アベノミクスの10カ月を検証する(その1 金融政策)

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 安倍政権がスタートしてから10カ月が経過した。安倍政権に対する国民や市場からの期待度は高く、首相就任前後から株価は大きく上昇した。だが今年6月以降、株価は上値が重い状態が続いており、市場は安倍政権の今後に対して微妙な評価を下し始めている。

 首相は日本経済の劇的な復活というストーリーを内外に強くアピールしており、政権には多分に情緒的な側面がある。そのためか、アベノミクスの評価をめぐっては、感情的な議論も見受けられる。アベノミクスは初期段階として、どの程度を効果を発揮してきたのか、そろそろ客観的な評価が必要な時期に来ているといってよいだろう。

アベノミクスで想定する景気拡大のメカニズム
 安倍政権は経済対策の柱として「3本の矢」を掲げている。1本目の矢は「大胆な金融政策」、2本目の矢は「機動的な財政政策」、3本目の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」である。

 アベノミクスで想定されている景気拡大のメカニズムは、量的緩和策を実施し、2%の物価目標を設定すること(金融政策)で資産効果や実質金利の低下を狙い、消費と設備投資の拡大を誘導する。さらに直接的な需要創造のために公共事業を活用し(財政政策)、これに成長戦略を加えることで、景気拡大を持続可能なものにする、といったところだろうか。

 日本経済が20年にもわたって低迷してきた原因をどう考えるのかによって、3本の矢のうち、どれを重視するのかは変わってくる。当初、安倍政権は構造改革の必要性を強く示唆していたことから、少なくとも政権発足時点では日本経済低迷の原因は構造問題にあると認識していた可能性が高い。そうであればもっとも重要な政策は成長戦略ということになる。
 だが最近は成長戦略における構造改革的な内容は大きく後退し、従来から続く財政支援型にシフトしているようにも見える。もしそうであれば、基本的に現在の不況は循環的要因ということになり、財政政策と金融政策の方が重要になってくる。3つの政策を評価するにあたっては、個別の評価に加えてこうした俯瞰的視点も重要である。

マネタリーベースは急激に拡大
 1本目の矢は日銀に黒田新総裁が就任することですぐに実現した。日銀は、4月4日に開催された金融政策決定会合において量的緩和策の実施を正式に決定し、その直後から、市場流通高の7割という膨大な量の国債購入を開始した。日銀が供給する通貨の量を示すマネタリーベースはこの日を境に急増している(図1)。


 量的緩和が実体経済に影響を及ぼすメカニズムは、主に以下の3つが考えられる。一つは資産効果、もう一つはインフレ期待による実質金利の低下、最後は国債の買い占めによる追加融資の誘導である。

 量的緩和が実行されると期待インフレ率が高まるので、株価や不動産価格が上昇する。経済的に見ればインフレを前提にした資産価格の上昇なので、資産所有者の実質的な購買力は変わらない。だが資産価格の上昇は、消費の拡大をもたらすことが経験則的に知られており、これを経済成長に利用しようというのが資産効果である。
 実際、アベノミクスへの期待から日経平均は大きく上昇し、キャピタルゲインを得た一部の富裕層が高額商品への消費を増やすという現象が見られた。だが401Kによる投資が普及している米国と異なり、日本では中間層のほとんどが株式投資を行っていないため、資産効果の影響は限定的となる可能性が高い。

インフレ期待は現実経済に波及したか?
 期待インフレ率の上昇は、資産効果だけでなく、実質金利の低下という効果ももたらすことになる。日本はすでに事実上のゼロ金利なので、期待インフレ率の上昇による実質金利の低下は、銀行融資を拡大し、設備投資を増やす有力な手段のひとつであると認識されている。だが一方で、日本企業の設備投資が伸びないのは、日本経済の構造的な問題に起因しており、実質金利では操作できないとする考え方もあり、見解は分かれている。

 国債の買い占めも同じような効果を狙っている。日本の金融機関はこれまで国債を中心に運用を行ってきたが、日銀が国債を買い占めることで、運用難を発生させ、企業向け融資の増加を促すという戦略である。だがこの方策についても、構造的な要因を指摘する論者からは否定的な見解が出ている。

 それでは量的緩和の実施によって、銀行の融資は実際どのように変化したのだろうか?量的緩和が実施された4月以降、日銀の積極的な国債購入によってマネタリーベースは対前年比で40%もの増加を見せた。だが、マネーストックの伸びは3%となっており、金融機関からの貸出増加もほぼ同水準の伸びにとどまっている。これは信用創造がそれほど拡大していないことを示しており、現時点では、融資拡大に対して目立った効果を上げていないことが分かる(図1)。

輸入価格の上昇で物価は上昇しているが・・・
 一方、デフレ脱却の重要な指標となる物価については反転の兆しが見え始めている。総務省が発表した9月の消費者物価指数は、代表的な指標である「生鮮食品を除く総合(コアCPI)」が前年同月比でプラス0.7%となり、4カ月連続の上昇となった。前月比で見るとプラス0.1%でこちらは8カ月連続の上昇である(図2)。

 この指標を見ると物価は上昇に転じており、安倍政権の公約であったデフレ脱却が実現しつつあるように見える。だが必ずしもそうとはいえない面もある。日銀が物価の判断材料として重視している「食料及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)」は、底入れもしくは横ばいという状況であり、エネルギー価格の上昇分を差し引くとまだデフレが続いているからだ。


 実際、電気料金といった光熱費はここ半年で10%以上も値上がりした。このほか値上がりが激しいのは、衣類、旅行、AV機器など、円安の影響が大きい分野ばかりである。つまり、これまでの物価上昇は、エネルギー輸入の増加と円安によってもたらされてきたものであり、内需の拡大によるものではないのだ。ただ最近では、調理食品、外食、家庭用耐久財などの値上がりが目立つようになってきており、輸入価格上昇の最終価格への転嫁が始まっている。このままいくと、輸入価格の上昇が全体に波及し、すべての品目においてインフレ傾向に転じる可能性も出てきている。
 このところ安倍政権が、産業界に対して繰り返し賃上げを要請しているのは、物価上昇で家計の購買力が低下することを強く意識し始めているからである。

「大胆な金融政策」の成果は?
 まとめると、アベノミクスの1本目の矢である「大胆な金融政策」は株高と円安をもたらし、以前から日本経済低迷の主な原因とされてきた円高(実際に円高が原因であったかはともかくとして)の是正には成功した。また株高によって富裕層の一部は消費を拡大し、高額商品を中心に一定の消費の伸びを実現した。

 一方で、量的緩和の拡大が銀行融資を増大させ、設備投資を回復させるというシナリオについては、まだ実現のメドは立っていない。日銀による通貨供給にもかかわらずマネーストックはあまり伸びていないのが実情だ。
 物価上昇そのものについては、円安とエネルギー輸入の増大によって、現実のものとなりつつある。だが、これは内需拡大に伴うインフレではないため、こうした物価上昇が実質経済の成長に寄与するのかは、現時点では不明である。
次回に続く)

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