日本のインフラが危ない

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 日本のインフラが危機的状況に陥っている。昨年12月、中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落する事故が発生し、道路インフラの劣化が表面化した。高速道路3社では、道路の老朽化対策として今後最大で10兆円の費用がかかると試算している。

 インフラ劣化の問題は道路だけにとどまらない。日本全体のインフラが同じ状況に置かれている。2009年にはGDPにおける固定資本形成と固定資本減耗の数値がとうとう逆転し、既存インフラの劣化が新規投資を上回る状態となった。
 本来であれば、ある時点から新規の建設を抑制し、既存インフラの維持活用に主軸を移すべきであったが、日本は目先の利益ばかり優先してしまった。維持しきれない量の公共インフラ建設を強行し、それらが一気に劣化を始めているのだ。

 日本はインフラ投資主導の途上国から、既存インフラを維持発展させる成熟国家への移行をまだ実現できていない。これは社会資本ストック(道路、橋、港湾など)だけの話にとどまらない。日本の産業構造全体が知識産業型、高付加価値型に移行できていないことと密接な関係がある。

償却後に無料化するというプランは絵に描いた餅だった
 高速道路3社(東日本、中日本、西日本)は4月25日、高速道路の老朽化対策に関する有識者委員会の中間とりまとめを発表した。 現在3社が管理する高速道路の総延長は約8700キロ。このうち開通後30年を経過した古い道路は4割(3200キロ)に達する。さらに2050年には50年を経過した道路が8割になる見込みだという。
 
 3社では、これらの古い道路の建て替えに約2兆円、修繕に3.4兆円、合計で5.4兆円の費用がかかると試算している。さらに、状況に応じて修繕で対応していたものを建て替えに変更する必要があり、その場合にはさらに5.2兆円の追加出費が必要になるとしている。これらを合計すると総額は最大で10.6兆円になる。

 これまで全国の高速道路には40兆円を超える資金が投入されてきた。だがこれらの資金は、新しい高速道路を建設するためのもので、その維持費についてはほとんど無視されてきた。本来、こうしたインフラ施設は建設費用の20%程度をメンテナンス費用にかける必要があるといわれている。だがこれまで新規建設に多くの資金を投入してきたため、維持費に回す資金が足りなくなっている。そもそも償却後に道路を無料化するというプラン事態が絵に描いた餅だったのである。

日本の産業インフラはすでに劣化に転じている
 日本は1980年代までは、GDPの3割をインフラ投資(民間の設備投資を含む)に充てていた。だが年々その割合は低下し、現在では2割程度になっている。経済が成熟するにつれてインフラ投資の割合が減ってくることは自然なことである。だが問題なのは、生産設備などを含めた日本の全産業インフラが減少に転じていることだ。

 図1は日本の全産業インフラ(生産用固定資産)の残高とGDPに占める産業インフラの増加分を示したグラフだが、2009年にはとうとう残高が純減(新規インフラの増加分と既存インフラの減耗が逆転した)となった。産業インフラの残高は2008年には1630兆円あったが、2011年末の段階では50兆円も減少している。


日本は今でもインフラ投資に依存した経済構造のまま
 本来であれば、発展途上国から成熟国に脱皮する過程で、新規のインフラ投資を抑制し、既存施設の維持に舵を切る必要があった。そうすれば、ある時点からインフラが急激に劣化する事態を避けることができた。またそれに合わせて内需中心の新しい産業が発達すれば、従来とは異なる形で民間の設備投資が継続され、結果として産業インフラ全体の残高は増加し続けたはずである。

 ここにきて産業インフラ全体が減少しているとうことは、社会資本ストックの劣化に加えて、企業の設備投資も進んでいないことを示している。つまり日本は成熟国家型の経済モデルに移行できていないのだ。

 図2はGDPに占めるインフラ投資(総固定資本形成)と日経平均の関係である。日本が途上国であった1950年から1970年までは、GDPに占めるインフラ投資の割合の増加と日経平均の上昇には明確な相関が見られた。このトレンドが逆転したのがバブル経済時代である。

 バブル経済はいろいろと問題もあったが、前川レポートが示したように、内需中心の成熟国家に舵を切るためのよいきっかけでもあった。だがバブルの後始末に失敗した日本は、産業構造の転換を拒否し、現在も製造業中心の発展途上国型経済モデルから脱却できていない。
 バブル崩壊後、日経平均は一貫して下がり続けたが、その動きとGDPにおけるインフラ投資の割合の低下は一致している。本来であれば、インフラ投資の割合が低下しても、日経平均が上昇する構造に変化していなければならないが、残念ながらそれは実現できていない。


アベノミクスは経済構造転換の最後のチャンス?
 バブル崩壊後、20年のデフレという他の先進諸国では考えられないような長期の景気低迷を経て、日本経済にもようやく復活の兆しが見え始めている。だが、今回のアベノミクスによる円安と株価上昇は、日本経済が構造転換する最後のチャンスになるかもしれない。

 日本におけるこれまでの景気回復局面を主導してきたのは、すべて製造業の設備投資であった。だが、このところの株高は、個人消費の活発化という新しい動きをもたらしている。この動きが息切れすることなく、持続的な景気回復に結びつくためには、硬直化した労働市場の改革や新しい産業へのシフトなど、いわゆる出血を伴った構造改革が必要となる。
 構造改革の過程においては、不必要となったインフラの破棄など、思い切った決断が必要となる局面も出てくるだろう。日本に残された時間はもうそれほど多くはないのだ。

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