さようなら日本企業。広がる世界との投資格差

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 4~6月期の企業決算は比較的好調で、円安の効果から増益となった企業も多かった。輸出企業を中心に日本企業はかつてない円高に苦しんできたが、ようやく最悪の状況から脱しつつある。
 だが日本企業が苦しい状況に置かれていたのは円高のせいだけではない。ここ数年は、日本企業の国際競争力の低下が誰の目にも明らかになるというかつてない事態となった。ある意味で日本経済最大の転換点を迎えたともいえる。

 1990年代以降、ITの普及とそれに伴うグローバル化によって、企業をとりまく環境は大きく変化した。かつて国内でトップクラスの企業は、国際的に見ても上位の企業であることが多かったが、最近ではその様子に変化が見られる。国際的に業務を展開するいわゆるグローバル企業と日本の大手企業では、その規模や収益力に大きな違いが出てきているのだ。これらグローバル企業と比較すると、日本の大手企業はもはや中小企業にしか過ぎないというのが現実の姿である。

 このことは、企業の経営戦略という意味でも、投資対象という意味でも、日本が重大な岐路に立たされていることを示している。日本企業は今後も持続的に成長することが可能なのか?また投資対象として魅力的な存在なのかという根本的な問いである。

グローバル企業と日本企業の差はあまりにも大きい
 図1はグローバル企業と日本企業の規模や収益力の違いを示したチャートである。横軸が売上高、縦軸が営業利益を示している。いわゆるグローバル企業の売上げは10兆円を超えるところが多く、営業利益も兆のレベルとなっている。またインテルやグーグルなど高収益型の新興企業は、5兆円前後の売上げだが、利益率は非常に高いという特徴がある。

 一方、ソニーやパナソニックなど、日本を代表する世界的企業であってもその売上げは数兆円レベルにとどまっている。かろうじて日立は10兆円が見えるラインにきているが、収益力はグローバル企業に比べると大きく見劣りがする。22兆円の売上げがあるトヨタだけは別格だが、逆にいうとトヨタ以外に日本には本格的なグローバル企業は存在しないのである。

 規模の違いは国際的な競争において致命的な影響をもたらす。例えば重電という分野ではGEが圧倒的なトップ企業だが、その3分の2の規模しかない日立や半分以下の東芝が互角に戦うのはもはや困難である。食品の分野はさらにその差が激しく、世界トップのメーカーであるネスレは味の素の10倍の売上げがある。すでに同じ土俵で競争する環境にはないといってよいだろう。


日本企業のROAは諸外国よりもかなり低い
 日本企業の現状について、よくガラパゴス化という表現が用いられる。競争がない国内市場に安住し、それ以上の拡大を望まない状況を、外界から隔絶されたガラパゴス諸島になぞらえたものである。

 日本企業が高い収益を求めていないことは各種の指標からも明らかだ。企業は自社が保有する資産を活用して収益を上げる。自社が持つ資産をどれだけ有効活用しているのかを示す指標がROA(総資産利益率)である。ROAは企業の利益を総資産の額で割って求められる。株式投資などではROE(株主資本利益率)がよく用いられるが、ROEは負債の割合によって数字が大きく変わってくる。ROAの方が、会社の資産効率全体を見る場合には都合がよい。

 図2は日本企業と米国企業のROAの推移を示したものである。日本企業と比べると米国企業のROAはかなり高い。欧州の企業も日本より高いところが多く、日本のROAは低い。ROAは総資産回転率と利益率に分解することができるが、総資産回転率は日本と米国であまり差はない。ROAの違いは基本的に利益率の違いによってもたらされている。

 日米で利益率が大きく異なっているのは、何が原因なのだろうか?そのヒントは企業規模によるROAの違いにある。図2に示したように、米国の中小企業のROAは全体平均よりむしろ高い。一方日本の中小企業のROAは全体平均と比べると低い。日本の中小企業は極端に利益率が低いことが分かる。


原因は重層的な下請け構造?
 日本の中小企業の利益率が低いのは、中小企業の多くが大企業の下請けになっていることが主な原因と思われる。日本企業の多くは、長年取引している系列企業からの仕入れを優先することが多く、納入企業どうしの競争があまり機能していない。実際、日本企業の仕入れ原価は米国企業よりもかなり高い。
 もし調達企業が規模の拡大を続けていれば、必然的に調達先を見直す必要が出てくるため、納入企業は選別され競争力もついてくる。だが規模の拡大がない場合には、長期間にわたって同じ企業との取引が継続することになり、これが常態化してしまうと、調達企業と納入企業は半ばなれ合いの状況に陥ってしまう。

 調達企業は業容拡大を怠っているため、いずれ製品の付加価値が低下してくる。こうなってしまうと、納入企業に対して値引きを要求する以外に利益を確保する方法がなくなり、最下流に位置する中小企業は利益を出せなくなる。これが企業規模が小さくなるにつれてROAが低くなる原因と考えられる。

 もちろん欧米にも調達企業と納入企業という役割はあるが、元請け、下請けといったような、納入企業が発注企業に従属するような関係には必ずしもなっていない。納入企業どうしの競争によって企業規模を拡大し、交渉力を付けていると考えられる。したがって余分なリソースを持たない中小企業は逆に大企業よりも高い利益率を確保できている可能性が高い。

 ちなみに日本も戦前までは納入企業と調達企業の間に現在のような従属的な関係は見られなかった。だが国家総動員法による産業統制の結果、系列が強制的に作られ、元請け、下請けという関係が成立した。この特殊な階層構造は日本の戦時体制独特のものであり、これが現在まで続いてきたということは、驚くべきことである。

投資対象としては魅力が薄れる日本企業
 ちなみにROAの推移と株価の推移には長期的な相関性がある(図3)。株価が継続して上昇した1990年代の米国はROAも高い水準が続いていた。だが株価が大きく下落した2003年や2009年にはROAも減少している。日本はバブル崩壊後、2000年代の前半まで株価は一貫して下落してきたが、ROAもほぼ同様の動きを見せている。日本で最近ROAが上昇したのは2007年の株高の時だけである。

 統計データにはタイムラグがあるため、最新のROAの状況はまだ分からない。だが先にもみたように、日本企業が置かれている国際的な状況を考えると、今後、日本企業のROAが米国企業並みに上昇する可能性は少ない。株価の動きとROAの連動性が今後も続くと仮定すると、日本株の上昇余地はあまり大きくないということになる。


 日本企業はこれまで半ばお題目のようにグローバル化を標榜してきた。だがグローバル企業と対等に戦うことは現実的に難しくなってきている。国内企業どうしのM&Aで規模を拡大したり、業務のムダを削減するという方策が、現実的課題として浮上してくることになるかもしれない。

 一方、投資という立場では、グローバルな視点が今後ますます重要となるだろう。現状ではROAの向上が見込めない日本企業と好調な業績を持つグローバル企業のどちらが投資対象として有効か?円安が長期的に継続する可能性が高いことを考えると、外国企業に対する投資を真剣に検討する時期に入っているのかもしれない。

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