総工費9兆円。リニア建設狂想曲の結末は?

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 JR東海は9月18日、2027年に開業予定のリニア中央新幹線について、詳細な走行ルートと中間駅の所在地を明らかにした。車両込みの総工費は9兆円という超大型プロジェクトとなっており、10兆円を超す経済効果が期待されるとの声も聞かれる。

 2020年の東京オリンピック開催決定直後ということもあり、リニア計画の詳細発表に対してはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。だがプロジェクトのリスクをすべて背負うJR東海にとって、リニア計画の実施は企業体力ギリギリの負担であり、いばらの道だ。

 リニア計画が持ち上がった1960年代と現在では経済環境が全く異なっている。当初、国家プロジェクトとして始まったリニア計画だが、結局、政府はリニア計画に対して一切の費用負担をしない形になった。市場では本当にJR東海が単体で取り組むべきプロジェクトなのか疑問視する声も聞かれる。

9兆円もの建設費をJR東海が単独で負担
 リニア中央新幹線は、アルプスの山中を貫き、品川-名古屋間286キロを最短40分で結ぶ(途中の停車がない場合)。現在約1時間30分の所要時間となっている東海道新幹線「のぞみ」の半分以下である。路線のほとんどはトンネルになっており、起点となる品川駅も地下40メートルに、名古屋駅も地下約30メートルに設置される。

 大手シンクタンクではリニア開業の経済効果を10兆円以上と見積もっており、沿線地域では早くもリニア効果に対する期待が高まっている。だがプロジェクトを推進するJR東海は課題山積の状況となっている。特に問題なのは9兆円を超えるといわれる莫大な建設費用の処理である。

 JR東海では当初、政府からの支援を期待していた。だが政府との交渉は難航し、全額JR東海の負担という形で決着した。だが総資産約5兆円、自己資本が1.5兆円しかないJR東海が9兆円もの建設費を負担するのは明らかに過大である。リニア関連の負債はピーク時には5兆円に達する予定であり、金利負担の増加から収益悪化が懸念されている。

リニア計画立案当時とは状況が激変
 そもそもリニア中央新幹線は、国家プロジェクトとしてスタートしたものである。田中角栄元首相による列島改造論ブームを背景に1973年に基本計画が成立した。

 リニア構想が持ち上がった1960年代の日本は、現在とはまるで経済状況が異なっている。経済成長が続き、東京-大阪間の輸送力増強が緊急の課題となっていた。またJRは存在しておらず、国鉄がリニア開発を主導していた。名実ともに国家プロジェクトだったわけである。

 だがその国鉄は37兆円の債務を抱えて破綻。税金を投入して債務の処理が行われ、現在のJRに分割民営化された。バブル崩壊以後、日本経済は低迷が続き、当時とは逆に人口の急激な減少が進んでいる。長期的な交通需要の減少が予想される中でのリニア計画となってしまったのである。

 また技術面でも大きな変化があった。当時は時速250キロ程度の営業運転が限界といわれていた鉄道技術が急速に進歩し、現在では時速350キロ程度の営業運転が十分可能となっている。中央新幹線のルートは勾配があり、従来の新幹線の速度をそのまま適用することはできないが、単純に距離だけを考慮した場合、東京-名古屋間は従来の新幹線でも1時間程度で結ぶことが可能である。何としてもリニアにしなければならない理由は薄れてきているのだ。

莫大な利権から建設ありきの状況に
 JRが民営化された経緯を考えると、本来であればリニア建設はゼロベースで見直しが行われるべきものであった。実際、国土交通省など政府内部ではリニア推進の是非をめぐってかなりの激論が戦わされた。

 だが現実問題として、巨大な政治利権を伴うリニア建設の見直しは容易ではない。リニア推進については、大規模災害に備えた迂回ルートの確保、技術開発による国力の増進など、様々な必要性が提唱されたが、どうしても建設ありきという印象はぬぐえない。
 迂回ルートの確保であれば、従来型新幹線としてのプランや中央線の高速化などもっと多くの選択肢があってよい。また技術開発の推進ということであれば、それこそ国費で実施すべきもので、JR東海という民間会社に負担を強いるのはスジ違いといえるだろう。

 ともかく最大の問題は9兆円もの建設費用をJR東海1社が負担しなければならないという現実である。JR東海にとっては、リニア新幹線を作ったところで大幅な収益増加は見込めない。従来の新幹線の顧客を奪うだけだからである。現在のところ、運賃は新幹線料金と大差ない水準を計画しており、客単価の増加も限定的だ。また運行本数も少ないことから、新幹線ほどの収益性は見込めない可能性が高い。

金利上昇リスクに対して脆弱
 JR東海ではリニア中央新幹線に関する長期的な試算を出しているが、東京-名古屋間が開業する予定の2027年の営業収益は現在とほぼ同レベルの1兆2000億円程度しか見込んでいない。営業利益も現在とほぼ同水準の3300億円となっている(図1)。


 問題なのは経常利益だ。売上げが変わらないのに、同社の長期負債は現在の約2倍となる5兆円の水準に達する見込みである。金利負担が重くのしかかり、経常利益は名古屋開業時には1700億円に、2045年の大阪開業時には何と750億円程度まで落ち込んでしまう。
 さらにやっかいなのが金利動向である。試算では長期金利を3%として計算している。だがアベノミクスが順調に進み年2%の物価目標が実現された場合、14年後の金利が3%ということはあり得ない。もし金利が5%に上昇した場合、同社の営業利益はすべて吹き飛んでしまう可能性がある。

 JR東海は旧国鉄から5兆円もの債務を引き継いでスタートした。約25年を経てJR東海の債務は約2.5兆円にまで圧縮された。だがリニア建設に伴って、再びJR東海は過剰負債の体質に逆戻りしてしまう。リニア建設に伴う負債の額が、旧国鉄債務と同額の5兆円というのは何とも皮肉な結果である。

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