景気回復は本物か?

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 アベノミクスに対する期待先行で始まった株式市場の上昇だが、その勢いは現在も勢えていない。為替についても90円台後半が完全に定着しつつある。3月決算の企業の中には円安を背景に業績の上方修正を見込むところも出始めており、いよいよ景気が回復してきたとの声も聞かれるようになってきた。高額商品の売れ行きも好調だという。
 一方で、現在の株高と円安は期待感のみが根拠になっており、実態経済は何も変わっていないという見方も根強い。アベノミクスによる株高と円安は、果たして実体経済に効果を及ぼしているのか?最新の景気指標を用いて検証してみた。

株高で富裕層の消費に火が付いた?
 年明け以降、高級品の売れ引きが絶好調だという。一般に株価が上昇するとキャピタルゲインを得た富裕層を中心に高額商品への支出が増えるといわれている。高額商品の販売動向については、百貨店の売上高を見ればある程度把握することが可能だ。
 図1は、日本百貨店協会が毎月算出している百貨店売上高概況の推移(前年同月比)である。これによれば確かに2012年の年末から高額商品の売り上げ増加が顕著になっている。


 2013年1月における「身のまわり品」(高級ブランド品の多くが含まれる)の売り上げは前年同月比3.6%の増加、「美術品・貴金属」の売り上げは前年同月比6.8%の増加であった。身のまわり品については3ヶ月連続の増加、美術品・貴金属については5ヶ月連続の増加である。全体の売り上げは前年同月比で0.2%であることを考えると高級品の販売が好調であることが分かる。

 リーマンショック前の2008年からの推移を見るとその傾向はさらにはっきりする。震災の反動で前年同月比が急上昇した2012年3月を除くと2012年後半からの伸びは以前に比べて顕著である。高額商品の伸びは日経平均の推移と歩調を合わせており、株高による資産効果で富裕層の消費が伸びているという説には一定の説得力があるといえるだろう。

消費者マインドには明らかな改善傾向が見られる
 仮に富裕層の消費が伸びたとしても、それが実態経済に影響を及ぼすには時間がかかる。だが一部消費者のマインドが変化すると、他の消費者のマインドも変化してくる。さらにそれが一部の事業者にも影響を及ぼすことになる。

 消費動向調査は、内閣府が毎月公表しているもので、消費者における「暮らし向き」「耐久消費財の買い時判断」などについて指数化(消費者態度指数)したものである。
 景気ウォッチャー調査も、同じく内閣府が毎月実施しているもので、タクシー運転手、娯楽施設の従業員など、景気動向を肌で感じる職業の人に景況感をヒアリングして指数化したものだ。
 両者は景気の先行指標といわれており、今後の景気動向を予測する上では重視されているものである。図2は2008年1月から2013年2月までの両指数の推移と日経平均を記載したものである。


 2013年1月の消費者態度指数は43.3ポイントと5ヶ月ぶりの増加となり増加幅も4.1%と極めて大きかった。続く2013年2月も44.3ポイントと1.0ポイント増加している。景気ウォッチャー調査も同様に、2012年10月から4ヶ月連続で増加しており、増加幅も4ポイント前後と大きい。
 両指標は日経平均の上昇とタイミングを同じくしており、アベノミクスに対する期待感や株高が消費者心理を向上させていることが分かる。

企業の景況感は規模や分野で明暗が分かれる
 では企業は現在の景況感についてどう見ているのだろうか?法人企業景気予測調査は、内閣府と財務省が四半期ごとに実施する調査で、企業経営者に自社の景況感や売上高、需要などについて見通しを尋ねるというもの。用いられる指標はBSI(Business Survey Index)と呼ばれ、景気上昇と答えた企業の割合から下降と答えた企業の割合を引いて算出される。
 四半期ごとの調査だが2012年12月から2013年2月までの調査結果が3月に出ているので、比較的最近の動向を知ることができる。結果は大企業と中小企業、製造業と非製造業でくっきりと明暗が分かれるものとなった(図3)。


 製造業でかつ大企業のBSIは-4.6%で前回調査(2012年11月)よりも5.7ポイント上昇している。また、非製造業でかつ大企業のBSIは+4.0%で前回調査よりも6.9ポイントの上昇となった。大企業においては、若干だが景況感の向上が見受けられる。
 だが製造業でかつ中小企業のBSIは-28.4%と前回よりも7ポイント下落となり、非製造業で中小企業のBSIは-15.8%とほぼ横ばいの状態が続いている。

 大企業の景況感は良くなっているが、中小企業にとっては景気回復の実感がまだなく、中小の製造業にいたっては足元で状況はさらに悪化している。また同じ大企業でも製造業と非製造業では数値に開きがあり、製造業の置かれた環境は依然として厳しいことが分かる。

設備投資の状況はボロボロ
 製造業の環境の厳しさは受注に関する統計を見れば明らかだ。国内の設備投資に関する重要な指標といわれる機械受注統計では、自動車以外の分野では一貫して受注の減少か横ばいが続いてきた。かろうじて自動車関連からの受注が上向いていることで全体のバランスを取っているという状況だ(図4)。


 特に一般機械と電機分野からの受注はリーマンショック後のピークだった2011年から約30%も減少しており、総崩れといった状況だ。大手電気メーカの多くが存亡の危機という状態であることや、中国経済が失速している状況を考えるとこの結果は当然なのかもしれない。精密機器も電機ほどではないが下落が続いている。国内需要の依存度が高いITはほぼ横ばいという状況だ。

結局はバブル期待か米国頼み?
 アベノミクスが実態経済に効果を及ぼすためには、ひとつには、株高→資産効果による個人消費増加→消費全般の増加→企業業績の回復、という道筋が考えられる。これは主に内需関連の企業が主導する景気回復である。もうひとつは、円安→輸出企業の業績回復→賃上げ→個人消費増加、というサイクルがある。これは主に製造業が主導する景気回復である。

 バブル期を除いて、従来の日本はすべて製造業主導で景気が回復し、それが個人消費に波及して持続的な景気拡大サイクルとなってきた。だが今回は、まず個人消費から景気が持ち直すシナリオを描こうとしているようにも見える。過去の事例に従うのであれば、日本では製造業の業績が回復しないと本格的な景気上昇には結び付きにくいという結論になる。

 だが一方で日本にはバルブ経済という例外もある。たとえ製造業で本業が回復しなくても、円安による海外企業からの配当金増加や株高によるキャピタルゲインによって、企業の最終利益は増額となる可能性がある。そうなれば、株高の連鎖がさらに進み、実態経済が本当に回復してくることになるかもしれない。それは一般にバブルと呼ばれている現象ではあるのだが・・・・・。
 
 バブルにならずに景気が回復する唯一の道筋は米国景気の回復である。米国の景気は予想以上に拡大しており、再び日本経済の牽引役になってくれる可能性が高まっている。多くの市場関係者が米国景気の動向を気にしているのは、この理由からだ。

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