日本のベンチャー育成がうまくいかない理由(その1)

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 ネットバブル崩壊以後、停滞が続いていたベンチャー育成策の分野であらたな動きが出てきた。楽天やサイバーエージェントなど、ネット系企業を中心とする経済団体である「新経済連盟」が政府に対して提言書を提出し、政府から前向きな反応を引き出した。

 ただ提言書の内容は、従来から日本で行われてきたベンチャー育成策の枠組みに沿ったものであり、思ったほどの目新しさはない。
 一方、英語教育の徹底強化を主張するなど、少々首をかしげたくなるような内容も盛り込まれており、一部からはその内容を疑問視する声も上がっている。

 日本は過去20年近くにわたって様々なベンチャー育成策を試みてきたが、あまり効果は上がっていない。今回の提言書をベースに、日本のベンチャー育成策をめぐる状況について検証してみた。

三木谷氏の政治力で実現したベンチャー育成策の提言
 新経済連盟の三木谷浩史代表理事は4月17日、甘利明経済財政・再生相と会談し、新経済連盟が16日に開いた「新経済サミット2013」をもとにした提言書「イノベーションに関する緊急提言」を提出した。また同じ日に開催された政府の産業競争力会議第6回会合において、民間議員メンバーである三木谷氏が、同提言の内容について説明した。

 政府は、「大変いい提案だ」(甘利氏)としており、提言内容の実現に対して前向きに取り組む姿勢を明らかにしている。政府がベンチャー企業からの政策提言のこのような形で受け入れることは非常に珍しい。三木谷氏が安倍政権のブレーンとして認識されていることが、大きく影響していることは間違いない。提言書は大きく分けて以下の4つの項目で構成されている。

 ①イノベーション振興に関する国家方針の確立と起業文化の醸成
 ②ベンチャー投資を促す税制改革
 ③グローバルかつイノベイティブな人材育成
 ④徹底的な規制改革

 それぞれの内容についてもう少し詳しく見てみよう。

半分は従来のベンチャー振興策を踏襲する内容
 提言書では「リスクを取って新たな価値を創造し世界を変えていく起業家という存在を称賛・応援する社会を作ることが必要である」とし、そのための環境整備を進めるよう訴えている。
 具体的には、起業して破壊的なイノベーションを起こした人物への表彰、特区によるインキュベーション施設の設置、プログラマ・コンテストの開催などが盛り込まれている。

 続いて提言書では「ベンチャー支援をめぐる税制等について諸外国と同様の条件整備が必要」と指摘。具体的には、エンジェル税制の拡大や上場企業と非上場企業での損益通算などを主張している。
 ここまでの内容は、今までの日本のベンチャー支援策に関する議論では、ほぼ毎回登場してきたテーマであり、少々聞き飽きた感すらある。では実際、日本におけるベンチャー環境は諸外国と比べてどの程度なのだろうか?

日本のベンチャー環境は実際のところどうなのか?
 起業活動に関する国際比較を行っているプロジェクト「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)」では、毎年各国の起業活動に関する比較調査を行っている。
 GEMでは起業活動がどれだけ活発なのかを示す指標として起業活動率(Total Entrepreneurship Activity:TEA)というものを定義している。これは、起業準備を始めている人や、創業間もない企業の割合など、いくつかの指標を組み合わせて再指数化したものである。

 これによると、日本のベンチャー企業の活動状況は、過去12年間の調査期間における平均値において、6か国中最低ランクとなっている(図1)。


 起業活動率の絶対値は上昇しているものの、それは各国共通の傾向であり、相対的なポジションは常に低い。全体的には米国が突出しており、英国がそれに続く。日本は最下位ではあるが、以前に比べれば状況はかなり改善してきており、2010年以降に限って言えば、欧州各国と比較してそれほど悪い状況にはなっていない。

ベンチャー投資が増えない本当の理由
 一方、各国におけるベンチャー・キャピタル投資の額は、相対的に見るとかなり低い。OECDの調査をもとにした日本におけるベンチャー・キャピタル投資の対GDP比は、米国の5分の1、英国やフランスの3分の1、ドイツの約6割にとどまっている。日本よりもベンチャー投資の比率が低いのはイタリアだけである(図2)。


 総合すると、日本は起業活動が先進国中最低クラスであることは間違いなく、起業活動自体は上昇傾向にあるが、ベンチャー投資の環境は非常に悪いといったところだろうか?

 では日本で起業活動が活発にならないのはベンチャーキャピタルの投資が少ないからだろうか?それは必ずしもそうとはいえない部分がある。英国のように起業活動率は極めて高いが、ベンチャーキャピタルの投資はほどほどという国もある。逆にフランスのように投資額の割には起業活動率が低い国も存在する。

 日本のベンチャーキャピタルは常に優良な投資先がないという状況に直面している。それは日本のベンチャーキャピタルがリスク回避的だからという理由もあるかもしれないが、別な理由も考えられる。つまりベンチャー企業の絶対数は多くても、ベンチャーキャピタルの投資対象となるような種類の企業が存在していないという可能性である。
次回に続く)

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