円安と株高が浮き彫りにする、日本経済の構造転換

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 アベノミクスによる円安と株高が、日本経済の構造転換を浮き彫りにしつつある。個人消費に回復の兆しが見られる一方で、円安にもかかわらず輸出の回復が遅々として進まない。両極端なこの現象は、輸出主導型の経済構造から個人消費主導の経済構造へと日本が体質転換したことを示している可能性がある。

 日本は戦後一貫して輸出産業が経済をリードしてきた。これまで景気拡大の牽引役は常に輸出産業による設備投資であった。だが、日本の経済構造が体質転換しているのだとすると、次の景気拡大プロセスは従来とはまったく違ったものになるのかもしれない。

個人消費拡大がいよいよ中間層にも波及?
 昨年末に日経平均が上昇を始めてから、個人消費の拡大が顕著になってきている。当初は高級ブランドや外車など富裕層向けの商品が中心であり、株高による限定的な資産効果と思われていた。だが4月に入ると消費拡大が中間層にも波及していることを示す兆候が出始めた。

 全国の百貨店における3月の販売実績は、売上高総額が5447億円と前年比3.9%の大幅な伸びとなった。年明け以降、百貨店において高額商品が売れていることはよく知られている。美術品や貴金属といった高額商品の販売は今年に入って大幅に増加しており、1月は対前年比6.8%増、2月は8.6%であった。だが、衣類や食品など中間層向けの商品は依然として横ばいかマイナス状態が続いていた。

 だが3月の実績では、これらの商品が一斉にプラスに転じ、全体の売上高を4%近くも押し上げることになった。来月以降も全体の売上増加が続くようであれば、消費の拡大が中間層にも波及してきた可能性が高い。そうだとすると、円安と株高が消費者心理を好転させ、実際に消費を拡大させるというメカニズムが現実に作用し始めたことになる。

円安にもかかわらず、輸出が回復しない
 一方で、日本の経済の柱である輸出産業は低迷が続いている。北米向け輸出が好調な自動車関連産業を除くと、多くの業界で円安にも関わらず輸出が伸びていない。

 財務省が発表した貿易統計によると、2012年度の貿易収支は8兆1699億円の赤字となり、年度ベースの赤字としては2年連続、赤字額としては過去最大となった。直近の貿易収支も9カ月連続の赤字である(図1)。


 赤字の主な要因は原油や天然ガスなどエネルギー関連の輸入が増加したこと。日本は震災の影響でほとんどの原発が停止していることから、エネルギーの輸入が増加している。そこに円安の影響が加わったことで、輸入金額が大幅に上昇し、貿易収支が赤字に転落したのである。

 円安は輸入金額も上昇させるが、一方で輸出金額も上昇させるはずである。現在はエネルギー輸入増の影響が大きいが、本来であれば円安の進展によって輸出金額が増加に転じ、貿易赤字は一定の範囲に収束していく。輸入金額上昇のタイミングと輸出金額上昇のタイミングにはズレが生じる(Jカーブ効果)ため、すぐに効果が出るわけではないが、そろそろ輸出金額が回復してきてもいい頃だ。
 だが日本の貿易収支は円安の進展から数か月経っても一向に改善していない。その理由は、輸出数量そのものが減少しているからである。

輸出が不振となっている本当の理由
 3月の輸出金額は対前年比1.1%増加だが、数量は9.8%のマイナス。2月の輸出金額は対前年比2.9%のマイナスだが、数量は15.8%ものマイナスとなっている。円安によって輸出金額が増加しても、輸出の数量が減少しているので、最終的な輸出金額は横ばいのままだ。

 これまで日本の輸出金額と輸出数量はほぼ同じ動きを見せていた。為替がどのように振れようとも輸出に大きな影響はなかったのである。だが為替が円安になっているにもかかわらず、数量の下落が止まらないということは、日本製品そのものの競争力が低下していることを示唆している(図2)。


 もし日本製品の競争力が低下しているのだとすると、もしそれを改善できたとしてもかなりの時間がかかる。円安による輸出の回復で設備投資を促進するというシナリオは成立しない。

皮肉にも製造業の衰退が新しい経済システムをもたらす?
 これまで日本経済が回復する局面では、常に輸出企業による設備投資がその牽引役となってきた。もし個人消費がこのまま順調に回復し、日本経済が回復軌道に乗った場合、個人消費の拡大がサービス業の設備投資を促進するという新しい流れが出来上がることになる。

 それは日本経済の構造が根本的に転換したことを示している。戦後一貫して続いてきた輸出産業中心の産業構造からサービス業中心の産業構造へと変化したのである。
 日本は80年代以降、内需を中心にした成熟国家型経済システムへの転換を目指してきたが、ことごとく失敗してきたという過去がある。だが今回それを実現できたとすれば、製造業の衰退と引き換えであり、何とも皮肉な結果といえる。

 サービス産業中心の社会になれば、日本国内のマネーの流れは従来とは異なったものになるだろう。政治的にも大きなインパクトをもたらすかもしれない。従来の産業政策の多くは輸出産業向けであり、それらは根本的な見直しを迫られる可能性が高い。

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