アベノミクスの10カ月を検証する(その2 財政政策)

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 安倍政権がスタートしてから10カ月が経過した。安倍政権に対する国民や市場からの期待度は高く、首相就任前後から株価は大きく上昇した。だが今年6月以降、株価は上値が重い状態が続いており、市場は安倍政権の今後に対して微妙な評価を下し始めている。

 首相は日本経済の劇的な復活というストーリーを内外に強くアピールしており、政権には多分に情緒的な側面がある。そのためか、アベノミクスの評価をめぐっては、感情的な議論も見受けられる。アベノミクスは初期段階として、どの程度を効果を発揮してきたのか、そろそろ客観的な評価が必要な時期に来ているといってよいだろう。

緊急経済対策は典型的な大型公共事業
 (前回から続く)アベノミクスの2本目の矢は「機動的な財政政策」である。安倍政権発足後、最初に打ち出したのは、総事業費約20兆円、政府政府支出分約10兆円の緊急経済対策であった。
 10兆円の内訳は、復興防災対策が3.7兆円、成長戦略関連が3兆円、地域活性化が1.9兆円、交付金が1.4兆円となっている。このうち、復興防災対策費と地域活性化費用のほとんどが、いわゆる従来型の公共事業となっている。また成長戦略関連費のほとんどが特定産業を支援する従来型ターゲティング・ポリシーに基づくものであり、こちらも限りなく公共事業に近い性格といえる。つまり財政政策のほぼすべてが、小泉政権で一旦中断された大規模公共事業の復活と考えることができる(図1)。

 日本は大型の公共事業を継続し続けた結果、世界トップクラスの政府債務を抱えてしまっている。成長途上だった時代には、公共事業にも投入した金額以上の効果があったが(乗数効果)、社会が成熟した現在では、投入した金額以上の効果が得られず、長期的な成長には寄与しないとの考え方が主流になってきている。

総事業費が20兆円だった理由
 それにも関わらず、アベノミクスでこれだけの規模の公共事業が実施された背景には、消費税の増税がある。政府は2013年10月、消費税を8%に増税することを正式決定したが、その根拠とされたのは4~6月期の実質GDP成長率である。安倍政権発足当初、2012年10~12月期の実質成長率はマイナスと認識されており(後にプラスに訂正)、このままの状態では、消費税を決定する2013年10月段階において良好な経済指標を得られる見込みがなかった。

 日本経済は1990年代以降、1度の例外を除いてGDPギャップは常にマイナスとなっている。2012年7~9月期のGDPギャップは2.7%であり、金額に直すと年間約13兆円になる。総額20兆円の経済対策を実施すれば、瞬間的ではあるがこのデフレギャップをすべて解消して余りある効果を得ることができる。そうなると4~6月期のGPDの数字は最低でも年率2.5%程度のプラス成長となり、消費税増税の条件を十分に満たすことになる。実際、4~6月期の実質GDP成長率は年率プラス3.8%(前期比プラス0.9%)という良好な結果となった。

 要するにこれは、消費税を増税するためのお化粧であり、成長戦略を策定するまでの「つなぎ」としての役割を果たしている。実際、4~6月期の実質GDP成長のうち、公需によるものは全体の45%を占めており、1~3月期よりも公共事業への依存度が上がっている(図2)。


設備投資の増加も公共事業の影響が大きい
 民間の需要についても、公共事業や消費増税が呼び水になっているものが多い。GDPに大きな影響を及ぼす設備投資は、ここにきてようやく反転の兆しを見せているが、これは製造業の復活ではなく公共事業による効果が大きいというのが実情である。

 内閣府は10月10日、8月の機械受注統計を発表した。主要指標である 「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比5.4%増の8193億円となり市場予想を上回った。 
 以前は設備投資の主役といえば製造業であったが、最近は非製造業の設備投資が全体をリードしている。機械受注の約3分の2は非製造業からの受注で占められているが、その中でも、ここ1年で金額が大きく伸びた業種は、建設業、不動産業、農林水産業の4つであった。これらは皆、公共事業や住宅の駆け込み需要に大きく影響する分野であり、設備投資の増加も基本的には公共事業に依存した状況が続いている(図3)。


 製造業については、北米向け輸出が好調な自動車だけは堅調だが、精密機械、電機、ITなどその他の主要分野の状況は総じてよくない。米国経済が回復し米国の輸入が増大していることや、日本の製造業が保有する設備の老朽化が進んでいる現実を考えると、この設備投資水準はかなり低いと見るべきだろう。前回はアベノミクスによって円安を実現したことについて言及したが、円安が進んでも、製造業の設備投資には目立った効果が出ていないというのが現実なのだ。

「機動的な財政政策」の成果は?
 まとめると、アベノミクスの2本目の矢である「機動的な財政政策」は、目先の経済成長率の回復という点では極めて大きな効果を発揮したといってよいだろう。日本経済はマイナス成長もしくはゼロ成長が続いていたが、2013年4~6月期のGPDは年率換算で3.8%という高い成長率を実現した。これによって消費税の増税に成功し、財政再建への最初のハードルをクリアした。
 ただ経済成長の内訳は多くが公共事業に依存したものであり、持続的な内需拡大の方向性は見えていない。また日本経済の屋台骨である製造業は復活しておらず、設備投資は低迷が続いている。ただ、財政政策を成長戦略実現までの「つなぎ」であると割り切れば、2本目の矢の目的は十分に達成したと考えてよいだろう。
(次回に続く)

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