不動産投資をめぐる潮目に変化の兆し

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  日本の不動産投資をめぐる環境に変化の兆しが見え始めている。
 外資系の投資ファンドが物流センターなどのロジスティクス関連不動産やオフィスビルへの積極的な投資を始めている。日本の不動産会社も相次いで新しい不動産ファンドを設定している。不動産市況がすぐにも回復しそうだというのは早計だが、これまで賃料の下落が続いてきた日本の不動産市場の潮目が変化し始めている可能性も否定できない。個人投資家に対するREIT商品の扱いも変わりつつある。REITを中心とした不動産ファンドへの投資について考察してみた。

外資ファンドが相次いで物件を取得

 2012年5月28日、ロイターはゴールドマンサックスが日本国内の不動産投資を再開し今後3から4年で4,000億円程度の投資を見込むと報じた。このほか、三井不動産グループが700億円規模のファンドを新たに設定した。また、野村不動産や三菱不動産もオフィスビルを中心とした不動産投資の運用規模を相次いで拡大している。
 オフィスビルだけではない。郊外にある物流施設に対する大規模な投資も相次いでいる。米国系の不動産投資会社プロロジス(NYSE:PLD)は埼玉県に巨大倉庫を完成させたほか、シンガポールの政府系不動産投資会社Global Logistic Properties(SGX:GLPL)の日本法人は神奈川や千葉県などで大型マルチテナント型物流施設の建設を開始した(図1)。


図1 GLPが建設を開始した神奈川県の物流施設の完成予想図

 同じくシンガポールの政府系REITであるMapletree Logistics Trust (SGX:MAPL) はさらに先行しておりすでに20件以上の物流施設を取得済みである。
 キーワードは外資と私募ファンドの2つだ。
 日本ではバブル崩壊後、不動産価格の下落が続いてきたが、2006年から2007年にかけて不動産価格は急上昇し、ちょっとしたバブル状態となった。
 REITの価格を指数化した東証REIT指数は、指数の計算がスタートした2003年には1000前後だったが、2004年頃から上昇基調が強まり、2007年には2600を超えた。その後リーマンショックを機に不動産バブルは崩壊し、現在はスタート時点と同水準にまで戻ってしまっている(図2)。


    図2 東証REIT指数とREITの平均利回りの推移

 この一連の不動産バブルの時期、日本勢に先駆けて積極的な投資を行い大きな利益を得ていたのが外資系の不動産ファンドであった。
 外資系の不動産ファンドは、日本国内の投資家が見向きもしなかった2000年前半に、すでに有力な物件の取得を開始していた。経営破たんしたダイエー碑文谷店は米国の不動産ファンドが、東京駅八重洲口にあるパシフィックセンチュリープレイス丸の内は、香港の長江財閥系通信会社PCCW(HKE:00008)が取得している。当時日本国内ではPCCWの投資を疑問視する声が多かったが、市況は急転し、同社は日本の不動産ファンド運用会社であるダヴィンチ・ホールディングス(債務超過に転落し、現在は上場廃止)に2,000億円で売却し巨額の利益を得た。その後のバブル崩壊で大きな損失を蒙ったのは結果的に日本勢であった。
 外資系の投資ファンドは意思決定が極めて早いと言われており、「外資が動き出したということは不動産価格が上向いてくる可能性が高い」(日系不動産会社)との見方も出てきている。
 しかし、今回は前回の不動産バブルとは少し様子が違うようだ。

割安に映る日本のREIT

 現在外資系のファンドが積極的な投資を開始したのは、賃料や不動産価格の先高感ではなく、日本市場の割安感を重視したという面が大きい。
 現在日本の資本市場はあらゆる面で劣化が進んでおり、市場のエネルギーが乏しい。このため価格形成能力も大きく劣った状態となっている。
 米国のREIT価格はリーマンショック後のボトムの半値水準をすでに回復している。日本と同様、米国も景気対策から意図的な低金利政策が続いており、REITが持つ利回りの高さと安全さが評価されて、すでに平均利回り2%台のレベルまで買い進まれている。これに対して日本のREIT市場は5%台という非常に魅力的な利回り水準が確保されているにもかかわらず、リーマンショック後のボトム水準をウロウロしている状態だ(図3)。

    図3 米国REITと比べてJ-REITのパフォーマンスの低さが目立つ

 日本では震災以降、地震のリスクにも敏感になっており、米国の不動産と単純に比較することはできない。しかし、安定的に5%台の利回りが得られ、実物不動産という担保が存在するREITにこの価格水準は合理的な説明がつきにくい。
 つまり日本の不動産市場は適正な価格が付かない状態であり、それは米国やアジアの不動産市場と比較すると大幅に割安ということになる。外資系のファンドはまさにここに目を付けているというワケだ。
 これに対して日本の機関投資家はかなり消極的だ。

私募ファンドに殺到する日本の機関投資家。そのワケは?

 国内の不動産会社が最近設定した新しい投資ファンドの多くが私募ファンドである。私募ファンドは公募である一般的なREITと異なり、機関投資家など特定の投資家のみに販売し、市場で自由に取引されることはない。
 普通に考えれば、換金性の高い公募型REITの方が魅力的に見えるはずだ。しかし、公募型のREITで新しいファンドの設定が行われたケースは最近ではごくわずかしかない。
 国内の機関投資家が私募REITに殺到する理由は価格変動が少ないことである。市場で取引されている公募型のREIT商品は「値動きが激しい商品とみなされている」(機関投資家セールスを担当する国内証券会社)ため、年金基金などの安定運用を望む機関投資家には売りにくいのだという。
 オープンエンド型の私募REITであれば、一定のルールで決められた値付け方法で買い戻しを要求することができるため、国内の機関投資家はこの商品に大きな魅力を感じているようだ。
 しかし、機関投資家が本当に不動産市況がボトムと判断し、今が投資におけるベスト・タイミングと考えているのであれば、公募であれ私募であれ、状況は同じなはずである。それにもかかわらず値動きがゆるやかな私募ファンドをあえて望むのは、この先さらに価格が下落し、キャピタルロスが出るかもしれないという懸念を持っているからにほかならない。
 現在は異常な低金利が続き、国債の利回りは1%を切っている。しかも機関投資家の国債保有比率は年々高まっており、ちょっとした金利の上昇が莫大な損失を引きこしかねない状況だ。機関投資家が私募の不動産ファンドに殺到するのは、国債に代わる商品が欲しいが、上場REITは価格下落が怖いという消去法的な理由が大きいと考えられる。
 つまり積極的に投資しているように見える外資ファンドは基本的に相対的な割安感で、国内の機関投資家は国債の代わりとして不動産ファンドに投資していることになる。

市場は潮目が変わるきっかけを待っている

 もっともこの状況は容易に転換しうる。現在のユーロ危機が長引き、さらに量的緩和が進んだ場合、潜在的なインフレ・リスクはさらに高まることになる。一旦市場がインフレを認識した時には、不動産価格は適正水準を超えて上昇する可能性もある。
 そこまでには至らなくても、現在の日本におけるREIT市場は極めて割安という見方は少なくない。
 先にも触れたようにREITは相対的に安全な商品といえる。不動産という実物資産担保があり、レバレッジは制限されている。また利益を投資家に還元するために税制上の優遇措置もある。安全性が高く、しかも平均5%台という高利回りは投資家にとって魅力的なはずだ。遠くない将来、日本のREIT価格が見直される可能性は高いと考える。
 実際、これを先取りする動きもある。三菱東京UFJ銀行はREIT商品を店頭販売する準備を進めている。三菱地所系のREITが実施した増資では、個人投資家に試験的に商品を販売したがすぐに完売したという。銀行の窓販ルートでREITが扱われるようになると、これまで一部の投資家しか手を出していなかったREIT市場が大きく変化するきっかけになるだろう。
 5月末の株価下落では、REIT指数は日経平均に比べて底堅さを見せた。投資のタイミングは近づいているかもしれない。

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