為替を動かす正体を探る(第1回)

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 円安方向にトレンドが変化したかと思われたドル/円相場だが、ここにきて再び円高リスクが高まってきている。TVや新聞では為替が変動するたびにもっともらしい解説がなされるが、そのほとんどが後講釈の類で投資家の役に立つ情報はあまりない。本当のところ為替は何によって動いているのか?これを知るためには過去の為替の動きがどの指標と関連性があったのか徹底的に調べるしかない。物価、金利、国力、国際収支など、為替と関連性があるといわれる各指標と実際の為替レートの動きについて検証した。

本当のところ何が為替レートを変動させているのか?

 輸出主導型の製造業を主力産業とする日本は、為替の影響を受けやすい体質を持っており、株式市場は為替によって大きく変動する。もっとも、経済のグローバル化(製造拠点の海外進出)が進み、日本の製造業は以前ほど為替の影響を受けないともいわれている。しかし、少なくとも、株式市場へのインパクトという点においては、為替(特に円高)の影響は、依然として大きいというのが実情だ。
 さらに、長期的視点に立つ投資家にとっては、為替の動向は、長期的な投資パフォーマンスに大きな影響を与える。海外資産への分散を含め、最適なポートフォリオを構築するためには、長期的な為替動向の分析は避けて通ることができないテーマである。
 為替レートを決める要因としてよく投資の教科書などに書いてあるのは、両国間の「金利差」である。しかし今の円高関連ニュースのほとんどは「日本が金融緩和しないので円高になる」あるいは「欧州危機と米国景気の不透明感で安全通貨の円が買われている」という論調だ。政治家も同じ文脈で日銀に対する圧力を強めているが、金利差についてはあまり触れられていない。一方では、経済力の強い国の通貨が買われる、というような定性的な理屈付けも一般的に通用している。
  図1は、1971年のニクソンショック以降、現在までのドル円為替相場の推移を示したものである。よく知られている通り、1ドル360円の公定相場であったドル円の交換レートは、変動相場制への移行後、途中に大きなブレはあるものの、現在まで一貫して円高(ドル安)のトレンドで推移してきた。
 特に1975年から1980年にかけての米国の経常収支の悪化を原因とするドル危機や、1985年のプラザ合意による円高は、急激な為替変動をもたらした。その後は協調介入などの効果もありドル円はある程度の落ち着きを見せていたが、2008年のリーマンショック以降、円高の傾向が再び強くなってきている。  

為替レートを決める4つの要因

 それでは、為替はどのような要因で変動するのだろうか? 一般的に為替を変動させる要因としてよく耳にするのは以下の5つである。

①物価(購買力平価)
②金利(金利差)
③マネー供給量(量的緩和策)
④経済力(GDP成長率)
⑤国際収支(経常収支)

 購買力平価は、一物一価の原則をもとに、物価が上昇した国の通貨は下落し、物価が下落した上昇した国の通貨が上昇することで、市場が物価の調整を行い、これによって為替相場が変動という理論である。
 各国の物価を比較する基準としてよく用いられるのが、いわゆるビックマック指数である。マクドナルドのビックマックが各国でいくらするのかを比較するというものだ。購買力平価の理論では、ある国のビックマックの絶対価格が永遠に上昇することはあり得ず、物価が上昇した国の通貨は下落して、最終的にビックマックの価格は一定レベルに収束することになる。
 二国間の金利差も為替を動かす要因としてよく用いられる。金利が高い国の通貨は買われやすいというものだが、高金利の国は物価が高く、為替に下落圧力が強まるため、物価による変動要因とは最終的に矛盾する。
 一方、ここ数年の円高に対する説明としてよく耳にするのが、中央銀行のマネー供給量(マネタリーベース)によって為替が変動するという考え方である。
 ある国の中央銀行が量的緩和などによって通貨発行量(マネタリーベース)を増加させると、マネーの価値が増加分だけ下がり、その国の通貨は下落するというものである。
 2008年のリーマンショック以降、米国は立て続けに量的緩和策を実行し、日本は急激な円高に見舞われたことから、最近、注目を浴びることが多くなった。
経済力による為替変動は、高い経済成長を実現できている国の通貨は、その将来性の高さから買われるという考え方である。
 国際収支は、貿易や投資による外貨の獲得状況が為替相場を左右するという考え方である。貿易で外貨を獲得した企業は、国内での経費を賄うため、得られた外貨を売って、自国通貨を買うことになる。この経済行為によって貿易で利益が出ている国の通貨は買われて上昇する。一方、経常収支の赤字が続く国では、資本が流出するため、自国通貨が売られ、外国の通貨が買われることになり、為替相場は下落する。米ドルが下落する理由としてよく用いられる。

相関性が高い購買力平価による為替レート

 図2は図1の市場レートに加え、購買力平価による理論的な為替レートを重ねて記載したチャートである。


 購買力平価による理論的な為替レートは、1978年1月の為替レートと卸売物価指数を基準として、その物価変動から理論的な数値を算出したものである。
 購買力平価による理論的な為替レートは、長期的には市場レートの動きとよく似た動きとなっており、購買力平価による為替レートを中心に上下を行き来している。市場レートは、購買力平価によるレートを中心に行き来すると考えると、1985年のプラザ合意は、購買力平価からの乖離が大きくなりすぎた市場レートを修正するための動きであると解釈することができる。また、1995年からの強調介入によるドル買いは、その逆の動きということになる。
 購買力平価による理論は、ここ数年の円高についてもある程度説明することができる。日本は長期的なデフレが続いており物価が上がらない状態である。一方の米国はリーマンショック後の量的緩和策もありインフレ傾向が強く、円高は一方的に進行することになる。
 それでは金利差はどうだろうか?
 図3は購買力平価の考え方に金利を当てはめたものである。変動相場制移行後、実質的なゼロ金利政策が始まる1999年までは、金利差と為替レートは一定の相関性がみとめられる(バブルとその崩壊の前後は異常値)。しかし、日本の低金利政策が恒常的になってくると、実際の為替レートと理論値は逆のトレンドになっているようにみえる。

 ここまで見てきた限りでは、為替レートに影響を与えるファクターは物価だということがわかる(あくまで長期的な視点に立てばの話であるが)。現在の日本にあてはめれば、日本のデフレが終了するときが為替の転換点ということになる。
 それでは、中央銀行の新しい役割として注目を集めている量的緩和策は為替にどう影響を与えるのだろうか?

量的緩和は為替レートに影響を与えるのか?
 
 近年、円高の要因としてよく取り上げられるようになったのが、各国の通貨供給量の違いによって為替レートが変動するという考え方である。特に、2008年のリーマンショック以降、米国が猛烈な勢いで量的緩和策を進めてきたことを背景に、日本も円高対策として積極的な量的緩和を行うべきとの声が大きくなっている。
 図4は、市場レートと、日米両国のマネタリーベースの比率をもとに算出した理論的な為替レートの両者を記載したチャートである。

 図4では、日本のマネタリーベースを米国のマネタリーベースで割った数値をもとに為替レートを計算している。したがって、米国のマネタリーベースが増加すると、ドル安(円高)になり、逆に日本のマネタリーベースが増加するとドル高(円安)になる。
 マネタリーベース比率による為替レートの推移は、実際の市場レートに連動することもあるが、連動していない時期もあり、明確に相関があるとは言いにくい。
 1985年のプラザ合意以降、急激に進んだ円高に対して、日本は低金利政策を実施しマネタリーベースを増加させたが、円高は進行した。バブル崩壊前後から2000年頃までの期間については、マネタリーベース比率による理論レートと市場レートは似たような動きを見せている。しかし、2003年以降の日銀による量的緩和策は円高に対してまったく効果がなく、理論レートと市場レートの動きは大きく乖離した。
 さらに2008年以降の米国の量的緩和策についても、米国のマネタリーベースの増加に比べれば、円高の進行はそれほど急激ではなく、マネタリーベースの比率が為替レートを決定しているとの考え方には、限界があることが分かる。
次回に続く)

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