スペイン銀行救済策の効果を検証してみると

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 総額10兆円にものぼるスペインの銀行救済策が発表されたが、市場の反応はいまひとつであった。今回のスペイン救済策は十分な水準なのか?日本はかつて長信銀の破たんという今回とよく似た事態を経験している。長信銀の事例と今回のスペインの事例を比較し、救済策の効果と今後の見通しについて考察した。

 ユーロ圏財務相は2012年6月11日、スペインの銀行セクターに対する最大1,000億ユーロ(約10兆円)の支援を行うことを決定した。スペインでは国内3位の銀行であるバンキア(BME:BKIA)がすでに国有化されており、同行を中心に旧貯蓄銀行数行に対して銀行再建基金(FROB)を通じて資本注入される。資金は欧州金融安定化基金(EFSF)もしくは欧州安定化メカニズム(ESM)から提供される予定だ。
 このニュースを受けて週明けのNY市場は100ドル以上上昇して始まったものの、市場の楽観ムードは続かず、ギリシャ再選挙への懸念などから下げ基調となり結局143ドル安の12,411ドルで取引を終了した。欧州の株式市場も同様に伸び悩みスペインの国債利回りは上昇した。スペインの銀行救済策が明らかになっても市場の警戒感は解けていないことが明らかになった。


金融と経済、短期と長期の視点を混同している
 今回の銀行救済策に対する市場の懸念は大きく分けると以下の2つに集約される。
 ひとつは今回の救済策が不十分であり「イタリアやポルトガルに飛び火する」(国内債券市場関係者)のではないかというもの、もうひとつはスペインの公的債務を拡大させ財政問題へと発展する可能性が増大しているというものだ。為替市場ではスペインの債務危機深刻化への懸念が強まりユーロが主要通貨に対して値下がりしている。
 欧州危機に関する情報は氾濫しているが、その多くが金融危機と経済危機、あるいは短期的な対応策と長期的な対応策を混同している。両者は相互に関連してはいるものの、根本的には別の問題である。欧州問題に限った話ではないが、これらのニュースを読み解くには「金融と経済」「短期と長期」の区分けを明確にしておくことが重要である。このような視点で今回の救済策を読み解いてみよう。
 日本円で約10兆円という今回の救済策は、諸問題を解決できる水準なのだろうか?金融と経済、短期と長期という区分を考えると、まず考えるべきは「金融危機」に対する「短期的」な対策として十分なのかという点である。
 どの程度の金額があれば、銀行救済策として十分だろうか。この答えは実は日本にある。日本には、銀行の経営破たんに関する豊富な事例があり、今回のバンキア救済策の有効性は、日本長期信用銀行(長銀)の状況と比較することである程度の予測を立てることができる。

バンキア問題は日本の長信銀に対する公的資金投入と似ている
 1998年に公的資金が投入され国有化された長銀は約26兆円の総資産を保有していた。当時の日本のGDPは現在とほとんど同じ約500兆円なので、長銀の資産規模はGDPの5%程度の水準であった(日債銀を入れると約8%)。長銀に投入された公的資金は約7.8兆円(うち3.6兆円は損失確定)なので、救済に要した資金は総資産の約3分の1ということになる。同時期に破たんした日本債券信用銀行(日債銀)の総資産は約13兆円、公的資金は約3.3兆円なので、こちらも総資産の約3分の1の資金が投入された計算だ。


 バンキアの総資産は約32兆円。これに対して今回の救済策は最大10兆円である。すべての金額がバンキアに投入されるわけではないだろうが、10兆円という金額は長銀や日債銀と同様、バンキアの総資産の約3分の1である。日本における過去の事例を参考にすれば、同行をとりあえず救済するという点においては、今回の救済策は金額的に十分な水準と考えることができる。
 しかし、銀行への公的資金投入は資金ショートによる金融危機を防ぐためのものであり、その銀行が今後、長期的に発展できるのかどうか、あるいはその国が持続的な成長軌道に乗ることができるのかどうかはまた別問題である。長銀は米国の投資ファンドであるリップルウッドに売却され、新生銀行として再スタートを切った。しかし、新生銀行の現在の状況を考えると、ファンドへの売却と事業再編は必ずしも大成功しているとはいえない。これは新生銀行の問題というよりも、日本全体の問題ともいえる。バブル崩壊後、低成長が続き国内の市場が拡大しないため、金融ビジネスも縮小均衡のままなのだ。

長期的な対策を同時並行で実施しないと日本と同じ道を辿る
 日本はバブル崩壊の対策として銀行の国有化を行った。その後、小泉政権の登場によって構造改革路線が進められ、経済メカニズム全体のリストラクチャリングが試みられた。しかし、小泉政権の終了とともに、日本全体の改革はストップし現在まで至っている。
 金融と経済、短期と長期という視点に立てば、日本は短期的な金融危機への対策として銀行の国有化を行ったのみであり、長期的、あるいは経済的な対策を実施してこなかったということになる。
 欧州金融安定化基金(EFSF)もしくは欧州安定化メカニズム(ESM)から提供される資金は最終的にはスペイン政府の債務となる。今回のスキームで銀行を救済することができても、スペイン政府の財政問題は悪化することになる。ESMからの資金拠出となれば、既存の国債保有者は債権者としてより劣後になるため、国債マーケットにはネガティブな反応となる。スペイン国債の利回りが上昇したのはこれが原因だ。
 政府債務の増加は即座に危機を引き起こすものではないが、下手をすると金融危機の引き金にもなり得るものである。また財政問題が解決しないと、経済成長を実現する手段が限定されてくるため、持続的な経済成長に疑問符がつくことにもなりかねない。
 スペイン政府は政府支出の削減など緊縮財政策はすでに実施しているとの立場だ。金融機関も政府主導で再編が進められており、かつて数十行存在した銀行も現在は10行程度にまで集約されている。ここまではかつての日本とほぼ同じ状況であるといってよい。日本も銀行の再編を政府主導で行い、緊縮財政を続けてきた。しかし、日本は社会保障費の増大に歯止めをかけることができず、増税によって問題を解決しようとしているが、根本的な解決策は打ち出せていない。ギリシャと比較するとスペインには比較的厚い産業基盤があるため、緊縮財政と増税によってある程度政府債務を圧縮することが可能かもしれない。しかし、経済システム全体の構造改革を行わず、増税だけに頼るやり方では、日本と同様、根本的な解決は難しいだろう。

低成長とインフレを覚悟する必要があるかもしれない
 以上から今回のスペイン救済策は、短期的な金融危機対策としては十分な水準だが、長期的には不透明という解釈が成立する。
 この解釈が正しいとすれば、今回のマーケットの反応は至極妥当なものに思われる。仮に同様の問題がイタリアやポルトガルに飛び火したとしても、両国の経済規模に合わせて今回のスペインと同様の措置がとられることが予想される。その意味では、金融機関が資金ショートを起こし、パニック的な金融危機を引き起こす可能性は低いと考えてよいだろう。しかし、スペインに限らず、長期的な成長戦略は欧州全体として描けておらず、先行き不透明な状況が続くかもしれない。
 もちろん、今回の救済策でスペインの金融危機が完全に回避されたわけではない。日本では長信銀に公的資金が投入された後も不良債権に対する懸念が市場にくすぶり続けた。最終的にはみずほ銀行による1兆円の増資によって市場のセンチメントがようやく転換したが、それまでに約4年を要している。
 今回の救済策の発表とほぼ同じタイミングで、欧州系格付け会社であるフィッチ・レーティングスはサンタンデール銀行とBBVAの長期信用格付けを「シングルA」から「トリプルBプラス」に2段階引き下げたと発表した。バンキアの株価はすでに1ユーロ前後まで下落しており、サンタンデール銀行やBBVAなど他の主力銀行の株価もバンキア問題の影響で低迷している。短期的にはリバウンドもあろうが、本格的な回復には時間がかかるだろう。


 欧州の政治家きっての経済通といわれたブラウン英国前首相は、昨年9月のダボス会議において「欧米では低成長が10年間は続くだろう」との悲観的見解を明らかにした。この予測はまさに現実のものになろうとしている。もちろんこれは欧州だけの話ではない。日本は20年にもわたる長期的な停滞から抜け出せていないし、米国も今後の舵取りを誤れば同じ道をたどる可能性がある。低成長と相次ぐ金融緩和策の副作用であるインフレが共存する住みにくい時代が来ているのかもしれない。

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