成長戦略で注目の指標GNIが抱える根本的矛盾

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 安倍首相は6月5日、都内で講演し成長戦略の第3弾を発表した。この中で首相は今後10年をメドに1人当たりの国民総所得(GNI)を現在の水準から150万円増やすという目標を掲げた。

 このところ日本ではGDP(国内総生産)に代わってGNIの指標を重視しようという動きが活発になってきている。GNIとは聞き慣れない用語だが、実は目新しい概念ではない。
 20年前までは、経済成長を示す指標としてGDP(国内総生産)ではなくGNP(国民総生産)が一般的に使われていたが、GNIは基本的にGNPと同じものである。つまり20年も前に使われなくなった指標に着目し、再びこれを活用しようとしているのだ。

 これには日本の国内市場が縮小し、GDPを使った指標では経済が縮小する一方に見えてしまうという切実な事情がある。確かにGNIを使った方が経済の現状をより把握しやすいという利点はあるが、GNIを推奨したいという政府の思惑はもう少し後ろ向きだ。

GNIとはGDPに海外で得た所得を加えたもの
 GNI(国民総所得)とは、日本人が国内外から得た所得の総額のことで、現在標準的となっているGDP(国内総生産)に、主に海外からの所得の受け取りを加えたものである。

 具体的には海外に設立した現地法人の配当や海外投資からの利益、海外で就労した人の所得などがGDPに加わることになる。現在日本は工場の海外移転が進み、海外で収益を上げるケースが増加している。GDPはあくまで日本国内で生まれた富を示すものであることから、工場の海外移転が進んでしまうと、日本の経済が成長しないように見えてしまう。GNIは海外で活動する日本企業から得た所得も計上できるので、より実態に近い評価ができる。

 国際収支の分野では、このことはかなり以前から当たり前のこととして受け止められている。日本はすでに慢性的な貿易赤字国だが、最終的な国の収支である経常収支はまだギリギリでプラスを保っている。それは海外に投資した資金から得られる投資収益が貿易の赤字をカバーしているからだ。

 この貿易の赤字をカバーしている投資収益が、GDPではカウントされないのである。海外で稼ぐという、これからの日本のビジネスモデルを考えた場合、GNIはひとつの有効な指標といえるだろう。ちなみに日本のGNIは一貫してGDPよりも多い状態が続いている(図1)。


なぜGNP(GNI)からGDPに変更されたのか?
 だがGNIの数値を用いれば、経済規模が大きくなるからといって手放しで喜んでいられるわけではない。政府がGNIを推奨したいという意図を持っているということは、肝心の国内市場の活性化に手をこまねいていることの裏返しだからだ。

 そもそも、GNP(GNI)からGDPへ切り替えるきっかけとなったのは、今とは少し事情の異なる経済のグローバル化であった。当時、日本企業は世界を席巻しており、米国に対して猛烈な輸出攻勢をかけていた。日本製品のシェア拡大に危機感を抱いた米国は、政治的な圧力をかけて、日本企業に対し現地法人化と現地生産を強く求めていた。

 その結果、元々の国籍は日本だが、米国に根を下ろし、米国人を雇用して、米国向けに製品を製造する工場が全米各地に出来上がることになった。トヨタやホンダの現地法人が米国社会に深く根ざした存在になっているのは、このような事情があったからだ。

 そうなってくると、当時の米国のように外国からの投資を多く受け入れている国は、GNP(GNI)よりもGDPの方が大きくなる。今の日本とは逆に、米国の政策担当者にはGDPを全面に押し出したいという意向が強く働くことになった。
 また経済政策の基礎となる数値が、投資した国の経済環境に大きく依存するのは政策判断の指標として好ましくないという意見や、経済成長が為替に大きく左右されてしまうという欠点も指摘されるようになっていた。これらが総合的に作用し、世界的にGNP(GNI)からGDPへという流れが出来上がった。日本もそれにならってGNPの使用をやめ、GDPへの切り替えを行ったのである。

GNIを成長させるためにはGDPの成長が不可欠という矛盾
 現在は米国も海外に対して積極的な投資を行っており、日本と同様、GNP(GNI)の方がGDPよりも数字が大きくなっている(図2)。だが一方で米国は海外からの資本も多く受け入れている。GNIに頼らなくてもGDPの高い成長が見込めるので、GNIに回帰しようという動きは今のところ見られない。つまりGNIに頼りたいと思っているのは日本だけなのである。


 海外への投資から得られる所得は、今後の日本経済にとって極めて重要な意味を持っているのは事実である。だが経済成長の根幹をなしているのはやはり国内の市場である。
 日本はバブル崩壊以後、20年近くにわたって「カネ余り」の状態が続いている。それは国内市場が制度疲労を起こしており、魅力的な投資対象が生まれてこなかったからである。本来であれば、海外への投資から得られる収益を最大化すると同時に、制度疲労を起こしている国内市場を改革し、国内資本にとってはもちろんのこと、海外資本にとっても魅力なものにして、資本が回転するよう誘導していく必要がある。

 その具体的な施策のひとつが規制緩和などに代表される競争政策ということになる。だがアベノミクスで提唱されている成長戦略は、どちらかというと既存産業の保護育成に重点を置いたものとなっており、国内市場を抜本的に変革させるには迫力不足となっている感が否めない。

 海外への投資は、実は国内経済と密接な関係があることが知られている。ここ10年における日本の対外直接投資額は、GDP成長が比較的堅調であったリーマンショック前の時期に突出して多かったという事実を忘れてはならない。いくら国内市場が低迷しているといっても、国内市場に元気のない国が、よりリスクの高い海外投資に果敢に取り組む可能性は低いのだ。結局のところGDPを増加させることなしに、GNIの成長を実現することはできないのである。

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