中国・新指導部の顔ぶれから今後の方向性を探る

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 中国・北京で開催されていた全国人民代表大会(全人代=国会に相当)が3月17日閉幕した。一足先に発足していた中国共産党の最高指導部に引き続いて、政府組織の人事が確定したことで、習近平-李克強の新体制が本格的にスタートすることになる。

 中国は、経済成長の持続と格差の是正、環境問題への対応など課題が山積している。中国の新指導部は、既得権益層と新しく台頭してきた中間層との間で、難しい舵取りを迫られている。

 日本にとっては市場としての中国の将来と、領土問題に対するスタンスがもっとも気になるところだ。中国新指導部の顔ぶれから今後の中国の方向性を探った。

中国の最高権力は共産党。政府組織を統括するのは国務院
 共産国家である中国は、日米欧などの民主国家とは政治体制が異なっている。中国の経済面を分析する上でも中国の政治体制の理解は不可欠だ。

 中国は共産国家なので共産党の一党独裁となる。民主国家にあてはめれば、主権者は国民ではなく共産党と考えれば分かりやすい。中国政府は主権者である共産党の意向にしたがって統治を行う。したがって、政府組織の上に共産党が存在する形となる。
 中国共産党のリーダーは政治局常務委員会のメンバーであり、彼らは最高指導部と呼ばれる。現在は7名だが、この7名が中国の最高権力者ということになる。

 一方、中国政府の組織は国務院という役所が統括し、国務院の下に各部(日本の省に相当する)が並ぶ。国務院のトップは国務院総理(首相)と呼ばれ、共産党の序列ナンバー2が就任する。元首となるのは国家主席であり、このポストには共産党の序列ナンバー1が就任する。国会に相当する全人代の委員長には党のナンバー3が就任するが、全人代はあらかじめ決められた議案を追認する組織に過ぎず、ここで政策が議論されるわけではない。結局は、党の最高指導部と国務院の幹部によってほとんどの政策が決定されると思ってよい。

習近平氏が国家主席に、李克強氏が首相に、張徳江氏が全人代委員長に就任
 中国共産党の政治局常務委員に就任したのは、習近平(総書記)氏、李克強氏、張徳江氏、兪正声氏、劉雲山氏、王岐山氏、張高麗氏の7名である。このうち、習近平氏は国家主席に、李克強氏は首相に、張徳江氏は全人代委員長にそれぞれ就任している。
 一方政府組織である国務院では、李克強首相を補佐する副総理として、張高麗氏、劉延東氏、汪洋氏、馬凱氏の4名が就任した。このうち筆頭副首相である張高麗氏は、共産党政治局常務委員会のメンバーである。その他の副首相は常務委員会のひとつ下の党組織である政治局委員のメンバーとなっている(図1)。


 中国の政策は各地域の意見を調整しながら党の最高指導部内で決められていく。また党には政治局とは別に中央軍事委員会というものも存在している。共産党における人民解放軍の影響力は絶大なので、こちらの意向も政策に反映される。ここで形成されたおおまなか政策が、国務院という行政組織によってより細かな政策として実施される。

 もっとも国務院には実務官僚が多く、政策の現場をよく知っている。国務院の官僚は党からの意向だけで動いているわけではなく、国務院側の意向も党に反映されることになる。また国務院と党の間で人事の移動もあり、複合的、重層的な形で政策が決定される。このため、中国の政策決定プロセスは外部からはわかりにくい。

現在の中国指導部はねじれ状態
 全人代終了に際して演説を行った習近平国家主席は「中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現することは、国が豊かになり、強くなることだ」とし、経済面、軍事面の両方において国力を増大させる方針であることを強調した。一方、李克強首相は記者会見において、持続可能な経済発展、格差の縮小、社会正義の実現などを当面の政策課題として列挙した。

 党を代表する習近平氏と政府を代表する李克強氏では、求められる役割が異なっているが、それを差し引いても両者の方向性はあまり合致していない。というのも、両者は対立派閥に属しており、基本路線が異なっているからだ。

 習近平氏は太子党と呼ばれる共産党高級幹部の子弟を中心としたグループに属しており、長老として党内で絶大な権力を握っていた江沢民元総書記にも近い。太子党や江沢民グループは、いわば既得権益者であり、国営企業や公共工事をめぐって強大な利権を保持している。

 一方李克強氏は、前国家主席であった胡錦濤氏のグループに属している。胡錦濤グループは主に、共青団(中国共産主義青年団)と呼ばれる青年組織を背景とした派閥で、いわば党のエリート学校を卒業した官僚集団だ。
 彼らは経済的な権力基盤を持っておらず、太子党や江沢民グループから利権を奪うため、行政機構を大胆に改革しようと試みている。

 一般的には太子党や江沢民グループは保守派、胡錦濤グループは改革派と呼ばれているが、政治局常務委員のメンバーは李克強氏以外は保守派か保守派に近い人物で占められており、改革派は劣勢だ。
 だが国務院の副総理には、胡錦濤氏に極めて近い劉延東氏と汪洋氏が就任しており、こちらは改革派の影響下にあるといってよい。

経済政策は国務院主導、外交面は党主導か?
 これまでの中国は、党総書記と国務院総理には同じ派閥の人物が就任してきた。だが今回の新体制は一種のねじれ状態でスタートしている。当面はイデオロギー的な面では保守派の意向が、経済政策の面では改革派の意向が主流となり、各局面で妥協が図られる可能性が高い。

 具体的にいうと、経済政策においては、改革派が掲げる各種の規制緩和、市場開放、人民元の自由化などが進展する可能性が高い。当初、経済政策については保守派における経済エキスパートの王岐山氏が主導権を握り、党主導で実施されるとの見方もあったが、王氏は規律委員会の担当となった。

 一方国務院では、やはり経済の専門家である馬凱氏が副総理に就任し、李克強氏をサポートする体制がより明確になった。李克強氏は米国の財界人やファンド関係者と頻繁に面談しており、市場開放に向けた準備は水面下で大きく進んでいると思われる。だが国務院の政策については、当然党からの牽制球がある。諸改革に対しても保守派の利権を大きく破壊しない程度という条件が付くことになるだろう。

 一方、対外政策面では保守派が占める党が主導権を握り、対日強硬路線が堅持される可能性が高い。だが過度な対外強硬路線は経済開放にマイナスとなるため、経済政策とは逆に保守派がある程度の妥協を強いられることになるだろう。

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