量的緩和策はマネーストックに影響を与えているか?

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 日銀による異次元の量的緩和のスタートから3カ月が経過した。当初のお祭り騒ぎは収まり、市場では量的緩和策の具体的な効果に関する議論が始まりつつある。

 日銀は7月9日、6月のマネーストック(マネーサプライ)速報を発表した。代表的な指標であるM3の残高は1158兆2000億円、前年同月比3.0%の増加となった。
 現行のマネーストック統計に改訂された2004年3月以降では最大の伸びである。マネーストックが増えた要因はもちろん日銀による量的緩和策なわけだが、これで異次元の量的緩和策が効果を発揮していると判断するのはまだ早い。預金の総額は伸びているが、金融機関による貸し出しはそれほど増加していないからだ。

 このペースでマネーストックが伸びていけば、いずれ物価は上昇に転じる可能性が高い。ただ、名目上の物価が上昇しても、それが実質的な経済成長に結びつかなければ意味がない。現時点では量的緩和の効果について、まだニュートラルな状態といってよいだろう。

マネーストックが増加して初めて実体経済に効果を及ぼす
 マネーストックは以前マネーサプライと呼ばれていたもので、金融機関から世の中に供給されているマネーの総量を示す指標である。日銀は基本的に世の中に直接マネーを供給することはしない。金融機関を通じてマネーを出し入れすることで間接的に世の中のマネーの量をコントロールする。

 一方、日銀から金融機関に提供されるマネーの総量を示す指標はマネタリーベースと呼ばれる。金融機関はその資金をもとに貸し出しを行い、貸し出されたお金は預金という形で金融機関に預けられ、再び貸し出しに回される。このようにして日銀が提供したマネーの何倍ものお金が世の中に出回ることになる。これを信用創造と呼ぶ。

 日銀がいくらマネタリーベースを増やしても、最終的に世の中に出回っているマネーの総量が増えなければ意味がない。量的緩和の効果を判断するためには、マネタリーベースの増加を見ているだけでは不十分であり、マネーストックの数字が順調に増えているのかどうかを検証する必要がある。

前回の量的緩和と比べれば確実に効果は上がっているが・・・
 日銀は2001年から2006年にかけて量的緩和を実施した時期がある。この時は最大で45兆円程度の資金を市場に供給し、マネタリーベースは一時1.7倍程度まで拡大した。前年比のマネタリーベース増加率は最大で40%近くに達したこともある。だがマネーストックは思いのほか増加せず、最大で3.7%程度の増加にとどまった。当時の日銀は量的緩和の弊害を強く意識していたので、それ以上、量的緩和策を続けることはなかった。

 今回の量的緩和策は2年間で140兆円を投入し、マネタリーベースは2倍になる予定なので、前回よりもはるかに規模が大きい。量的緩和を開始してすぐにマネーストックが前年同月比3%になった事実を考えれば、少なくとも前回よりは着実に効果を上げているといってよいだろう。

 図1はマネタリーベースの増加率とマネーストックの増加率を比較したグラフである。マネタリーベースの増加にあわせてマネーストックも増加していることがわかる。ただマネタリーベースを30%以上も増加させて、ようやくマネーストックが3%増えているという状況を考えると、マネーストックの増加は決して容易ではないことが分かる。


供給されたマネーは預金として滞留している
 量的緩和策が実体経済に効果を及ぼすためには、さらにいくつかの山を越えなければならない。もっとも重要なのは供給されたマネーが貸し出しという形で市中に出回り、設備投資を促進させることである。

 図2はマネーストックの増加率と、預金および貸し出しの増加率を比較したグラフである。マネーストックの増加に合わせて、貸し出し、預金ともに増えているが、預金の増加率の方が高い。金融機関はリーマンショックで貸し出しを激減させたが、2011年以降は一定のペースで貸し出しを増やしている。だが企業側に資金ニーズがないため、これ以上のペースで貸し出しを増やすことは難しいというのが現状だ。

 量的緩和で供給されたマネーによって貸し出しが増加しているというよりは、銀行が以前から設定しているペースに従って貸し出しが増えているといった方がより正確である。供給されたマネーは結局、預金という形で金融機関の中に滞留しており、貸し出しに回っているわけではないことが分かる。
インフレ期待が醸成される可能性も
 量的緩和が経済成長に結びつくルートはそれだけではない。マネーの総量が増え続けることが予想される場合、世の中にはインフレ期待が出てくることになる。
 実質金利は名目上の金利からインフレ率を引いたものなので、インフレ期待が出てくれば、実質的に金利を引き下げることができる。実質的な金利が下がれば、貸し出しが増え、設備投資の活性化が期待される。そうなれば名目上の物価上昇であっても、実質的な経済成長を伴うことになる。

 現時点では株価が上昇していることや円安になっていること以外には、明確に期待インフレ率が上昇しているという兆候は見られない。

 ただ、マネーサプライの増加傾向が確実になってくれば、円安による輸入物価上昇との組み合わせで、ある程度のインフレ期待が醸成されてくるかもしれない。ここまで来れば、いよいよ量的緩和策の実体経済への波及メカニズムを具体的に検証することができるようになってくる。来月以降のマネーストックの数値は要注目といえそうだ。

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