インフレよこんにちは

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 アベノミクスに対する過剰な期待が冷めてしまったことや、中国経済の低迷、米国の債務上限問題などから、目先の株価は上値が重い状態が続いている。
 だがマクロ経済の環境や、超長期的な株価チャートなどを総合的に判断すると、バブル崩壊以降20年にわたって続いてきた株価低迷のトレンドが、いよいよ転換した可能性が高くなってきた。

 だが今後、長期的に株価が上昇するにしても、順調な経済成長を背景にした健全なものである保証はない。むしろインフレによる見かけ上の資産価格の上昇であり、資産運用は購買力維持としての性格が強いものになるだろう。
 投資対象も、資産価格上昇の恩恵を受ける国内銘柄に加えて、やがては円安が進むことを前提に、外国株や外国債などにも範囲を広げておく必要があるかもしれない。

インフレの加速を示唆する出来事が増加
 このところ、今後のインフレ加速を示唆する出来事や指標が相次いでいる。もっとも顕著なのは、円安による輸入物価の上昇である。8月の全国の消費者物価指数は、代表的な指標である「生鮮食品を除く総合」が前年同月比でプラス0.8%となり、3カ月連続の上昇となった。代表的な指標は今年1月から8月までの間に1%も上がったが、その内訳は内需の拡大によるものではなく、基本的に円安による輸入価格の上昇を反映したものがほとんどだ。日本の貿易赤字が解消される見込みはほとんどないため、輸入価格の上昇は今後も、永続的に続くことになる。

 安倍政権がどれほど意図しているは不明だが、成長戦略として提示される政策パッケージの多くが、デフレ脱却を超えてインフレを後押しするものとなっている。
 当初アベノミクスの成長戦略は、公共事業を中心とした財政出動型と、構造改革型の折衷案としてスタートした。だが規制緩和を軸とする構造改革プランに対しては、各方面から批判が続出した。広範囲な構造改革は見送りとなり、特区という地域を限定したものに修正され、その特区においても雇用規制の緩和は実施されないことになった。細かいプランを除けば、大型の規制緩和策のほとんどが見送りになったといってよいだろう。

 その一方で、財政支出は増加している。政府は今年2月、大型の公共事業を柱とする総事業費20兆円の緊急経済対策を打ち出した。消費増税の判断基準となった2013年4~6月期のGDPが好調だったのも、この公共工事の影響が大きい。また消費税の増税対策として政府は5兆円の経済対策を打ち出したが、その中身は2兆円の減税を除けば、大型の公共事業となっている。2014年度予算は昨年に引き続き、大型予算となる可能性が高く、国債への依存度は減らないだろう。
 さらに政府は消費税対策として企業に対して異例の賃上げ要請を行っている。企業が賃上げに応じた場合には、インフレはさらに加速する可能性が高い。

超長期チャートも経済構造の転換を示している
 デフレからインフレへの転換は、経済構造の根本的な転換を意味しているが、株価のチャートからもその兆候はうかがい知ることができる。超長期的な株価推移を考えると、バブル崩壊以降、20年以上続いてきたデフレ傾向は、そろそろ終焉する可能性が高いのである。

 過去130年間の株価推移の中で、株価が長期的に低迷した期間は、世界恐慌から太平洋戦争前までの20年が最長である。バブル崩壊までは戦後最大級といわれた40年不況による株価低迷も数年程度であった。そう考えると、バブル崩壊以後、20年以上も株価が低迷している現在は、歴史的に見てもかなり異常であり、チャート的にはいつこれが転換してもおかしくない時期に入っている(図1)。

 日本経済の根本的な構造転換は、企業における資本と労働の投入量の関係からも知ることができる。企業が投下する資本と労働には、一定の周期でその関係性が変化するという特徴がある。ここしばらくは資本過剰の状態が続いてきたが、労働過剰になる兆候が見え始めているのだ。

現在の状況は1930年代と酷似
 経済学的にいうと企業や国は、資本と労働の投入によって生産を拡大する。資本と労働のどちらに重点が置かれるのかは、その時の経済的な環境に大きく左右される。このような変化をもっともシンプルに認識できる指標が、資本Kと労働Lの比率(K/L比)である。図1の青線は日本の株価指数とK/L比の変化を示したものである。

 K/L比の変化と株価は直接比例するわけではない。だがK/L比が大きく変化する時は、経済構造が大きく転換する時であり、株価の転換点となることが多い。注目すべきなのは、現在の状況が1930年代に酷似しているという点である。
 1930年代はそれまでの世界的好景気を背景にしたバブルが崩壊し、日本が戦争経済に突入していく時代である。膨大な戦費の調達と景気対策の必要性から日銀の直接引受による国債購入が始まり、日本の財政が急激に悪化し始めた。通貨供給量を増やしたので、当初は景気が回復したが、インフレが進み国民生活は苦しくなった。政府はやがて国家による統制を強化したが、インフレをコントロールできず生産性は低下した。K/L比はこの時期、急激に低下している。

 一方、名目上の株価は、量的緩和策と政府主導の大規模な公共事業によって上昇が続き、終戦によって日本経済が完全に崩壊するまで、比較的堅調に推移した。

その後、何が待っているか?
 日銀による国債の引き受け、量的緩和、大規模な公共事業、インフレ、賃上げの要請など、当時と現在の類似点は非常に多い。

 株価が上昇し、K/L比は下落の兆しを見せている点や、日本の国力が低下し、対外強硬主義的な主張が強まってきた点もそっくりである。さらには国威発揚のため東京オリンピックが計画されたところまで似通っている(1940年のオリンピックは戦況の悪化で中止になった。写真は建設が予定されている新国立競技場)。
 今回は戦争こそ行われてはいないものの、何かをきっかけ日本経済がリセットされるのかとなると、それはやはりオリンピックであろう。

 オリンピックが開催されるまでは、政府は無理をしてでも公共事業を継続し、景気を維持しようとする可能性が高い。公共事業に依存した経済の弊害が表面化するのは、ギリシャを例にあげるまでもなく、オリンピックという宴の後である。国債価格の大幅な下落や、さらなる円安のタイミングは、オリンピックが終了する2020年以後となるかもしれない。

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