課題山積の日本版ISA

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 2014年1月から、日本版ISA(少額投資非課税制度、通称NISA)が始まる。投資元本が年間100万円までならば、株や株式投信の値上がり益、配当・分配金にかかる税金が5年間非課税になる制度だ。
 これまでの「貯蓄から投資へ」の流れの一環として個人のリスクマネーを市場に呼び込むとともに、長期的な資産形成を促すのが狙いである。

 日本版ISAに対する個人投資家の関心は高く金融機関には問い合わせが相次いでいる。だが肝心の制度の内容が非常にわかりにくく、証券会社各社も対応に苦慮しているのが現状だ。

 背景には、株式市場を活性化させたい政府と税収確保を意識する財務省とで意見の相違があり、政府はこれを完全に解消しないまま見切り発車してしまったという事情がある。次年度以降、内容を改正する案も出ているが、このままでは、せっかくの制度が、掛け声だけで終わってしまう可能性もある。

日本版ISA(NISA)とはどんな制度?
 日本版ISAは、1999年に英国で導入された制度がベースになっている。10年の期限付きで、20歳以上の居住者であれば、金融機関を通じて購入した株や株式投信の値上がり益、配当・分配金にかかる税金が非課税になるというものだ。ただし1年あたりの投資額は100万円、非課税期間は5年という制限があり総額の上限は500万円となる。
 これまで株式投資をしたことがない中間層を市場に呼び込むことを念頭においた制度であり、実際英国では、株式市場の投資家層の拡大に一定の効果を上げた。

 日本版ISAは個人投資家の関心も比較的高く、うまく制度を普及させることができれば株式市場の裾野を拡大することができる。だが日本版のISAは英国版と異なり、制度が複雑という大きな問題を抱えている。場合によっては節税効果をうまく発揮できないケースも考えられ、一部からは本当に機能するのかという疑問の声も上がっている。

 日本版ISAの問題点は多く分けて二つある。ひとつは10年という期限の中で実際に節税効果が得られるのは5年に限定される可能性がある点、もうひとつは金融機関の間で口座の移管に制限があるという点である。

複雑な制度が投資家の行動を縛る
 日本版ISAの期限は10年だが、実際には商品を購入してから5年間しか節税の効果はない。もっとも金額100万円以下であれば、5年後にさらに期間を延長できる仕組みはあるものの、実質的には5年に限定されると考えてよい。現実の株式市場の値動きを考えると、事実上5年間に節税期間が制限されてしまうのは、投資家の行動を大きく縛ってしまう可能性がある。
 また節税期間が事実上5年に制限されるという状況が投資家に周知徹底されているのかどうかも疑問だ。この制限を知らずに株式を購入し、6年後に売却したが思いも寄らぬ税金が徴収されてしまった、という事態にもなりかねない。

 それだけではない。日本版ISAの適用を受けるためには、金融機関で専用の口座を開設する必要があるのだが、現行制度では、1人1口座(1社)と決められており、一度口座を開いたら4年間は金融機関の変更ができない。現実には金融機関の口座をたびたび変更する可能性は小さいと思われるが、一度開いたら変更できないという心理的プレッシャーは、投資の初心者には大きな負担となる可能性がある。
 
 この点については金融機関各社も懸念しており、これを受けて金融庁では2015年度以降、1年に1回を限度に口座を変更できる制度に変更する方針を明らかにしている。

背景には金融庁と財務省のスタンスの違いが
 制度が複雑になってしまった背景には、株式市場への影響を懸念する金融庁と、できるだけ税収を確保したい財務省との間で調整が難航しているという事情がある。

 日本版ISAは、株式・株式投信の譲渡益や配当、分配金に対する税率が10%に軽減されている現在の証券優遇税制との入れ替わりでスタートする。もともとは2011年の軽減税率終了後、2012年に日本版ISAを開始するというスケジュールだったが、軽減税率の延長にともない2年遅れの開始となった。
 軽減税率延長の議論においても、株価への影響を懸念する金融庁と税収確保を求める財務省との間で調整が難航したが、今回の日本版ISAにおいても同じ図式となったわけだ。

 さらに、富裕層優遇との批判を気にする政府与党の思惑も絡んで、状況の複雑化に拍車をかけている。
 
 非課税期間を5年で区切るという仕組みが導入された背景には、投資総額を抑えたいという意図がある。非課税期間を制度の期間と同じ10年にすると、理論的には総額1000万円まで投資ができることになる。
 10年間で1000万円という金額が高額なのかという現実的問題はともかくとして、1000万円という数字が一人歩きすると、富裕層優遇と批判されかねないとして、政府サイドはこの数字にかなり敏感に反応したといわれている。

何よりも分かりやすさが重要
 この他にも、制度上対象となる商品のすべてが実際に金融機関で対象商品になるとは限らないということも、投資家が使いにくい点の一つだ。例えば海外の市場に上場する株式(いわゆる外国株)を扱う証券会社でも日本版ISAの対象とするかどうは証券会社により対応が異なっている。投資信託についても同様である。同じ商品を扱っていても対象とするかどうかは金融機関が個別に決定するため、投資家は各金融機関ごとに確認しなければならない。

 日本版ISAの開始は2014年1月からだが、すでに制度の改正が検討されている。主な内容は、商品の拡充、金融機関の変更制限撤廃などである。また金融庁では制度の恒久化も視野に入れているといわれる。
 だが、現時点における最大の懸念は、制度の複雑さで投資家が活用を躊躇してしまうことである。内容の改善や恒久化の議論も重要だが、5年間の制限撤廃など、よりわかりやすい改革が求められている。

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