動き出したMade in USA

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 動き出したMade in USA
Share on Facebook

 2012年2月、米ゼネラル・エレクトリック社(GE)の発表に、ケンタッキー州ルイビルの街は歓喜の声に包まれていた。
 一時は閉鎖寸前といわれたルイビル工場(写真)に総額10億ドルを投資し、中国などに移管していた生産を再び同工場に戻すことを決断したからである。

 米国の製造業ではこのところ、海外に移転した工場を米国内に戻す動きが活発になってきている。主役となっているのは重電や化学などいわゆる重厚長大産業。その背景には中国をはじめとする新興国の人件費高騰がある。そしてその動きを後押ししているのが、米国で始まったシェールガス革命である。

 一度は製造業を捨てた米国が再びモノ作り大国として復活しつつある。

米国の製造コストは中国よりも2割安い
 GEのルイビル工場は同社の家電部門の拠点として君臨してきた。冷蔵庫や食洗機などいわゆる白物家電を生産してきたが、とりわけ同工場の名物といわれていたのが電気温水器である。
 米国の家には、たいがいGEの電気温水器が備え付けられている。常に暖かいお湯が出る住宅は豊かなアメリカの象徴ともなってきた。だがここ10年はグローバル化の波に揉まれ、他の製品と同じく中国へと生産が移管されていた。

 だが中国の労働コストや輸送コストの増加が激しくなってきたことから、温水器の製造を米国内へ戻すことになった。米国はもともと製造業の国なので、大量の熟練労働者が存在している。しかも同工場には最新の生産ラインが導入されており、生産効率が極めて高い。

 中国では10時間かかっていた温水器の組み立てがルイビルの工場では2時間で済むという。冷蔵庫については9時間が3時間に短縮され、工場内の必要スペースも80%以上削減された。製造コストはトータルで中国よりも2割安くなっている。GEでは、国内生産比率を現在の50%程度から75%まで引き上げる予定だ。

米国企業以外の動きも活発
 GE以外の企業でも製造拠点の米国回帰が進んでいる。化学大手のダウ・ケミカルはリストラの一環で世界各地の工場を閉鎖する一方、テキサス州には40億ドルを投じて大規模な新工場を建設している。米国産の安価なシェールガスを原料に使いエチレンの米国生産を強化したい意向だ。

 米国に工場を建設しているのは、米国企業だけではない。英ロールスロイス社はジェット・エンジンの部品を製造しているバージニア州の工場について生産設備の増強を決定した。また独シーメンス社はノースカロライナ州にタービン製造拠点を設立、中東やメキシコへの出荷を開始している。トヨタ自動車もケンタッキー州の工場を増設し、高級車レクサスの現地生産を開始する予定だ。

 米国ではリーマンショック以降、民間企業の設備投資が大幅に落ち込んでいたが、2011年にようやくリーマンショック前の水準まで復活した。海外からの直接投資も増加しており2012年には約1670億ドル(約17兆円)が米国企業に対して投資された。海外からの直接投資残高は2.8兆ドル(約283兆円)に達している(図1)。


移民問題の解決も製造業回帰を後押し
 海外から米国に対して行われた直接投資のうち、約42%が製造業に対するものであった。また製造業の中でも化学など重厚長大産業が大きな割合を占めている(図2)。

 為替市場ではドル高が進んでおり、米国に製造拠点を設けることは輸出に際して不利になる。それでも米国内での製造を決断する企業が増えているのは、中国をはじめとする新興国の人件費が高騰しているからである。
 特に重電や化学といった重厚長大産業は多数の熟練工を必要としており、いくら人件費が安いからといっても、ミャンマーやベトナムなどに簡単に製造拠点を移すことができない。教育された労働者を大量に採用することができる米国で生産行うことは実はメリットが大きいのである。


 これらの大手企業は地域の学校に資金援助を行い、優秀な労働者を確保する仕組みを構築している。米国は現在、移民法の改正を進めている最中であり、これが実現すれば、これまで不法移民として暮らしていた中南米系移民の多くが正式に米国市民権を得る。
 不法移民の2世は、すでに多くが米国内で高等教育や大学教育を受けており(米国は不法移民でも教育を受ける権利は保障されている)、市民権の問題さえ片付けばすぐにでも有力な労働者となることができるのだ。

製造業の見直しによって、ダウは意外なほど大きく上昇する可能性も
 だが何と言っても、米国に製造業を回帰させている最大の理由は、米国で始まったシェールガス革命である。米国では安価なシェールガス、シェールオイルの開発が進んでおり、米国は近い将来、世界最大のエネルギー産出国に転じることが予想されている。安価なエネルギーを安定的に調達できる環境は、製造業にとって理想的だ。米国への製造業回帰は長いスパンで継続する可能性が高い。

 米国への製造業回帰は最終的に長期的なドル高をもたらすことになるだろう。米国の貿易赤字は一時は8000億ドル(約81兆円)にも達し、このうち2000億ドルが石油の輸入によるものであった。
 だが米国が石油の輸出国に転じることで、石油による赤字は急激に減少してくることが予想される。また海外から工場が国内回帰することで、海外工場からの輸入も減少していくことになる。2012年にはすでに貿易赤字額が減少に転じていることを考えると、米国が経常黒字に再転換するのも時間の問題かもしれない。

 米国の株式市場では債券から株式へのグレートローテーション(大転換)が始まっているといわれる。だが消費財やヘルスケアのセクターを中心にした現在の株価形成に対して、割高感が高まっているのも事実だ。
 一方で、世界的な不景気のあおりを受け、製造業の株価収益率は依然として低いままで推移している。もし株式市場において製造業の復活が意識され始めれば、株価指数は意外なほど大きく上昇する可能性がある。

【関連記事】