長期金利上昇の怪

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 日銀による異次元の量的緩和以降、低下が予想された日本の長期金利が不気味な上昇を始めている。金利の上昇は単純に株高を反映したものとみなすこともできるが、日本の財政危機に対する兆候と解釈することも可能だ。日銀による国債の大量購入によって市場の流動性が減少し取引価格が安定しない側面もあり、市場的な要因である可能性もある(写真はイメージ)。

 視点をより長期に移してみると、長期金利と名目成長率には高い相関が見られる。2013年1月~3月期のGDPは意外にも好調で実質3.5%、名目1.5%の成長であった。日本がゼロ成長に転落する1990年代後半の金利は今よりもずっと高かった。名目1.5%のGDP成長率が今後も継続するのであれば、今回の金利上昇は大騒ぎするほどの水準とはいえない。

 一方財政に対する悲観派は、日本が事実上の財政ファイナンスに突入したことで、財政危機のリスクが急上昇していると考えている。金利上昇はそのサインであり、経済成長の裏返しではないとの解釈だ。金利の上昇をめぐって正反対の考え方が併存しており、マーケットは少々混乱気味になっている。

量的緩和以降、金利はなぜか急上昇
 日本の長期金利(10年物国債の利回り)は日銀による異次元の緩和以降、予想に反して急上昇した。日銀は量的緩和策によって、今年中に60兆円の資金を供給することを決定しており、実際、量的緩和策決定以降4月だけで約10兆円近くの資金が投入された。4月1日に57兆円だった日銀の当座預金残高は4月末には66兆円に増大している。

 国債市場では黒田新総裁が量的緩和に踏み切るとの予想から国債が買い進まれ、3月1日には0.7%近くあった金利が、量的緩和前日には0.5%台半ばまで低下していた。ところがフタを開けてみると量的緩和当日こそ金利は急低下したが、その後金利は0.6%台まで上昇、さらに5月に入って一気に0.8%台まで急上昇した(図1)。


 一般的に株価が上昇すれば債券価格は下落(金利は上昇)するとされており、量的緩和以降、日経平均株価が1万2000円台から1万5000円台に急騰したことを考えれば、金利の上昇はそれほど不思議なことではない。だが日銀の資金供給によって国債がほぼ買い占められている現実を考えると、金利の急上昇はやはり不自然であり、その解釈をめぐって市場では様々な憶測が飛び交っている。

日本は日銀による財政ファイナンスの状態にある
 日本の財政状況に敏感な投資家は、金利上昇は日本の財政危機の兆候と見なしている。日本の政府債務のGDP比が世界でも突出して高いことは誰もが認識しているが、それがいつ財政危機を引き起こすのかについては意見が分かれている。悲観派は日銀による国債の大量購入がその引き金を引くと考えている。

 日銀は今後2年間で年間60兆円から70兆円の資金を市場に供給する。黒田総裁は「市場で取引される国債の約7割を購入することになる」と述べ、多くのメディアが発言をそのまま報道しているが、約7割というのは既発債の借り換え分も含んだ数字である。
 毎年発行する新規の国債は約40兆円強であり、これを基準にすれば、新規に発行する国債以上の国債を日銀が購入していることになる。日本はすでに事実上、日銀による財政ファイナンスを実施した状態なのである。

 悲観派は今回の金利上昇は、日銀による財政ファイナンスであることを市場が認識した結果と考えている。財政ファイナンスの結果は、止められない財政インフレであり、そうだとすれば、金利は今後も果てしなく上昇を続けることになる。

長期金利と経済成長率には高い相関が
 一方、日本の先行きを楽観視する投資家は、金利の上昇は景気拡大を反映した健全なものであると考える。長期金利はその国の長期的な経済成長率を反映する。したがって、景気が回復し株価が上昇する局面では金利も上昇してくることになる(債券が値下がりする)。

 実際、日本の長期金利は日本の名目成長率と高い相関がある。高度成長が続いてた70年代まで日本の長期金利は7%から8%の水準であった。名目成長率と長期金利の低下が始まるのは80年代のバブル経済がスタートしてからである。バブル経済後期には成長率は一旦上昇するが、バブル崩壊をきっかけにさらに下落。2000年からはほぼゼロ成長が続いた状態にある。

 途上国型の経済モデルから先進国型の経済モデルに転換する際、名目成長率と長期金利の低下が見られることはよく知られており、日本もその例外ではない。バブル経済はまさに日本経済の転換点であったことが分かる(図2)


長期視点で見ればそれほど高いとはいえないが・・・
 日本の最大の問題は、経済モデルの転換がうまく進まず、15年もの長期にわたってゼロ成長が続いてきたことである。アベノミクスによってようやくゼロ成長から転換できる兆しが見えてきたが、15年間も名目成長率がほとんど1%を超えたことがないというのはかなりの異常事態といってよい。長期金利もそれを反映しており、ゼロ金利というやはり異常な事態が長期にわたって継続してきた。

 日本がゼロ成長に入る直前には長期金利は1.9%の水準にあった。年率換算で名目1.5%というGDPの数値が出ている状況を考えれば、0.8%という金利はむしろ低すぎるくらいだという解釈も可能となる。

 どちらが正しいのかは、もうしばらく金利と景気の動向を見極める必要があるが、少々やっかいな問題も発生している。日銀による国債の買い占めによって債券の流動性が低下し、市場の価格決定機能が弱体化しているのである。量的緩和直後の金利急落の原因について、一部からは日銀と市場のコミュニケーションの問題を指摘する声も上がっている。異次元の量的緩和がスタートしてまだ2カ月弱という微妙な時期でもあり、黒田総裁の市場との対話力が試されている。

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