株価暴落の引き金となったオプション取引の実態

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 5月23日の日経平均株価は前日比1143円28銭安という大幅下落となった。午前中、株価は順調に上昇し、一時は1万6000円に迫る勢いだったが、後場の寄り付きから先物主導で株価は急落、時間を追うごとに下げ幅を拡大していった。

 中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)が市場予想を下回ったことやFRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長が量的緩和縮小を示唆する発言を行ったことなどが材料視されたといわれているが、それは本当の理由ではないだろう。
 1万6000円という心理的節目を目前にした先物主導の売りが下落のきかっけであったことを考えれば、今回の株価下落は、テクニカル的な要因である可能性が高い。

 実際、市場ではヘッジファンドによるオプション取引の影響が相場下落に大きな影響を与えたとの声が多く聞かれる。ヘッジファンドによるオプション取引のポジションが予想以上に積み上がり、損失の拡大を恐れたオプション引受業者がヘッジ取引を行ったことで相場が乱高下したという。
 では、株式市場をここまでかき乱すヘッジファンドによるオプション取引とはどのようなものなのだろうか?

オプション取引とは株を売買する権利を売買するもの
 オプション取引とはデリバティブの一種で、株をある値段で売ったり買ったりすることができる権利のこと。コールオプションは「買う」権利、プットオプションは「売る」権利のことを指す。
 
 例えば現在の株価が1万5000円だったと仮定する。ある投資家が行使価格1万5000円のコールオプションを購入すれば、その投資家はオプションを売った相手から1万5000円で株を買うことができる。値段が1万5000円のままでは、オプション料を払った分だけ損をするが、もし株価が2万円に上昇していれば、2万円の株を1万5000円で買うことができるわけだから、買った投資家は儲かることになる。逆にオプションを売った投資家は2万円で株を買ってきて1万5000円で売らなければならず、5000円損してしまう。
 このように一対一で、株を売ったり買ったりする権利だけを売買するのがオプション取引と呼ばれるものである。

 ヘッジファンドがなぜオプション取引を積極的に行うのかというと、オプション料は株価の数分の一といった水準なので、株本体を売買するよりもはるかに大きな取引ができるからである。例えば1万5000円の株のオプション料は2000円とか3000円といったレベルだ。だが最終的な損益は上記の例でいけば5000円といった額になる。2000円のオプション料を支払って5000円の儲けになるということは利益は2倍以上だ。つまりオプション取引は、株本体の売買に比べてハイリスク・ハイリターンなのである。

上がり過ぎた株をさらに買い上がる理由
 23日に大幅下落するまでの約2週間、日経平均株価は少々異常な上昇を続けていた。その大きな要因のひとつがヘッジファンドによるコールオプションであるといわれている(図1)。

 ヘッジファンドはここからさらに株価が上がると考え、コールオプションを大量に買い込んでいた。この時点でさらに株価が上がると考えるのはかなり乱暴だが、必ずしもそうとは言い切れない部分がある。
 株価が過熱していると考える投資家は、逆の動きを狙って空売りを仕掛けることも多い。だが予想通りに株価が下がらないと空売りを仕掛けた投資家は損してしまう。株価が下がらないと判断すると、空売りを行った多くの投資家が損失を回避するために一斉に空売りの買い戻しを行う。これによって株価はさらに急上昇してしまうのだ。このことを兜町では「踏み上げ」と呼んでいる。


 日経平均が1万6000円に迫る水準で、さらに買いのオプションを購入したヘッジファンドはこの「踏み上げ」でさらに株価が上昇することに賭けていたのである。

株価乱高下に拍車をかけた引受業者の存在
 株価高騰にさらに拍車をかけたのが、オプションの引受業者による取引である。オプションを買う人がいるなら売る人もいる。ヘッジファンドに対してオプションを販売する引受業者は、ヘッジファンドから受け取るオプション料が収入源である。
 株価上昇に賭けたヘッジファンドは引受業者にオプション料を支払っているが、想定したほど株価が上昇しなければ、支払ったオプション料はそのまま引受業者の利益となる(ヘッジファンドは損失)。株価が上昇すれば、逆にヘッジファンドに対して支払いを行う必要があるが、通常は手数料と相殺することで最終的に利益が確保できる仕組みだ。

 だが今回は株価の上昇があまりにも急だったため、オプションを売った引受業者が大きく損をする可能性が高くなった。ここ数日の株価急上昇を見て損失が拡大すると判断した引受業者は、これを回避するために自分自身も積極的に買いを入れた。これによって買いが買いを呼ぶ展開となり、日経平均は異常に上昇したのである。

 ところが23日午後、相場は突然下落に転じてしまった。コールオプションを買っていたヘッジファンドはこのままでは大きく損失を出してしまうので、今度は逆の商品であるプットオプションを大量に買い込んだ。プットオプションはコールとは逆で、株価が下がると儲かる商品である(一方引受業者の方は株価が下がると損をする)。買いの局面と同様、今度はプットオプションを売った業者は、株価が下がると損をしてしまうため、自分自身も株を売り始めた。結果的に売りが売りを呼び、1000円を超える水準まで暴落してしまったのである。

類は友を呼ぶ
 オプション取引をはじめとするデリバティブ取引は、本来は市場の機能を補完するものである。実際ニューヨーク市場では、デリバティブはそのように機能している。

 だが日本の株式市場は、かつてのように国際的な主要市場とはみなされていない。取引の厚みがないローカルな市場は、こうした荒っぽい取引を行うヘッジファンドが主役になってしまう。

 東証一部の時価総額は約400兆円と1700兆円近くあるニューヨーク市場の4分の1以下の水準だ。2007年に年間700兆円を超えていた売買代金は年を追うごとに減少し、現在は年間300兆~400兆円程度で推移している。

 ヘッジファンドなどによるこうした荒っぽい取引に対しては市場の攪乱要因になるとして批判の声が高まっているが、根本的な原因は、日本の証券市場に魅力がなく取引に厚みがないことなのである。

 市場とは不思議なものである。日本ではオリンパスに代表されるような不正会計事件が後を絶たず、市場の透明性に疑問符が付いている。こうした不透明な慣行が残る株式市場には、不透明で素性の怪しい投資家が集まってくるものなのである。

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