PFIは成長戦略としてふさわしいのか?

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 成長戦略の重要項目の一つとしてPFI(民間資金を活用したインフラ整備)に注目が集まっている。
 産業競争力会議では、空港の施設利用権の民間売却や民間資金を利用した羽田・成田間の地下鉄建設、首都高の空中権売却などが具体的に議論された。安倍政権はPFIについて10年間の行動計画をまとめ、より実現性の高いものにしていく方針だ。

 公共事業というこれまで官の視点でのみ投資が行われてた分野に民間の資金や知見が入ることは悪いことではない。
 だが本来、官が担うべき長期的な投資プロジェクトに民間の資金を入れることが、成長戦略の中核といえるのかどうか、議論が分かれるところでもある。
 またPFI資金の出し手として、生命保険会社や年金などが想定されているが、これらに対する過度な期待は健全な運用を妨げる原因にもなる。PFIは決して魔法の杖ではない。

PFIが急浮上した背景にあるのは公共事業の継続
 PFIとは、プライベート・ファイナンス・イニシアティブの略で、公共施設の建設や維持管理、運営などについて、民間の資金や経営能力を活用する手法のことを指す。

 PFI法自体は1999年に施行されたものであり特に目新しい概念ではない。だがここにきてPFIに対する注目が高まっている背景には、日本の財政が限界に来ており、これ以上国債を発行することが難しくなってきているという現実がある。

 一般に公共インフラは建設にかかったコストの2~3割程度を維持管理に支出すべきといわれている。だが、日本はこれまで無計画に公共インフラの建設を続けてきた結果、維持管理を行うだけでも莫大なコストが必要な状態となっている。国債の発行が限界に来た今、目をつけたのが運用難に直面している民間の資金というわけである。

年金と生保の資金が想定されている
 ひとくちにPFIといってもその規模や内容は様々である。学校や図書館、刑務所など、それほど多くの資金を必要とせず、民間のノウハウが生かせる分野については、効果的なPFIの実施が可能かもしれない。

 だが政府の成長戦略では、このようなケースにとどまらず、空港運営や地下鉄など大型公共事業へのPFI導入を強く意識しており、この点は非常に気になるところだ。なぜなら、これら巨大プロジェクトの資金の出し手として想定されているのが生命保険会社や公的年金だからである。

 生保や公的年金は、現在、その資金のほとんどが国債で運用されている。生保や年金におけるポートフォリオの中で国債(社債や地方債含む)の占める割合は70%近くに達する。
 日本ではこの先、運用環境の変化が予想されることから、国債に偏ったポートフォリオを見直し、株式などリスク資産の割合を高めることが求められている。国債に代わる投資先のひとつとして考えられているのが、PFIに代表されるような公共インフラ投資である。


生保の運用にとって重要なデュレーションの問題
 だが運用先の変更といってもそう簡単なことではない。生保は生保で、年金は年金で、求められる適切な運用条件というものがあるからだ。

 利回りに加えて、資産運用で重要となるのは運用の期間(デュレーション)である。デュレーションとは、主に債券投資における残存期間のことを指す。
 生命保険は、まず加入者から保険料を徴収し、加入者が死亡すると保険金を支払うという順番になる(死亡保険の場合)。多くの人は長生きするため、加入者に対して保険金を支払う必要が出てくるのは、かなり後になってからである。保険会社の平均的なデュレーションは15年程度といわれている。

 保険会社がバランスのよい運用をするためには、負債(支払う保険金)のデュレーションと資産(投資した商品)のデュレーションができるだけ近い数字になっていることが望ましい。期間が10年~20年という長期国債は生保の運用条件によく合致した商品だったのである。

 これに対して、公共インフラ投資の運用期間はもう少し長い。しかも日本は高齢化が急速に進んでおり、新規保険加入者の年齢が上がっている。これにともなってデュレーションは短くなる傾向にあり、現在15年程度のデュレーションがさらに短くなる可能性もある。そうなってしまうと、公共インフラへの投資は、たとえ利回りが良くても適切な投資対象なのか微妙な状況となってくる。

年金が積み立て方式なら問題はないが・・・
 この点において、年金の運用期間は公共インフラ投資と整合性が高いように思われる。だが日本の場合、必ずしもそうとはいえない部分がある。日本の年金は積み立て方式ではなく、世代間負担方式だからである。

 年金が積み立て方式であれば、加入者が年金に加入してから実際に支払いが行われるまでには30年以上の年月が経過するため、長期運用プロジェクトとの親和性は高い。だが世代間負担方式の場合、人口動態や新規加入者の数によっては、ただちに運用を停止してキャッシュに換える必要性が出てくる。この点において、換金性が低いPFIは年金運用主体にとってリスクが高い資産となる可能性がある。

 もちろんPFIの流動性を高めるための制度を確立することは可能である。だが、大規模な取引市場が存在している国債や株式と比べれば、制度を確立したところで、その差は明らかである。

そもそも成長戦略にふさわしい内容なのか?
 生保や年金が、主体的な運用方針のもと、結果的にポートフォリオの一部としてインフラ投資を選択するのであれば問題はないだろう。

 だが公共事業の資金の出し手として過度な期待が寄せられることや、運用難から運用責任者が安易に公共インフラへの投資を選択するような事態となれば、それは保険加入者や年金加入者の利益を損ねることにもつながりかねない。

 また根本的な問題として、大型公共事業という途上国型の投資プロジェクトに民間資金を導入させることが、成長戦略としてふさわしいのかという疑問の声もある。

 成長戦略には、ターゲティング・ポリシーに代表されるような特定産業を保護、支援するタイプの施策と、規制を緩和し、新しい産業の登場を促す競争促進型の2種類がある。
 
 ターゲティング・ポリシーはどちらかというと途上国型の施策であり、成熟国家になった日本は、本来であれば、新産業の自然な創出を促す政策が必要なはずである(本誌記事「安倍政権の経済政策(アベノミクス)を検証する」参照)。
 だが産業構造の転換には痛みが伴う。これを忌避した結果としての、ターゲティング・ポリシーや公共インフラ投資の活性化というのであれば、それは本末転倒の施策ということになる。

 いずれにしても成長戦略としてのPFIに過度な期待は禁物である。

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