社会的、文化的違いは経済成長に影響するか?

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 リーマンショック以後の景気低迷を受け、各国では成長戦略をどう描くのかが重要な政策テーマとなっている。だがどうすれば高い経済成長を実現できるのかというメカニズムについては、実はよく分かっていない。

 リーマンショックという未曽有の出来事によって、はらからずも各国の経済的な基礎体力が明らかになった。先進国の中で、経済成長を持続できる国とそうでない国が、鮮明に分かれてきているのだ。

 だが各国の経済政策を比較してみても、それほど大きな違いがあるわけではない。だとすると、各国の文化的、社会的背景が、実はそれぞれの経済成長に大きく影響しているという仮説が浮かび上がってくる。
 社会的、文化的な違いが経済成長に関係するのか探ってみた。

成長する国と停滞する国に文化的違いはあるか?
 主要先進国もしくはそれに準じる国で、リーマンショック後の好調な経済成長を見せているのは、米国、英国、ドイツ、オランダなどである。一方、低成長あるいはマイナス成長になっているのは、フランス、日本、スペイン、イタリアなどである。

 リーマンショック後の経済政策に大差がないと仮定すると、両グループを分ける違いは何だろうか?日本は東洋圏なので除外すると、経済が好調なのはプロテスタント文化圏あるいはアングロサクソン文化圏の国であり、一方低成長なのはカトリック文化圏であることが分かる。

 今の時代、宗教が直接経済成長に影響してるとは思えないし、安易に文化圏を定義するのは結論をミスリードする可能性もある。だが、広い意味での文化的、社会的背景が経済成長の違いに影響を与えている可能性は否定できない。

 各国の社会的、文化的背景を比較するために、ここ1年の間に、様々な国際的組織で発表されたランキングの結果を調べてみた。そこには一定の傾向を見つけだすことができた。
 図1は、民主主義レベル、英語力(対外的なオープン度合いの指標とみなした)、男女平等レベル、報道の自由について、主要国のランキング結果を記載したものである。民主主義レベルはエコノミスト誌、英語力はEF Education First社、男女平等レベルは世界経済フォーラム、報道の自由は、国境なき記者団によるものである。


 ランキングを見てみると、各テーマで上位グループを形成しているのは、北欧、ドイツ、英米というプロテスタント文化圏もしくはアングロサクソン文化圏の国で、逆に下位グループを形成しているのは、カトリック文化圏と日本であった(ギリシャは正教圏なのでカトリックに近いと解釈できる)。

 この結果を見ると、社会の透明性や価値観の多様性などについては、プロテスタント圏の方が他の文化圏よりも高いということが分かる。

文化的違いを定量化するホフステッド・モデル
 文化的な違いを定義することは極めて難しい。だが定量的なアプローチで文化的違いを明らかにする手法も存在している。代表的なのが、ホフステッド・モデルというものである。これはグローバル企業であるIBM 社における40カ国11万人の従業員の価値観を比較し、仕事に関連する文化の差異を明らかにしたものである。

 ホフステッド・モデルの中には、権力格差と個人主義という項目がある。権力格差とは、権力の不平等を社会の構成員がどの程度受け入れているのかを示す指標である。個人主義は読んで字の如く、個人が集団に統合されている度合いを示している。
 透明性が高く、価値観が多様な社会は、権力格差が小さく、個人主義が強いことが推察される。ホフステッド・モデルにおける2つの項目の評価結果と、上記のランキングの中から男女平等ランキングの結果を組み合わせ、「社会のオープン度合い」として再指数化した。この数値とリーマンショック後の名目GPD成長率を比較したのが図2である。


 結果はかなり明白であった。社会のオープン度合いとGDP成長率がともに高かったのは、英米アングロサクソン圏と北欧やドイツなどのプロテスタント圏であった。逆にカトリック圏のイタリア、フランス、スペインの成長率は低く、社会のオープン度合いも低いことが分かる。フランスは多少、成長率が高いものの、明らかにイタリア、スペイン、日本のグループに属すると解釈できる。

オープンな社会は経済成長率が高く株価も好調だ
 ではリーマンショック後の各国の株価推移はどうなっているのだろうか?図3は米国、英国、ドイツ、フランス、スペイン、日本の合計6カ国の株価推移を示したものである。

 昨年末からのアベノミクスによって日本株が抜け出しつつあるが、少なくとも2012年前半までは、くっきりと2つのグループに分類することができる。やはり米国、英国、ドイツの株価は経済成長を反映し、良好なパフォーマンスであった。一方、フランスや日本は低迷が続き、財政破たんを起こしたスペインと大して変わりない水準をウロウロしていた。


 官邸ではアベノミクスの3本目の矢となる成長戦略に関する議論が続いている。そこでは、ターゲティング・ポリシーなど、下手をするとバラマキにもなりかねない政策もちらほらと見受けられる。
 だがこの結果を見れば、高い経済成長を実現するためには、小手先の政策よりも、市場をオープンにすることや、透明性を確保するという基盤整備が重要であることが分かる。経済成長に王道はないのである。

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