ソフトバンクの賭け

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 米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収をめぐり、米衛星放送大手ディッシュ・ネットワークと争っていたソフトバンクが買収合戦に勝利する公算が高まってきた。
 6月18日、ディッシュは買収を事実上断念する声明を発表しレースから降りた。スプリントの株主総会でソフトバンク案が承認されれば、正式にソフトバンクによる買収が成立することになる。

 スプリントの買収に成立すると、ソフトバンクの売上げは一気に2倍近くになり、ドコモやKDDIを追い抜いて日本最大の通信会社となる。また米国という世界最大の通信市場への足がかりを得ることになる。

 だが、自身と同規模の会社の買収であることやスプリントの業績が低迷していることなどから、今回の買収を危険視する向きも少なくない。確かにスプリントの現状は厳しく、買収後すぐにリストラを行い、業績を急回復させないと、ソフトバンク本体の経営を直撃するような事態にもなりかねない。

15億ドルを積み増して買収合戦に勝利
 ソフトバンクは2012年10月、201億ドル(1兆9000億円)でスプリントを買収すると発表して市場を驚かせた。ところがディッシュが255億ドルを提示し買収合戦となったため、ソフトバンクはさらに15億ドルを上積みし、216億ドルの買収案を提示していた。

 スプリント側はソフトバンクに好意的であり、ディッシュに修正案を提出するよう求めていた。今回、ディッシュ側が修正案の提出を見送ることを表明したため、ソフトバンクによる買収がほぼ確定的となった。スプリントの臨時株主総会でソフトバンク案が承認されれば、買収が正式に成立することになる。

 だが今回の買収には難題が山積している。ソフトバンクにとっては自分と同じ規模の会社の買収であり、スプリントの買収は同社の今後の業績に大きな影響を及ぼすことになる。スプリントの業績は現在かなり低迷しており、経営の立て直しはそう簡単なことではないとの見方が一般的だ。
 市場からは企業体力をオーバーした無理な買収との声も聞こえてくる。果たして今回の買収はソフトバンクにとって危険なものなのだろうか?

スプリントの赤字はソフトバンクの利益を吹き飛ばす水準
 スプリントの2012年12月期の売上高は約350億ドル(約3.3兆円)。ソフトバンクの2013年3月期の売上高はスプリントとほぼ同じ約3.4兆円である。ソフトバンクの業績は好調だが、スプリントの業績は低迷が続いている。2007年以降、6期連続で赤字を垂れ流している状況で、今期の赤字額は約43億ドル(約4000億円)に達する。


 しかもここ3年は売上げが増加しているにもかかわらず赤字額も増大しており、売れば売るほど損失を出す状況となっている。同社の現在の粗利益率は約40%とここ3年で10%以上も下落した。スプリントは全米3位の携帯電話会社だが、1位のAT&T(売上高12兆円)と2位のベライゾン(売上高11兆円)に規模で大きく差を付けられており、この状況から抜け出すのは確かに容易ではなさそうだ。

 ソフトバンクは業績を順調に伸ばしており、利益水準も増加している。だがスプリントの来期の業績が現在と変わらなければ、ソフトバンクの当期利益である2894億円をすべて投じても、スプリントの赤字をカバーすることはできなくなる。ソフトバンクの経常利益は6500億円あるので、連結決算となれば損益が通算され黒字は確保できるかもしれない。だが業績の大幅が下振れは確実となる。
 ソフトバンクはスプリントを買収後、ただちにリストラに着手し、同社の黒字転換を果たすことが極めて重要となる。

業績回復が実現すれば最高の投資案件に
 ソフトバンクにとって自身と同規模の会社を買収するのはかなりのリスクを伴うことになる。だが一方で、短期間で業績を回復することができれば、非常に効率のよい投資になる可能性もある。

 ソフトバンクはスプリントの買収にあたり、銀行からの融資と社債発行で2兆円の資金を手当てする予定となっている。現在、同社には1兆4000億円の現金があり、当面の資金繰りに問題が生じる可能性は少ない。
 またソフトバンクには2兆円を超える自己資本がある。スプリントを買収すると、自己資本比率は大きく低下するが、これ以上の赤字が継続しなければ、財務的な健全性は何とか維持することができるだろう。

 負債が多くを占めているとはいえ、総資産5兆円の会社を約2兆円で買収できる意味は大きい。現在スプリントの時価総額はソフトバンクの買収を反映して約2兆円となっているが、業績を回復することができれば資産総額と同レベルの5兆円程度にはすぐに回復するはずである。そうなればソフトバンクには3兆円の利益が一気に転がり込んでくることになる。


多くの場合、望むタイミングで買収はできない
 市場ではなぜこのタイミングでスプリントを買収するのかについて明確な説明がないなど、ソフトバンクと同社の孫社長の戦略について疑問視する声がある。

 だがこれだけの規模の会社のM&Aともなると、買収側が望むタイミングで希望の会社が売りに出るケースなどまずあり得ない。今回のM&Aの案件がソフトバンクに持ち込まれた経緯は不明だが、現実に買収案件が持ち込まれた場合には、躊躇している暇などないことがほとんどだ。すぐに名乗りを上げない限り他の企業に持って行かれてしまう可能性が高いのである。

 ソフトバンクには最初から長期的戦略はなかったかもしれないが、そのことを批判することにあまり意味はない。ソフトバンクへの投資を検討する投資家にとって、今回の案件はスプリントの業績回復の可否にかけるという非常にシンプルなものとなる。ただ、これまでボーダフォン買収などリスクが高いと言われてきたM&Aを成功に導いてきた同社にとっても、今回の案件は非常に難しい相手であることは間違いない。

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