在日米軍の黄昏。アジア太平洋地域で今起こっていること

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 米オバマ政権は、中国の軍事的台頭を背景に、中東に主眼を置いていた従来の安全保障政策を見直し、アジア太平洋地域に軍事力をシフトするいわゆる「リバランス戦略」を進めている。リバランス戦略のカギとなっているのがオーストラリアとシンガポールである。

 米海軍は4月18日、今後大量配備が計画されている最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)「フリーダム」をシンガポール・チャンギ海軍基地に配備した。8カ月間のローテーション配置を予定しており、将来的には全4隻態勢となる予定だ。また沖縄に駐留していた海兵隊を撤退させ、オーストラリアへの再配備も進めている。

 これはアジア太平洋地域の地政学的重要地域が、日本や韓国といった東シナ海沿岸地域から南シナ海沿岸地域へとシフトしていることを示している。地政学的な重要地域のシフトは、やがて経済的な動きとも連携してくる。日本はアジアの重要拠点としての地位を失いつつあるのだ。

豪国防白書の驚くべき内容
 5月3日にオーストラリア政府が発表した国防白書は、ちょっとした衝撃を関係者に与えた。中国の台頭について脅威と見なしていた前政権から180度方針を転換し、中国の影響力拡大を歓迎する内容となっていたからだ。

 白書で強調されているのは、中国とインドの影響力増大である。アジア太平洋地域ではなくインド太平洋地域という新しい戦略的「弧」が出現しているとしている。これは従来のアジア太平洋地域の地政学的解釈を根本的に変えるインパクトのある表現である。
 
 戦後のアジア太平洋地域の地政学的解釈では、旧ソ連というランドパワーの国をシーパワーの国(米国を中心とした同盟国)が円弧の形で包囲するという形が基本となってきた。旧ソ連を中国に置き換えれば、従来と同様、中国包囲網を形成することが重要という理解になる。現在の安倍政権は地政学的な戦略として、このような中国包囲網を念頭に置いていると思われる。

 だがインド太平洋地域という新しい「弧」が出現しているという表現は、米国による中国包囲網という考え方が根本的に成立しなくなっている可能性を示唆している。オーストラリアのギラード首相は「米中のどちらか一方を選択する必要はない」とし「中国は敵国とみなさず、平和的台頭を促すことを基本政策とする」と明言している(写真)。

米国のリバランス戦略は必ずしも中国を敵視していない
 アジア太平洋地域に軍事力をシフトする米国のリバランス戦略は、一見、中国を封じ込めるための戦略であるかのように見えるが必ずしもそうではない。

 米国は近年、経済面に加えて軍事面においてもシンガポールとの連携を強化している。シンガポールのリー・シェンロン首相は4月2日、オバマ大統領と会談し米国のリバランス戦略について協議を行った(写真)。

 従来米国は、航空母艦を中心とした大規模な艦隊を展開することを軍事的な基本戦略としてきた。アジア太平洋地域の海軍兵力の拠点は日本の横須賀であり、同港には米国の主力空母が常に配備されてきた。

 だが米国とシンガポールの戦略的提携関係をもとに配備された新しい艦船は、大型の航空母艦を中心にした従来型の装備ではなく、沿岸地域の制海権を確保する事を目的としたコンパクトで機動的なものであった。

 このことは、米国が中国を敵国とみなし完全包囲するという従来型の地政学的解釈を持っていないことを意味している。

 中国を敵として封じ込めるのではなく交渉相手と見なし、一定の制海権が確保できればよいというレベルに米国の基本戦略が後退している可能性があるのだ。オーストラリアが米中双方との関係を重視する国防白書を発表することができたのも、この延長線上にあると考えてよい。

地政学的なパワーシフトは経済覇権とリンクする
 地政学的な変化は経済的な変化と結びついている。中国はすでに日本を抜いて世界第2位の経済大国となっているが、南シナ海を中心とする中国以外のアジア経済圏の成長も著しい。ASEAN各国にオーストラリアと香港を加えた同地域の2012年におけるGDPは420兆円となっており、470兆円の日本に迫る勢いである。しかも同地域の平均成長率は4.8%と高い。これに中国が加わると1300兆円の巨大経済圏となり、1600兆円の米国経済と肩を並べることになる。

 航空機が発達した現在でも、物流の中心はやはり船舶である。船舶はもっとも安価に大量の貨物を運ぶことができる手段であり、海洋権益は各国経済の基本的なインフラといえる。米国がアジア太平洋地域の制海権にこだわるのもこのあたりに理由がある。
 日本のコンテナ取扱量が減少し、シンガポールなどに海運のハブが移動していることは以前から指摘されてきたが、今後はその動きがますます加速することになるだろう。

 またこの地域はREIT(不動産投資信託)市場が発達していることでも知られている。オーストラリアのREIT時価総額は日本よりも大きく世界で2番目の規模がある。またシンガポールや香港もREIT市場が発達しており、両国の市場を合わせると日本のREIT市場に準じる規模となる。
 REITは普遍性が高くグローバルな金融商品として注目されている。国際的な投資マネーという意味でも、南シナ海へのシフトが進んでいるのだ。

米国で台頭しつつある在日米軍撤退論
 米経済誌ウォール・ストリート・ジャーナルは5月10日「米軍は日本からの撤退を検討すべき時期にきている」という刺激的な論文を掲載した。
 
 論文を執筆した米バード大学のイアン・ブルマ氏は、革命世代が第一線から退いた中国は以前の中国とは異なると指摘。功罪含めて日本を受け止める余裕はなくなっているとしている。一方日本も、岸信介氏の孫である安倍氏が首相に就任するなど右傾化が進展しており、日中の利害は衝突する運命にあると分析している。

 その上で、これまで米国の同盟国として、米国のアジア戦略の要となっていた日本の役割は変わりつつあり、米国は段階的な日本からの撤退を検討すべき時期に来ていると結んでいる。

 旧ソ連に対する最前線の防衛ラインとして、また世界経済の機関車として、日本は米国のアジア戦略の中心的存在であった。だが新しい世界秩序では日本に求められている安全保障上の役割も、経済的な役割も以前とは大きく変化している可能性がある。下手をすると日本は孤立しかねない状況なのだ。

 すぐに大きな変化があるわけではないだろうが、長期的な視点で経済や投資を考える場合、これは無視できないファクターになりつつある。

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