実にはなかなか難しいことなのだ。こうしたグローバルな環境がドイツの中小企業の競争力を高め、国外進出を容易にしていると考えられる。


日本がドイツの方法を真似るのは困難?
 ドイツが容易に外国に進出したり、外国から投資を受け入れられるのは、グローバル化を厭わないメンタリティもさることながら、単一通貨ユーロが導入されている影響が大きい。過去2年のドイツにおける対外直接投資の3分の1以上が、投資の受け入れについては半分以上がユーロ圏内に集中している。統一通貨、統一ルールが整備された自由市場の存在は大きい。

 以上から考えると、ドイツは日本と似たような風土と思われがちだが、実はだいぶ状況が異なっていることが分かる。ドイツの中小企業は技術力が高く、大手企業に頼らずに独自の製品を国外で販売し、大企業以上の利益率を確保している。また国全体で見れば、外国に積極的に進出するともに、外国企業も積極的に国内に受け入れている。さらに、こうしたグローバルな経営をサポートする自由な金融資本市場が整備されている。

 ドイツは日本と比較すると貧富の差が少なく貧困層の割合もかなり低い。一方、ドイツには最低賃金がなく、付加価値の低い労働の多くは移民が支えている。つまりドイツ国民は比較的付加価値の高い仕事に就くことを事実上強要されているといってよい。失業率は5.2%と極めて低く、失業者に対しては日本とは比べものにならないくらい手厚い支援プログラムが用意されている。だが競争はかなり過酷であり、ドイツの企業の倒産率は何と米国よりも高い。国民の英語習得率も極めて高いという特徴がある。

 日本と比べるとドイツはあらゆる面で異なっており、貧富の差が日本より小さいことを除いては、むしろ米国型の市場原理主義に近いといってよいだろう。ドイツはひとつの成功モデルとして賞賛には値するが、日本がこれを参考にするのは、今の社会風土ではかなり難しいかもしれない。

【関連記事】