緩和継続がもたらすもの

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  量的緩和策を当面継続するという9月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)声明は、市場に大きな衝撃をもたらした。
 9月の緩和縮小開始に関してほぼ完全な市場コンセンサスが得られていただけに、声明の発表直後は大混乱となった。株価は一時急騰したものの、その後は方向感がつかめないまま下落し、金利は継続的に下落するなど、ちぐはぐな状況が続いている。
 
 緩和縮小の見送りを受けて市場では米国経済に対する悲観的な見方が広がっている。10月には連邦政府の債務上限問題から国庫が底をつく可能性も高まっており、不安に拍車をかけている。ただ、FRB(連邦準備制度理事会)が緩和縮小を見送ったからといって、突然、米国経済のファンダメンタルズが変化するわけではない。ここは数字をもとにした冷静な判断が必要だろう。

バーナンキ議長は市場よりも経済指標を重視している
  FRBのバーナンキ議長は6月のFOMCにおいて、経済指標が良好であればという前提条件付きで、9月からの量的緩和縮小を匂わせる発言をしていた。実際、8月の失業率は前月より0.1ポイント改善して7.3%となり、製造業の景気指数も上昇していたことなどから、市場は完全に9月の緩和縮小を織り込んでいた。

 だが今回のFOMCでは、予想外の緩和継続となった。その理由としてバーナンキ議長は、失業率が高止まりしていることやインフレ率が目標以下であることなどをあげた。失業率などの指標が完全に回復するまでは、多少、市場に混乱を起こしたとしても、緩和を継続する姿勢をよりはっきり示したというわけである。

 これが前任者のグリーンスパン氏であれば、市場で確立したコンセンサスを崩すような決定は行わなかった可能性が高い。だがバーナンキ議長は、市場とのスムーズなコミュニケーションよりも、経済指標の厳格な解釈の方を選択したということになる。

米国経済のファンダメンタルズは良好
 足元の経済指標の解釈は様々だろうが、米国経済のファンダメンタルズは基本的に良好である。図1は米国の製造業/非製造業の景気指数と住宅価格を示したチャートである。
 米国の景気回復を主導しているのは個人消費であり、それは非製造業の景況感に反映されている。2011年以降、非製造業の景況感は55前後と安定的に推移している。一方、製造業の景気指数はリーマンショック後急回復を見せたが、ここ1~2年は欧州景気の低迷と中国経済の失速を受け、景況感の境目となる50前後を行き来していた。だが欧州景気が一段落してきたことで、ここ数ヶ月は製造業の指数も急上昇している。


 製造業の回復に加えて、これまで米国経済最大の足かせといわれてきた住宅価格が急上昇を始めたことで、米国景気の回復がより実感されるようになってきた。リーマンショックはサブプライムと呼ばれる不動産ローンの焦げ付きに端を発している。住宅価格が上昇しているということは、金融機関の不良債権処理がほぼ終了し健全な状態に戻ったことを意味している。

米国は経済成長に対する要求水準が高すぎる?
 これだけ良好な状況であるにも関わらず、バーナンキ議長が懸念しているのは、失業率などの雇用統計である。米国の失業率は2009年の10%をピークに、一貫して下がり続けており現在は7.3%である。また雇用者数の絶対値も2010年をボトムに増加傾向が続いている(図2)。


 だがバーナンキ議長は増加率に上昇が見られないとして雇用に関しては慎重な見方を崩していない。確かに失業率については、数字のレトリックを指摘する声もある。失業率はあくまで、求職している人に対する失業者の割合を示しているので、そもそも職探しを諦めてしまった人はカウントの対象とならない。現実には職探しを諦めた人が多く、彼等が完全に雇用されるまでは、本当の意味で景気回復とはいえないというのが慎重派の主張である。

 日本と異なり米国は基本的に経済成長に対する要求水準が極めて高い。一定数の増加では不十分と見なされ、絶対数に加えて増加分についても高い伸びが求められる。雇用者数の増加が毎月20万人を下回っている現状では、まだ勢いが感じられないという解釈になるのもうなずける話といえるだろう。

経済指標を重視しすぎると・・・
 もしバーナンキ議長の意図をそのまま解釈すれば、名実ともに良好な経済指標(特に雇用統計)が出てこない限り、緩和を継続するということになるわけだが、市場関係者の中には、今回の決定が今後のFRBの選択肢を狭めてしまったと指摘する人もいる。
 
 確かに堅調な個人消費に比べて雇用の状況はあまりよくない。だが90年代の米国がそうであったように、米国の産業構造は大きく変化しており、失業率が高止まりしたまま経済が回復するという、いわゆる「ジョブレスリカバリー」が発生している可能性がある。もしそうだとすると、失業率の数字は今後も容易には改善しない可能性が高い。
 失業率という政策目標に縛られてしまうと、いつまで経っても緩和縮小を決められず、インフレなど緩和継続の弊害の方が大きくなってきてしまうことを市場関係者は危惧しているのだ。

 最悪なのは、FRBによる暗めの見通しに加えて、債務上限問題で市場に混乱が起き、結果的に実体経済が腰折れしてしまうケースである。もし緩和縮小を断行していれば、緩和縮小の影響と解釈され、経済のファンダメンタルズに対する疑念にまでは至らない可能性がある。だが緩和を続行している状態で、景気の腰折れが懸念されてしまうと、市場は再び大規模な緩和をFRBに要求するようになってしまうかもしれない。そうなってしまったら、まさにそれは麻薬であり、FRBは後戻りができなくなってしまうだろう。

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