財政への楽観論が米国議会の茶番劇を加速

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 ねじれ状態から対立が続く米議会は、予算案に関して合意に達することができず10月1日から一部政府機関の閉鎖に追い込まれた。近いうちに何らかの合意が得られる可能性が高いが、問題はそれだけではない。10月17日には連邦政府の債務が再び上限に達してしまう。この件についても与野党合意の上、議会承認が得られなければ、米国債がデフォルトしてしまう。

 米国の議会は米国経済や金融市場はそっちのけで政治的駆け引きに終始しているわけだが、その背景には、米国経済や先方政府の財政に対する楽観的な見方が存在している。
 FRB(連邦準備制度理事会)が量的緩和縮小を先延ばしするなど、米国経済に対する慎重な見方は多いが、総じて米国経済は好調であり、議員の多くは経済の先行きをそれほど懸念していない。また米国にはまだまだ債務を増やす余裕があり、しかも、現在は財政再建を進めている真っ最中である。債務上限はギリギリで引き上げればよいとタカをくくっているのだ。

予算案で妥協できず政府機関閉鎖へ
 米国では上院と下院でそれぞれ別々に予算案が審議される。米国は10月から翌年の9月までが会計年度となっている。通常は両院で予算案が可決されて10月から新しい年度がスタートする。もし両院での結果が異なった場合には、両院での交渉を経て新しい予算案が成立することになっている。
 
 今年はオバマ大統領が提唱する医療保険制度改革(通称オバマケア)をめぐって、与野党の対立が激しくなっており、予算案の成立が危ぶまれていた。事実上の国民皆保険制度であるオバマケアに対しては、評価する声が大きい反面、国民の選択を奪うとして根強い反対論がある。
 案の定、予算案の審議は難航し9月に入っても予算案が可決できない状況となっていた。野党共和党が多数を占める下院は9月20日、政府機関の閉鎖を回避するため12月15日までの暫定的な予算案を可決した。しかしこの予算案にはオバマケアに関する予算は含まれおらず、オバマ大統領や民主党はこの決議に強く反対していた。

 下院の決議を受けて上院は9月27、10月1日から11月15日までの暫定予算案を可決したが、だがこの決議案には、下院が決議したオバマケアの凍結措置を解除する付帯条項が付けられた。下院はこの決議を拒否し、新しい予算案の審議に入ってしまった。結局、下院は9月29日、オバマケアの実施を1年遅らせることを盛り込んだ来年度予算案を賛成多数で可決した。だが上院は意味のない予算案としてこれを拒否したことから、10月1日から政府機関の一部閉鎖に突入した。

さらにやっかいな債務上限問題
 政府機関の一部閉鎖によって、財務省の8割、国防総省の5割の職員が自宅待機となっている(ただし軍の現場職員やFBIなどは対象外)。予算案については、いつまでも政府機関を閉鎖しているわけにはいかないので、何らかの妥協が行われる可能性が高い。

 だがねじれ問題はこれだけにはとどまらない。10月17日には中旬に政府債務が再び上限に達してしまうというやっかいな問題を抱えているのだ。この件についても与野党が合意し、債務条件の引き上げについて議会が承認しない限り、米国政府が債務不履行(デフォルト)を起こしてしまう。

 米国は政府債務について議会が上限を定めている。連邦政府は議会の承認を得なければこの水準を超えて国債を発行できない。

 経済の規模は毎年拡大しているので、何もしなくても政府債務は自然に増えていく。このため、米国は現在の債務上限制度をスタートさせた1940年以降、90回以上も議会承認を行って債務上限を改定してきた。だが与野党の対立によって債務上限が引き上げられなかった場合、政府の資金が底を突き、米国債がデフォルトしてしまう可能性がある。
 
 2011年に同様の問題が発生した時には米国債の格下げが実施され、金融市場が大混乱となった。今回も政治的混乱によって金融市場が大きく混乱する可能性がある。

米国は政府債務の問題を実は気にしていない
 米国の議会がこうした政治的駆け引きに終始しているのは、米国の財政状況について両党ともかなり楽観視しているからである。その背景には、日本などと比べると債務に対する見方が厳しい米国ならではの事情がある。

 米国はかつてない水準の政府債務を抱えており、財政再建が急務の状態といわれる。現在の法定上限は16.7兆ドルで、これは米国のGDPとほぼ同水準である。これは歴史的に見て第二次大戦当時に迫る水準であり、小さな政府を標榜する人が多い共和党はこれに猛反発している(図1)。

 だが政府債務のGDP比という意味では、日本はこれよりはるかに高い水準にある。図はグロスのデータをもとにしているが、資産を差し引いたネットの値でも日本が米国よりも高い債務比率であることに変わりはない。日本は債務比率の高さから財政破綻が懸念されているが、この水準でも日本の国債は国際的にまだ信認を得ている。この状況を考えれば、基軸通貨国である米国は、実際にはまだまだ債務を増やせる余地がある。

 米国は債務に関して世論が厳しいため、口に出しては言わないが、政府債務に厳しい共和党の議員でさえも、実際には政府債務の問題をそれほど気にしていない可能性が高いのだ。

苛立ちを強める市場関係者
 また米国は2011年に予算管理法が成立し、歳出の強制的な削減も実施されている。現在、米国政府の財政赤字はGDPの6%程度だが、2020年には2%程度まで削減される見込みである。これによって政府債務のGDP比率も横ばいもしくは減少が期待されている。

 財政破綻を懸念しなければならない日本とは正反対に、米国では財政面での安心感が過度な政治的駆け引きを許容している側面があるのだ。だが一時的とはいえ政府機関が閉鎖されたり、再び米国債が格下げされるような事態になれば、金融市場の混乱は必至である。

 現在、FRBは米国経済の先行きに慎重なスタンスを崩しておらず、市場が予想していた9月の緩和縮小開始を見送った。緩和縮小のタイミングをめぐって新興市場が動揺している最中でもあり、予算と債務上限問題が長引けば、新興国市場にもかなりの影響を与えることになる。市場関係者は苛立ちを強めているが、議会関係者はどこ吹く風で政治闘争に明け暮れている。長期的な影響は少ないが、短期的にはボラティリティの増大を懸念する必要があるだろう。

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