日本のベンチャー育成がうまくいかない理由(その2)

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 ネットバブル崩壊以後、停滞が続いていたベンチャー育成策の分野であらたな動きが出てきた。楽天やサイバーエージェントなど、ネット系企業を中心とする経済団体である「新経済連盟」が政府に対して提言書を提出し、政府から前向きな反応を引き出した(写真)。

 ただ提言書の内容は、従来から日本で行われてきたベンチャー育成策の枠組みに沿ったものであり、思ったほどの目新しさはない。

 一方、英語教育の徹底強化を主張するなど、少々首をかしげたくなるような内容も盛り込まれており、一部からはその内容を疑問視する声も上がっている。

 日本は過去20年近くにわたって様々なベンチャー育成策を試みてきたが、あまり効果は上がっていない。今回の提言書をベースに、日本のベンチャー育成策をめぐる状況について検証してみた。

前回)からの続き
ベンチャー企業の製品やサービスを購入する顧客がいない
 ベンチャーキャピタルは、基本的に投資に対するキャピタル・ゲインを狙うビジネス・モデルである。初期段階の優良な企業を見つけて出資を行い、その会社が成長して株式市場に上場すれば、取得した株式を売却して利益を得る。
 逆に言えば、出資企業が株式市場に上場できるくらいの規模に成長しなければ、利益を上げることはできない。事業会社などへの売却という手段もあるが、いずれにせよ相応の規模に成長することが条件となる。

 日本では中小零細企業とベンチャー企業が混同されている部分がある。ベンチャー企業とは革新的な技術やサービスを持ち、急成長が期待される小規模企業のことを指す。ベンチャー・キャピタルは零細企業に出資するのではなく、あくまで急成長が見込めるベンチャー企業に出資するための存在である。

 「投資に値するベンチャー企業がない」というベンチャーキャピタリストの悩みは、企業の絶対数が少ないということではなく、成長が見込める小規模企業が少ないという意味にとらえた方が自然である。つまり日本は起業活動はそれなりに活発になっていても、その多くが中小零細企業であり、本当の意味でのベンチャー企業ではない可能性が高い。

 革新的な技術やサービスを持った企業が規模を拡大できないのだとするとその理由は簡単である。革新的なベンチャー企業の製品やサービスを購入する顧客がいないからである。

新規事業に消極的な日本の大企業
 ベンチャー企業が急成長するためには、資金力のある大企業に対して製品やサービスを売り込んでいく必要がある。諸外国でも、法人向けの製品やサービスを提供するベンチャー企業の多くが、大企業を顧客としている。

 だが日本では大企業が極めて保守的でベンチャー企業の製品やサービスをほとんど購入しないという実態がある。このため日本ではベンチャー企業が急成長することが難しい。顧客がいない状況では、いくら起業を促したり、ファンドを整備したところで意味はない。

 日本の大企業の行動は現在でも極めて保守的である。コンサルティング会社のデロイトトーマツコンサルティングの調査によると、日本の大企業は米国や中国の大企業と比べて、新規事業への取り組みが非常に消極的であるという。
 日本企業における新規事業(過去3年以内に市場に投入した製品やサービス)が売上高に占める割合はわずか6.6%。これに対して、米国や中国における同種の調査では、米国は11.9%、中国12.1%と日本の2倍近くの数値となっている(図1)。


しかも新規事業の大半は世の中ではすでに存在しているもの
 さらに問題なのは新規事業の内容である。米国は新規事業のうち、自社として新しいだけでなく世の中にとっても新しい革新性の高い事業が半分以上を占めている。これに対して、日本企業における新規事業の中で、世の中にとっても革新性のある事業の割合は11%、事業全体からみればわずか0.7%だった。

 日本企業が取り組む新規事業は米国や中国の半分以下の水準であり、しかも新規事業のうちの90%は自社にとっての新規事業でしかなく、世の中にとっては新しくない事業ということになる。
 分かりやすい例をあげると、日本では大手化学メーカーがサプリメントのTV通販事業を始めるというようなケースが圧倒的に多いということである。その会社にとっては新規事業でも、サプリメントのTV通販は世の中では既存事業でしかない。

 諸外国の会社がベンチャー企業の製品やサービスを積極的に購入するのは、こういった新規事業が活発だからである。だが日本は上記のように本当の意味での新規事業は存在しない。自社の事業に革新性を求めていないので、わざわざリスクの高いベンチャー企業の製品やサービスを利用するメリットがないのである。

ベンチャー支援にはディマンドサイドの政策が必要?
 もしこの仮説が事実だとすると、日本のこれまでのベンチャー支援策の多くはあまり意味がなかったことになる。日本の従来のベンチャー支援策は、エンジェル税制の導入やファンドに関する環境整備、起業のハードルを下げるための法改正など、ほとんどがサプサイサイドに属するものである。

 だが現実には起業ができても、ベンチャー企業の製品やサービスを購入する顧客はおらず、会社を存続させたり、規模を拡大させることが極めて難しい。ベンチャー支援策として求められていたのは、サプライサイドの政策ではなく、ディマンドサイドの政策だったかもしれないのだ。

 サプライサイドの政策が重視され、ディマンドサイドの政策が全否定されるイメージのある米国においても、ベンチャー企業育成に関してはそれは当てはまらない。軍事用途など特殊な分野に限ってではあるが、米国において政府はベンチャー企業の最大顧客のひとつになっている。

 日本のお家芸であったロボット分野で、米国がたちまち日本を追い抜いてしまったのは、政府がロボット関連のベンチャー企業の製品や技術を貪欲に購入しているからである。
 現在では自由な起業活動の象徴ともなっているシリコンバレーですら、もともとは軍需関連のベンチャー企業の集積地として発達してきたところである。現在世界最大の半導体メーカーで、シリコンバレーのベンチャー企業の象徴ともいえるインテル社(写真)は、米国政府の存在がなければ存在していなかっただろう
次回に続く)

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