日本のベンチャー育成がうまくいかない理由(その3)

このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 日本のベンチャー育成がうまくいかない理由(その3)
Share on Facebook

 ネットバブル崩壊後、停滞が続いていたベンチャー企業育成の分野で動きが出てきた。楽天やサイバーエージェントなど、ネット系企業を中心とする経済団体である「新経済連盟」が政府に対して提言書を提出し、政府から前向きな反応を引き出した。

 ただ提言書の内容は、従来から日本で行われてきたベンチャー育成策の枠組みに沿ったものであり、思ったほどの目新しさはない。
 一方、英語教育の徹底強化など、少し首をかしげたくなるような内容も盛り込まれており、一部からはその内容を疑問視する声も上がっている。

 日本は過去20年近くにわたった様々なベンチャー育成策を立案してきたが、あまり効果は上がっていない。今回の提言書をベースに、日本のベンチャー育成をめぐる状況について検証してみた。

前回)からの続き
ディマンドサイドの政策には2つの方向性がある
 ベンチャー企業の支援において、ディマンドサイドの政策が有効だと仮定すると、現実的なやり方は2つに絞られてくる。ひとつは政府のような組織が直接ベンチャー企業の製品やサービスを購入するというもの。もうひとつは、大企業がベンチャー企業の製品やサービスを購入せざるを得なくなるような環境に追い込むというものである。

 具体的には、前者であれば政府調達の一定割合をベンチャー企業の製品やサービスにすることを義務づけるといったことが考えられる。後者については、徹底的な規制緩和を進め、大手企業を競争環境にさらして、新規事業の割合増加を促すといったやり方になる。
 実際、競争政策が隅々まで導入されている米国では、大手企業と成長企業における本質的な違いは少なくなってきている。大手企業中心のDOW平均株価と新興企業中心のNASDAQの株価の乖離は縮小している(図1)。


 だいぶ回り道してしまったが、この点を考慮にいれた上で、新経済連盟の提言はどのように位置付けられるだろうか?
 第1回のコラムで述べたように、提言書の前半は、起業文化の醸成やベンチャー投資を促す税制改革など、従来とあまり変わらない内容が並んでいる。新経済連盟の特色が出ているのはそれ以降の項目である。提言書の目新しい点としては、グローバルかつイノベイティブな人材育成と、徹底的な規制改革の2点ということになるだろう。

提言書で強調された英語教育はベンチャー支援になるのか?
 提言書では、新しい人材育成策についてイノベイティブなだけでなくグローバルであることを強く主張している。
 具体的には大学入試と公務員試験へのTOEFL導入、小学校での英語教育強化などが盛り込まれている。また教育課程にプログラミング、マーケティング、ファイナンスなどの科目を導入することも提言している。

 英語の強化については、サプライサイド、ディマンドサイド両方の面から解釈することができる。英語を使いこなせる人材が少ないことが日本のベンチャービジネスの発展を妨げているのだとすると、英語の強化策はサプライサイドの政策ということになる。

 だがこの考え方には異論も出てくるだろう。確かに英語が必須のスキルであることは誰もが認めるところであり、グローバル展開も重要なテーマであるに違いない。だがベンチャー企業にとってグローバル展開は必須要件ではない。
 実際、自国に巨大市場を持つ米国や欧州のベンチャー企業はグローバル指向を持っていない。シリコンバレーなどはその典型で、車で30分で行ける場所にある会社としか取引しないという雰囲気すらある。

 中国に抜かれたとはいえ、世界第3位のマーケットを持つ日本のベンチャー企業がわざわざグローバル市場をターゲットにするというのは少々合理性に欠ける。グローバル・マーケティングを前提にしなければベンチャー企業を運営できないとうのは、イスラエルや韓国といった自国市場が小さい国の話だ。

マクロ的な競争政策と見れば英語教育にも一定の効果が
 もっとも英語教育の強化はマクロ的な競争政策という意味にも解釈する事ができる。ベンチャー企業と異なり、グローバル展開が必須要件となっているのはむしろ日本の大企業である。

 大企業はすでに自国の市場を取り切っており、それ以上の成長を実現するためには海外市場に出ることが当然に求められる。先進国の大企業で海外市場に積極的に進出していないのは、日本企業くらいなものである。実際、国民の英語力とマクロ経済の成長率には一定の相関がある(図2)。


 英語教育をマクロ的な競争政策と解釈し、結果として大企業の競争が促され、ベンチャー企業の製品が採用されるという流れであれば、ベンチャー企業にとって一種のディマンドサイドの政策になるのかもしれない。

ロビー活動色が強い規制緩和プラン
 規制緩和については、ベンチャー企業の支援策という観点から見ると、若干方向性が異なったものになっている。対面・書面交付原則の撤廃や発送電分離などの項目が並んでおり、一般的なベンチャー支援策というよりも、どちらかというと新経済連盟に属する企業の利益を代弁したロビー活動色の強い内容といえる。

 総合すると、新経済連盟による提言は、経済産業省が中心となって実施してきた従来型のベンチャー支援策に、英語強化を加えた内容ということになる。英語強化については、ベンチャー企業に対する直接的な政策と見るのか、マクロ的な競争政策と見るのかでその評価は変わってくるかもしれない。

 少々残念なのが、英語教育や外資導入といったいわゆるグローバル経済推進策とベンチャー支援策の混同が見られる点である(両者を完全に分けることは不可能ではあるが)。実際、同団体に対しては、保守的傾向の強い層を中心に疑問を持つ人がいるのも事実である。

新経済連盟はどちらの方向を向いているのか?
 新経済連盟の代表である三木谷氏はまぎれもなく起業家であり、好き嫌いは別にして起業家としての実績に疑問を差し挟む人はいないだろう。
 だが、理事の一人で同団体の活動を積極的に行っているライフネット生命副社長の岩瀬大輔氏(写真)は、卓越したビジネスマンではあるが、厳密な意味での起業家ではない。
 ハーバードMBAや外資の投資ファンド出身という経歴は偶然なのだろうが、場合によっては同団体の方向性について誤解を招くことがあるかもしれない。

 ともかく、これまで低迷する一方だった政府によるベンチャー支援策の分野において、三木谷氏という強力な人物が出てきたことの意味は大きい。
 新経済連盟も発足したばかりであり、ロビー活動はまだ手探りの状態と思われる。政府の対応も含めて、同団体の活動が日本のベンチャー育成策を変えることができるのか、時間をかけて評価していく必要があるだろう。
(この記事はこれが最終回です)

【関連記事】